とある一人の男が占い師になるまで #13 ～信用金庫職員編～

早いもので、信用金庫に入社してから１年を迎えようとしていた。
この１年の間、色々な事があったが、支店の雰囲気は悪くなかったので、葛藤を抱えながらも何とか仕事を続けていく事ができた。
ある日、支店長と面談する機会が設けられた。

........................................................................................................................................................

「もうすぐ１年経つけど、仕事の方はどうだ？」

今日は支店長との面談だ。

「お前は本当に頭が良いから、期待しているよ」

案の定、先日私が銀行業務検定試験の財務３級で１００点満点を取得した事についての話題も上がった。

『ありがとうございます』

私は無難に返事をしておいた。
あんまり自分の事を「頭が良い」と言ってほしくないので、さっさとこの話題を終わらせたかったからだ。

「ただ、お前はちょっと真面目すぎるところがあるな」
「これから外回りの仕事をするようになったら、もう少し自分を崩した方が良いぞ」

それに関しても、これまで何回も言われてきた事だ。
真面目であるという事は、長所でもあるし短所でもある。

いや、そもそも私は本当に真面目な人間なのだろうか？
それすらも疑問に思っている事なのだが、今はそれについてはあまり考えないようにしよう。

「４月からは、お前を外回りに出そうと思っているんだが、どうだ？」

……いや、ちょっと待ってくれ。

確かに本出納業務にはそろそろ飽きてきたし、自分の成長のためにも、２年目からは他の業務を担当したいとは思っていた。

だが、内勤で本出納業務を１年しか経験していないのに、２年目からいきなり渉外業務ってキツくないだろうか？

この件に関しては、他のM支店の職員たちからも結構話題に上がっていたのだ。
融資係や預金係の係長は、
「絶対に融資業務を経験してから渉外業務を担当した方が良い」
と言っていたし、渉外係や融資係の先輩職員たちも
「融資の知識が分からないまま渉外をやるのはキツイ」
と言っていた。

ちなみに、現在のM支店融資係の係長は、かなり優秀な人らしいのだ。
今のところ、仕事で関わる事はほぼないので、なかなか実感する機会はないのだが、部下からも上司からも本部の人たちからも認められているぐらいだから、凄い人である事は確かだ。

私とも結構気が合って、休憩中や飲み会などで色々と話をする機会もあるのだが、説教とかは一切せず、論理的に物事を考えられる人なので、話していて勉強になる事も非常に多い。
「頭の良い人」とは、きっとこういう人の事を言うのだろう。

その係長が、
「俺は支店長にも言っているだけど、山内に本出納業務を１年もやらせるぐらいなら、早く融資業務をやらせてあげて欲しいと思っている」
「これからの時代、融資の事が分からない渉外係は通用しない」
「財務３級を１００点取るぐらい勉強熱心な山内が、融資係を早く経験しないのはもったいない」
というような話をした事もある。

それに対して、支店長はどちらかと言うと、
「速めに渉外業務を経験して、お客さんに揉まれた方が良い」
といった考えの持ち主だ。
その理由は、下手に融資を知っている状態で渉外に出ると、お客さんに対して上から目線で接してしまう可能性が高いという事らしい。
そして、理想は「渉外⇒融資⇒渉外」の順番に担当する事で、それだと２回目に渉外業務を担当した時に、知識もあってお客さんの立場で物事を考えられる凄腕の営業マンになれるとの事だ。

確かにそれも一理あるだろう。
だが一方で、こんな噂話もある。
「一度渉外として外に出てしまうと、内勤に戻るのはなかなか難しい」

実際、現在のM支店渉外係の係長は、２０代前半で渉外を担当して以来、ずっと２０年近く渉外係を担当しており、未だに融資の事がよく分かっていないらしい。
こういうケースは決して稀ではなく、他の支店でも結構多いとの事だ。

実を言うと、支店長の意向に関わらず、私が２年目から渉外業務を担当する可能性が高い事は、ある程度覚悟していた事なのだ。

というのも、以前私と一緒に野球大会の応援に行った２年先輩で渉外業務を担当している男性職員が、通常だと４月に他支店へ異動する事になる。
仮にその先輩が異動する事となった場合、その代わりとなる職員が他支店からM支店に配属されなければ、事実上私しか引き継ぐ人間がいないからだ。

それでも、私は僅かな可能性を信じて、支店長には融資係を担当したいという希望を伝えておいた。

『私は、まず融資業務を担当して、融資を一通り理解してから渉外業務を担当したいので、第一希望はあくまで融資業務を希望します。』

一応、支店長は私の話に耳を傾けてくれた。

「分かった」
「検討はしておく」

そして、運命の４月１日。
いよいよ、私にとって２年目の信用金庫職員生活がスタートする。

果たして、私が担当する業務は何になるのか？
融資係か？
渉外係か？
まさかの本出納係継続か？
それとも……？

To Be Continued ➤