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とある一人の男が占い師になるまで #16 ~信用金庫職員編~

信用金庫2年目で渉外係を担当する事となってしまった一人の男。
何が何だか分からないまま業務の引継ぎが終了し、いよいよ一人で外回りをしなければならなくなってしまった。
果たして、これから訪れる数々の困難を、この男は無事に乗り越える事ができるのだろうか?

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『えーと、今日の訪問先は……』

渉外係として否応なしに一人立ちをする事となってしまい、試行錯誤を繰り返しながらも、とにかく一日一日の集金業務を無事にこなす事だけをひたすら考えていた。

基本的に、午前中は主に法人や個人事業主のお客様のところへ訪問して、数日分の売上金をまとめて回収し、午後は個人のお客様のところへ訪問して、定期積立金を集金するのがセオリーとなっていた。

一応、毎月の何日にどこへ訪問するのかは決まっているだが、事はそう簡単にはいかない。

特に個人のお客様がお留守である事も多く、そうなると時間を改めるか、後日改めて集金に向かわないといけないため、時間をロスする事になってしまう。

できるだけ効率よく集金する必要があるが、集金の際に現金の数え間違えは絶対に許されないので、そこは慎重に行わなければいけない。

『こんにちは~』
『〇〇信用金庫です』

挨拶をして、それぞれの訪問先へ向かい、集金をする。
それを繰り返すだけならそんなに難しくないのかもしれないが、忘れてならないのは、渉外係は数字を取ってこないといけないという事だ。

つまり、本来渉外係に求められるのは集金業務ではなく、営業という事になる。
日々の集金業務を正確に行いつつ、営業活動も行っていかなければならない。

だから、お客様とはできるだけ仲良くしておく必要がある
いざという時、力になってくれるかもしれないからだ。

どうやって仲良くなるのかというと、それは日々のコミュニケーションに尽きると思う。
前担当者であった先輩職員がお客様から可愛がられていたように、私もお客様から可愛がられなければいけないのだ。

特に私の場合、まだ入社2年目のペーペー職員であり、融資の知識も預金の知識もない。
だから、お客様に知識や経験で信用してもらうのは至難の業だ。

となると、とにかく可愛がってもらうしかない。
一生懸命やってる姿を見せて、愛嬌ある振る舞いをして、とにかくお客様から好かれる事が最も大切だと思ったのだ。

『今日は良い天気ですね~』
「そうですね~」
『………』
「………」
『はい、〇〇円確かにお預かり致します』
「はい、お願いします」
『ありがとうございました!』

……と言っても、何を話して良いのか分からないので、天気の話を少しだけして、あとは集金して終わってしまうような事がほとんどだった。

こんな調子でお客様と仲良くなれるのだろうか……。
でも、業務を効率よく回さないといけないし……。
でも、数字も取ってこないといけないし……。
でも、ミスは許されないし……。

本当に渉外係は色々と考えなければいけない事が多すぎる
とてもじゃないけど、何の知識もない2年目のペーペー職員がやるような仕事ではないと思う。

実は、先日引継ぎを受けている間に、複数の上長職員や先輩職員たちから言われた共通の言葉がある。

「数字を取ってくるのは渉外なんだから、渉外が一番偉いんだぞ」

この言葉が、ずっと私の脳裏に焼き付いている。

なぜ、一番偉い渉外係の仕事を、入社して2年目で融資の知識も預金の知識もない私がやらなければいけないのか!?
しかも、元々このエリアは4人の渉外係で回していたエリアで、今は3人で回しているが、何で人員の補充をしてくれなかったのか!?
いくらなんでも無茶じゃないのか!?
もしかして、私が財務3級100点を取った事で、わざと私に対するハードルを上げたんじゃないだろうか!?

様々な葛藤を抱えつつも、私はとにかく日々の業務をこなしていくしかなかった。

……と、そんなある日、ある訪問先のお客様から意外なご相談を受ける事となる。

To Be Continued ➤




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