とある一人の男が占い師になるまで #14 ~信用金庫職員編~
信用金庫に入社してから1年が経とうとしていた。
男は先日支店長と面談し、2年目からは融資業務を担当したいと希望を伝えたが、これが叶う可能性はかなり低い。
それでも僅かな望みを胸に託し、いよいよ来たる4月1日、運命の人事異動が発表される!
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「4月1日付の人事異動は以下の通りです」
いよいよ、私の担当業務を大きく左右するであろう4月1日付の人事異動が発表された。
私は恐る恐る通達に目を通した。
「M支店渉外係 〇〇職員(先輩職員の名前) ⇒ T支店渉外係」
やはり予想していた通り、私の2年先輩にあたる渉外係の男性職員が人事異動の対象となっていた。
問題は、その代わりとなる職員がM支店に異動してくるかどうかだ。
私はもう一度、通達に目を通してみた。
………………………
………………………
いない……
何度確認しても、代わりとなる職員の名前は見当たらなかった。
つまりこれは、私に「渉外係を担当しろ」という本部からの命令に等しいと言えるだろう。
この通達を見て、早速支店長が渉外係の係長に指示を出していた。
「山内を渉外に出すから、引継ぎをするように〇〇(先輩職員の名前)に伝えておくように」
やはり叶わなかったか……
結局融資係を担当する事はなく、私はほぼ強制的に渉外係を担当する事となってしまったのだ。
私が入社した時、M支店には4人の渉外係が在籍していたのだが、去年の夏に一人の先輩職員が退職して以来、ずっと3人の状態が続いている。
元々4人だったエリアを3人で回しているのだから、決して余裕のある状態とは言えないだろう。
日々の集金活動をこなしつつ、営業活動も並行して行っているので、「大変そうだなあ~」という気持ちで渉外係の先輩職員たちを見てきた。
しかし、今度は私がその大変な状況に陥る事になるのだ。
「山内頑張ってな!」
「大変だぞ、渉外は!」
渉外係の係長が、私に声をかけてくれた。
『はい、頑張ります……』
ここで弱音を吐く訳にはいかないので、私は必死に平常心を保った振りをして返事を返したが、内心はとても不安な気持ちで一杯だった。
いや、不安だけでなく、不満の気持ちをあったかもしれない。
その後、実際に私に業務を引き継ぐ先輩職員も声をかけてくれた。
「山ちゃん頑張ろうな!」
ちなみに、その先輩から私はあだ名で呼ばれていたのだ。
『はい、頑張ります!』
業務を引き継ごうとしている後輩が頼りなければ、先輩も安心して異動できないだろうと思い、私は精一杯強がった返事を返した。
とりあえず今日までは本出納業務の仕事をしなければいけないので、ミスのないように仕事に集中したが、やはり心の動揺は隠せない。
それを見抜いたのか、私の1年先輩にあたる女性職員が声をかけてくれた。
「山内君、大丈夫?」
M支店へ配属された初日、不安そうにしている私に最初に声をかけてくれたのも彼女だ。
『正直言って不安ですけど、頑張っていきます…』
彼女に対しては、「不安」という気持ちがある事も正直に伝えた。
なぜなら、彼女は非常に勘が鋭いので、隠しても無駄だと思ったからだ。
私がいつもより元気がなかったりすると、
「元気ないけど大丈夫?」
と声をかけてくれる事も多かった。
だから、今回も私の動揺にいち早く気づいたのだろう。
「渉外係で不安だと思うけど、山内君ならきっと大丈夫だと思うから、頑張ってね」
その言葉のお陰で、私は少しだけ前向きな気持ちになれた。
そして今日一日が無事に終了し、明日から渉外係として業務の引継ぎを受ける事になる。
しかし、その初日から、私は思わぬ壁にぶつかる事になってしまうのだ!
To Be Continued ➤
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