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とある一人の男が占い師になるまで #12 ~信用金庫職員編~

信用金庫に入社してから半年が経ち、先輩職員の退職や人事異動など心を揺さぶる出来事が起こりつつも、何とかM支店で本出納業務を続けてきた一人の男。
そしてまたある日、男の気持ちを揺さぶる大きな出来事が起こる。

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「若いうちに、できるだけ多くの試験に合格しておくように」

これは支店長からよく言われていた言葉だ。

金融機関に入社すると、様々な試験を受けさせられる。
それは金融機関で仕事をする上でも、今後昇進を目指す上でも、ある程度の知識がある事を客観的に証明できるものが必要だからだ。

中でも代表的なのが銀行業務検定と呼ばれるもので、財務税務法務年金など金融業務に関わる様々な種類の試験がある。

私が現在担当している本出納業務には、これらの検定試験の知識が活かされる事は皆無だったが、いずれ融資業務や渉外業務を担当する事になった場合には、これらの知識が活かされる機会は多いと思う。

そもそも私は興味のある事を勉強するのが好きな方だったし、単純に資格試験に合格するのが嬉しかったので、銀行業務検定は積極的に受検しようと思っていたのだ。

1年目の秋から銀行業務試験を受ける事にしたのだが、まず最初に私が受けたのは財務3級だった。
学生時代に日商簿記検定2級を取得した事もあって、財務系の科目は最も取り掛かりやすい科目だと思ったからだ。

実際、テキストを読んで問題集も解いてみると、やはり私にとっては簡単な問題ばかりだった。

『まあ、恐らく合格するだろう……』

そう思って、私は本番の試験に臨んだ。
案の定、日商簿記検定2級に比べると遥かに簡単なレベルだったので、スラスラと問題を解く事ができた。

そして試験を受けてから数日後、M支店に財務3級の解答用紙が配られてきたので、私は問題用紙に書き込んだ自分の解答内容と照らして、答え合わせをした。

結果は……

なんと100点満点だったのだ!!


正直、合格するとは思っていたが、まさか満点を取れるとは思っていなかった。

「スゲーーーーーーー!!」
「えーーーースゴーーイ!」
「頭イイーーーーーー!!」

たちまち、私が満点を取った事はM支店中に知れ渡り、各職員たちから絶賛の声が上がっていた。

後日、私は本部に呼ばれて表彰までされた。
どうやら銀行業務検定で満点を取るという事は、この信用金庫では稀に見ぬ快挙だったようだ。
それだけでなく、全職員に配られる社内報にまでも、私が財務3級で満点を取った事が記載されたのだ。

それ以来、私は事あるごとに「頭の良い人」と呼ばれるようになった。
M支店の職員だけでなく、他の支店の一部の職員からも、「今年のM支店の新人は凄く頭が良いらしい」と噂されるようになっていた。

『なんだろう……この違和感は……』

たまたま私は日商簿記検定2級を持っていたから、財務3級を100点満点で合格する事ができただけだ。
本当に大した事をしたつもりはないのだが、やたらと周りの職員たちからは「頭の良い人」だと言われてしまう。

決して嫌味ではなく、純粋に評価してくれている事は分かっている。
しかしハッキリ言ってしまうと、私は自分の事をそんなに「頭が良い」とは思っていないのだ

勉強ができるからと言って、頭が良いとは限らない。
勉強ができるだけで評価されるのは学生時代だけで、社会人になったら、もっと違った意味での「頭の良さ」が求められる。

だから、私は「頭が良い人」と呼ばれる事に対し、物凄く違和感というか、居心地の悪さのようなものを感じていたのだ

そしてこの事もまた、私の心に大きな葛藤をもたらすのであった。

To Be Continued ➤






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