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とある一人の男が占い師になるまで #27 ~信用金庫職員編~

ついに直属の上司である渉外係長に対し、信用金庫を退職する旨を伝えた男であったが、とりあえず係長は退職する事を認めてくれた。
しかし、まだ支店長を始め、他の上司や先輩には一切伝わっていない。
果たして、男はこのまま無事に信用金庫を退職する事ができるのか?

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『昨日はどうもありがとうございました』

出勤して早々、私は昨日の件で渉外係長に御礼を言った。

「ああ、今日の夕方、俺から支店長に言うから」

『はい、分かりました』

昨日、渉外係長に信用金庫を辞める旨を伝えて、とりあえず第一関門は突破したが、ホッとしたのもつかの間、今日は恐らく支店長と面談する事になるだろう。

まだ先輩職員は出勤しておらず、渉外部屋にいたのは私と係長の二人だけだった。

「............................................」

『............................................』

お互い、特に会話を交わす事もなく、黙々と今日の業務の準備をしていたが、何となく気まずい雰囲気が漂っていた。
昨日の今日だけに、私も何を話していいか分からなかったからだ。

私が辞める事に対して、本当はどう思っているのだろうか?
係長の真意は分からない。

係長には色々と厳しい事も言われたし、叱られた事もあった。
係長に対して腹が立ったこともあった。

しかし、今の私にとって、もうそんな事はどうでも良くなっていた。
昨日、係長が私の辞意をしっかり受け止めてくれた事に対し、今は感謝の気持ちの方が強くなっているからだ。

それに、今信用金庫内で、私にとって唯一の味方は係長だけかもしれないからだ。
今日の夕方、係長が支店長に対してどのように報告するのかは分からないが、今はとにかく係長を信じるしかないだろう。

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そして夕方、係長が私にこっそりと声をかけてきてくれた。

「今から言ってくるから」

『はい、お願いします』

私も小声で返事をした。

渉外部屋には、先輩だけでなく、あの債権管理部の部長代理もいたので、色々と悟られたくなかったという事もある。

5分……10分……15分……

いや、実際には正確な時間など把握していなかったのだが、私の中では早く係長に戻ってきてほしいという気持ちと、まだ戻ってきてほしくないという気持ちが、半々ぐらいに入り混じっていた。

支店長と係長は一体どんな話をしているのだろうか。
考えれば考えるほど不安な気持ちが増してきてしまう。

そして、20分ぐらいが経過しただろうか。
係長が戻ってきた。

係長は私の顔を見て、小声で、

「言ってきた」
「あとで支店長が来るから」

とだけ伝えた。
私も小声で、

「ありがとうございます」

とだけ返事をした。

そして、さらに10分ぐらい経過した頃、ついに支店長がやってきた。

「山内、良いか?」

『はい!』

私は支店長についていき、応接室の方で話をする事になった。

(いよいよだ……)

私は覚悟を決めて、応接室に入っていった。

支店長がゆっくりと口を開いた。

「気持ちの面では、もう固まってるんだな?」

『はい……』

「そうか……」

私はできるだけ情に流されず、あくまで淡々と答えるように意識した。
ちょっとでも気持ちにブレがあると思われたら、引き止められるかもしれないからだ。

「さっき係長から話を聞いた時、俺は物凄いショックだった」
「でも税理士を目指すって決めたのなら、それに向かって頑張れよ」

支店長は、私を引き止めるような事はせず、むしろ私を応援するような感じで話してくれた。

『ありがとうございます』
『頑張ります!』

その後も支店長とは少しだけ話をしたが、多くは語らなかった。
もちろん、これまでの感謝の気持ちなども精一杯伝えたつもりだった。

ついに支店長も了承してくれた。
支店長さえ了承してくれれば、もう大丈夫だ!

(これでやっと辞められる……)

私は安心して、その日は帰路についた。

しかし、本当のラスボスは支店長ではなかった。
後日、予想だにしない人物が現れ、私の前に立ちはだかったのだ!

➤ To Be Continued


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