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とある一人の男が占い師になるまで #24 ~信用金庫職員編~

渉外係に配属されてから半年が経過し、初めての販売キャンペーンとして、個人向け国債の販売推進活動を余儀なくされた男。
持っている力をすべて出し切って、男はそれなりの販売件数は獲得できたが、販売金額としては納得いかないものがあり、やや複雑な気持ちを抱えたままキャンペーンが終了した。
しかし落ち着く間もなく、次なるキャンペーンが男をさらに追い込んでいく!

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「おいおい、またキャンペーンかよ……」

ある朝、渉外部屋で直属の上司である渉外係長が通達を見ながらボヤいていた。

「今度は何ですか?」

その言葉に反応して、先輩職員が係長に聞き返す。

「これだってさ!」

係長が先輩に通達を渡す。

「クレジットカード!?」

先輩も驚いてため息をつく。

「また提携会社とのお付き合いですか……」
「しかも年会費のあるクレジットカードなんて、一体誰が欲しがるっていうんですかね……」


「本当だよな……」
「しかも渉外係一人につき10件だってさ!」


係長と先輩から立て続けに不満の声が漏れてくる。

「という訳で、悪いけど山内も協力してな!」

『は、はあ……』

まだ通達を見ていないが、二人の話を聞いているだけでも理不尽なキャンペーン企画が始まった事は容易に分かる。

どうやら、当金庫の提携先であるカード会社からの協力を求められ、今回はクレジットカードの販売キャンペーンを実施する事になったらしい。
期間は2週間との事だ。

だが年会費が数千円程度発生するカードとの事で、年会費無料のクレジットカードが当たり前のように普及している中、一体誰が欲しがるというのだろうか?
おまけに渉外係一人につき10件の契約獲得という目標設定付きだ。

(いや、無理でしょ……)

心の中でそう呟いてはいたが、一応係長と先輩の前なので口には出さないようにした。

という事で、全く気が進まないまま、再び私のキャンペーン活動が始まった。

とりあえず私は日頃の集金先のお客様にカードの推進を行っていった。
しかし案の定、お客様の反応は鈍く、その無関心ぶりは前回の個人向け国債の比じゃないほどだ。

中には、「カードだけは勘弁して!」と避けるような素振りを見せるお客様もいらっしゃるぐらいで、まさに需要のなさを物語っていると言って良いだろう。

数日経ったが、私は1件も獲得できていなかった。
私は半ば諦めかけていたが、いくら理不尽なキャンペーンとは言え、1件も獲得できないのは渉外係として恥ずかしい事で、最初は全くやる気がなかった係長も、徐々に無言の圧力をかけてくるようになってきた。

まあ、係長の立場としても、「キャンペーンを無視して良い」なんて事は言えないだろうから、ある意味仕方のない事だと言える。

1週間が経った頃、とある個人商店のお客様にもキャンペーンの話をしてみた。
その方はかなり年輩である女性のお客様なのだが、どうやら困っている私を見て「助けたい」と思って頂いたようだ。

「分かった!」
「そうしたら、契約だけして、1カ月経ったら解約するから」
「それでもあなたの成績になるんでしょ」

『え、良いんですか!?』
『何か本当にすみません……』


「いいのいいの」
「気にしなくて大丈夫だからね!」

私は申し訳ない気持ちで一杯になった。
1か月で解約するとはいえ、お客様にとっては何のメリットもないどころか、年会費は最初に引き落とされるのだから、むしろデメリットしかない。

それでも、私に気を遣ってくれて、今回一時的に契約だけしてくれたのだ。
本当なら私は断りたかった。
しかしこうでもしないと、本当に契約なしのままキャンペーンが終了してしまい、支店の人たちにも迷惑がかかってしまうので、断れなかった。

(仕方がない……)

頭の中で割り切ろうとしても、心の中では悔しい気持ち空しい気持ちが沸々と湧き上がっていた。

結局私は、同じように『1か月経ったらすぐに解約しても良いので、何とかお願いします……』というひたすらお願い戦法を使って、あと数件ほど契約を獲得した。
ハッキリ言って、こんなの正当な手段ではないだろう。

しかしそれが精一杯だった。
それでも今回に関しては、10件到達できなかった事に対しては何の悔しさも感じる事はなかった。

それよりも、お客様にとって何のメリットもないにも関わらず、信用金庫と提携会社の都合だけしか考えていないような理不尽なキャンペーンに加担しなければいけなかった事に対して、悔しい気持ちで一杯になった。

今回のキャンペーンは、私の中でまた一段と信用金庫に対する不信感が募ってしまった大きな出来事の一つだと言って良い。

To Be Continued ➤



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