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とある一人の男が占い師になるまで #20 ~信用金庫職員編~

渉外係に配属されてから4カ月近く経とうとしていたところで、本部から思わる刺客が送り込まれてきた。
債権管理部の部長代理という地位の彼に対し、最初に交わした会話の時点で男は何となく嫌な印象を抱いていたが、この部長代理から今後色々な意味で影響を受ける事になる。

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「山内君、今抱えている融資の案件はないの?」

私にこう語りかけてきたのは、直属の上司である渉外係長ではない。
支店長でも次長でも融資係長でもない。

そう、先日本部から送り込まれてきた債権管理部の△△部長代理だ。

……いや、なぜM支店の人間でもない「あなた」にそんな事を聞かれなきゃいけないのか?
これじゃあまるで、上司が一人増えたみたいじゃないか

正直言うと、今抱えている融資の案件などない。
しかし、説教されたら嫌なので、とりあえず適当に答えておく事にした。

『現在進行中の案件はないですが、近い将来案件になりそうな候補はいくつかあるので、頑張って話を続けてみます』

まあ、あながち嘘ではない。

私が日々集金している個人事業主や法人の中で、現在M支店から借入を行っている先はいくつかあるので、いつかまたお金を借りてくれるかもしれないからだ。
ただし、近い将来に借りてくれる気配はないので、かなりハッタリを利かせている部分もある。

「日々どんな営業活動しているの?」

ところが話はまだ終わらず、まだ私に色々と話しかけてくる。
いい加減ウンザリしていたところに、タイミングよくお客様から私に電話がかかってきた。

(助かった……)

そうこうしているうちに、先輩職員が部屋に入ってきた。

私がお客様との電話を終えると、今度は△△代理が先輩職員に話しかけていた。

代理「〇〇君は今抱えている融資の案件はないの?」

先輩「はい? いや、ないです」

代理「え、ないの!?」

先輩「はい」

代理「もうすぐ役職になるんだからさー、もっと頑張らなきゃダメでしょ」

先輩「……」

そう言って、△△代理は渉外部屋を出ていった。

先輩「……うるさいなー、ほっといてくれよ」

先輩はかなり怒っているようだ。

『あの人、さっき私にも同じような事聞いてきたんですけど……』

「ああ、気にしなくていいよ」

先輩は気にするなと言うけれど、あれだけ隣の席から圧力をかけられたんじゃ、気にするなという方が無理な話だ。

「実はあの△△代理って、以前はK支店の渉外係長だったんだけど、あまりにも部下の人たちに無理難題な事ばかり言うもんだから、部下の人たちから本部にクレームが入ったらしく、それで本部の債権管理部に飛ばされたんだよね」

『え、そうだったんですか!』

「だから、あの人がM支店の担当になるって通達を見た時、大変だろうなとは思っていたんだよ」

知らなかった……。
そんな人がM支店の常駐になるなんて、本当に勘弁してほしい……。
先輩が通達を見た時に嬉しくなさそうな表情をしていたのも頷ける。

そして質の悪い事に、△△代理は私の直属上司である▽▽渉外係長がいる時には比較的大人しいのだが、係長がいない時となると、やたらと私や先輩に絡んでくるのだ。
どちらかと言うと、私よりも先輩に対しての方がキツく当たっているような気がする。

「まあ、言ってる事は間違っていないんだけどさ」
「それをいざ実行しろと言ったって、融資のこと以外にも渉外係は日々色々な事をしなきゃいけない訳だし、M支店の実情を分かってない人にアレコレ言われたくないよね」

先輩の言う事は最もだと思う。

渉外係には融資案件の獲得以外にも日々色々な業務をこなしていかなければならず、時間的に余裕がないというのが正直なところだ。
元々4人で回していたエリアを3人で回しているのだから、無理もない。

「ちなみに、△△代理は渉外係長時代、業務の効率化を図るために、集金先を何件か切ってまでして、融資案件の獲得に時間を費やしていたらしいよ」
「人間的にどうかと思うけど、K支店時代は融資案件獲得成績は全支店でトップクラスだったし、
融資の知識は相当あるから、債権管理部に回されたんだろうね」

そうまでして融資案件の獲得に力を注いでいたのか。
これは、直属の上司である▽▽係長とは真逆の考え方だ。

私は一体どうしたら良いのだろうか?

本当は私だって、融資の事をもっと深く知りたいんじゃないのか?
大体、私は元々融資係を希望していたじゃないか

先輩の話だと、やはり△△代理は融資係を経験してから渉外係を担当したそうだ。
一方、直属上司の▽▽係長は、融資係を経験できずに20年近くずっと渉外係だけを経験しているから、未だに融資の事はよく分かっていない。

たまたま運よく融資係を早い時期から経験できたというだけで、あんなに威張っていられるんだから、いかに融資の知識があるかどうかというのが、金融機関の営業マンとして大切なのかが分かる。

確かに△△代理の事は好きではない。
特に、あの「人を見下したかのような物の言い方」はハッキリ言って大嫌いだ。
 
けれども、少額の積立預金の回収のために、何件も何件も個人宅を訪れている日々の集金業務にも疲れを感じている。
それに、個人事業主や法人の売上金回収にしても、もう少し回収頻度を減らす事ができるのではないだろうか。

悩んだ結果、私は集金業務の効率化を図る事を決めたのだった。

To Be Continued ➤




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