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とある一人の男が占い師になるまで #23 ~信用金庫職員編~

業務の効率化を図り、自由時間を何とか増やしたは良いものの、夏の暑さにもバテて、結局仕事をサボるようになってしまった一人の男。
他の仕事にも興味を持つようになり、モチベーションも落ちてきて、典型的なダメ営業マンになろうとしていたが、秋になって少し涼しくなってきた頃、事態は急転する!

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「これから2週間、全店舗で個人向け国債の販売キャンペーンを行います」

どうやら信用金庫として、今度国が発行する「個人向け国債」の販売に力を注ぎ、販売手数料で大きな収益を獲得したいという方針らしい。

各支店には規模に応じて「ノルマの金額」が与えられ、達成できなかった場合には、支店長や次長宛てに本部からお叱りの言葉を受けるらしい。
もちろん、それによって、支店長や次長からお叱りの言葉を受けるのは、我々渉外係となるのは言うまでもない。

一応、渉外係だけでなく、支店長や次長、融資係、窓口係なども含めて、職員全員が協力して支店のノルマを達成する事になっているが、やはり中心となるのは渉外係だと言って良いし、こういう時こそ契約を獲得してこないと、渉外係としての面目が立たない。

一人一人にノルマの金額が与えられていないのがせめてもの救いだが、全然獲得できないでいると、上長たちから叱咤激励されるのは目に見えている。

という事で、私にとっては初めてのキャンペーンとなるが、これから過酷な2週間が始まる事となった。

とにかく、私は日頃からお世話になっている集金先のお客様のところへ訪問し、その都度個人向け国債のパンフレットを渡して、何とか契約してもらえないか必死にお願いをした。
もちろん、ただお願いするだけでなく、個人向け国債のメリットなどもしっかりと伝えるように努力をした。

しかし、思っていた以上に反応は鈍かった。

露骨に嫌そうな顔をする人もいれば、興味を一切持たない人もいた。
中には、お金に余裕がないという理由で断る人もいた。

そこで私は方針を転換し、お金に余裕のある方を中心に販売の推進を行う事にした。

実は私の担当エリアには、日頃は積立集金に伺う機会がないので顔を合わせる機会はほとんどなかったものの、普通預金や定期預金の口座は持っていて、しかもかなりの預金額を抱えている資産家の方が多かったのだ。

私はそういった資産家の方々を中心に訪問し、少しでも普通預金の一部を個人向け国債の購入に充ててくれないかお願いをした。

「分かりました」
「いいですよ」
「じゃあ、少しだけなら……」

徐々にではあるが、契約を獲得できるようになってきた。
しかし、まだまだ獲得件数も獲得金額も少ない。

そこで、私はあまり気が進まなかったが、渉外係長や先輩職員も実行している「ある事」をマネする事にした。

それは、定期預金を無理やり解約させて、その金額を個人向け国債の購入に振り替えてもらう事である。

ハッキリ言って、そこまでしてまで個人向け国債を購入してもらう事に何の意味があるのか分からない。
しかし、そうでもしないと、とてもじゃないが支店のノルマを達成できるような状況ではないのである。

渉外係長や先輩職員がやっているのに、自分だけやらない訳にはいかない。
私は渋々定期預金を持っているお客様のところへ訪問し、とにかく頭を下げてお願いし尽くした。

「そんなに個人向け国債購入してほしいの?」
「じゃあ仕方ないから少しだけ購入してあげるよ」
「今定期預金更新したばかりなんだけどね……」

中には、上から目線でちょっと嫌味っぽい事を言ってくる資産家の人もいたが、今は少しでも契約の獲得が欲しかったので、とにかく我慢してひたすらお願いをした。

気が付けば、私は獲得金額こそ少ないものの、件数は支店内で最も多く獲得しているようになっていた。
支店から一番近いエリアが担当だったので、比較的多くのお客様を訪れる事ができたというのもあるかもしれないが、次第に支店長や次長からは「頑張ってるな」という声を掛けてもらえるようになった。

しかし、とにかく支店に与えられたノルマの金額が大きすぎるのだ。
小口の件数をいくら多く獲得したところで、到底達成できる金額ではない。

あと数日でキャンペーン期間が終了し、諦めかけていた頃、渉外係長が超大口の契約を獲得してきてくれた。
いわゆる、M支店では最も大口先である資産家で、渉外係長の担当エリアであるお客様なのだが、支店長と融資係長と渉外係長の3人で一緒に訪問し、見事大口の契約を獲得してきたとの事だ。

これにより、M支店のノルマは一瞬にして達成した。

『良かった……』

と思いたいところだが、同時に何とも言えない虚しさのような感情も芽生えてきた。
それなら始めから、そのお客様から1件の大口契約を獲得していれば、私がこんなになって必死に営業する必要はなかったのではないか?

営業成績で評価されるのは獲得金額の方であり、獲得件数ではない。
私がそれなりに多くの件数を獲得しても、最終的には渉外係長の方が圧倒的に評価されるのだろう。

それに、実際個人向け国債に興味を持って頂いて、前向きな気持ちで購入してくれたお客様にとっては良かったのかもしれないが、むしろ信用金庫との「お付き合い」で仕方なく購入してくれたお客様の方が多かったように思える。
使わない普通預金で購入するならともかく、定期預金を解約してまで購入してもらう事に一体何のメリットがあったのだろうか?

私はこれからも信用金庫のために、こんな気の進まない営業を続けていかなければならないのだろうか?

そして当然の事ながら、これだけで終わるはずもない。
後日、さらに意味のないキャンペーン企画が私を苦しめる事になる!

➤To Be Continued




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