とある一人の男が占い師になるまで #18 ~信用金庫職員編~
渉外係に配属されてから僅か1カ月足らずで融資案件1件を獲得してしまった一人の男。
しかし、それは前任だった先輩職員が営業活動していたお陰であり、いわば棚から牡丹餅のような感じに等しかった。
これから徐々に、この男の真の実力が試される事になる。
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「3か月分の営業報告書を提出するように」
渉外係は集金業務だけを行っていれば良い訳ではなく、日々の営業活動によって数字を取ってこなければいけない。
特に求められているのが融資案件、つまりお金を借りてくれるお客様を探す事だ。
なぜなら、貸付金の利息がそのまま信用金庫の利益に繋がってくるからだ。
これはもちろん信用金庫に限らず、お金を貸す事を商売とする金融機関全般に当てはまる事だと言える。
他にも、新規口座開設の獲得、定期預金や積立預金などの預金案件の獲得、年金振込や給与振込などの振込口座の獲得、公共料金引落や家賃引落などの引落口座の獲得、ネットバンキング申込みの獲得など、やらなければいけない事は多い。
と言っても、そう簡単に新規のお客様を獲得できる訳ではない。
なぜなら、私が担当しているエリアは、過去の優秀な先輩職員たちが既に多くの新規顧客を獲得してしまっていたからだ。
積立預金の集金業務がやたらと多いのも、この事が原因の一つだと言って良いだろう。
そして今回、4~6月までの私の営業成績だが、融資案件は先日獲得できたお手軽ローン1件のみである。
まだ新人という事もあって、特に支店長や次長、直属上司たちから注意されるような事はなかったが、果たしてこの先自力で融資案件を獲得できるのかどうか、不安な気持ちで押しつぶされそうになっていた。
私の直属の上司である渉外係の係長は、数字に関してはそこまで厳しい方ではなく、どちらと言うと、挨拶とか振る舞いとか態度とか言動とかに厳しい方だ。
支店長や次長などに対する私の話し方とか、日頃のお客様に対する接し方とか、そういった事は何度も注意されたり叱られたりした事がある。
私の前任であった先輩職員が、私とは真逆の体育会系タイプであった事もあって、もしかしたら私のような非体育会系タイプの人間は、係長にとってはあまり好きな方ではなかったのかもしれない。
もちろん、私自身にも至らない事がたくさんあったので、叱られる度に凹みながらも、同じ過ちを繰り返さないように気を付けてはいた。
もう一人、渉外係には私の3年先輩である男性職員もいるのだが、この先輩はとにかくクールなイメージが強かった。
色々と相談に乗ってくれるので、私もかなり助けられたが、少々短気なところがあり、ふとした事で突然キレる事もあるので、変な事を言わないように気を付けてはいた。
私にとって、居心地が悪いとまでは言えないが、良いとも言えない渉外係のメンバーたちと仕事をしている。
渉外係になってから、明らかに内勤の女性職員たちと話す機会は減った。
M支店の場合、渉外係の部屋は2階の一番奥にあるため、1階の様子は全然分からない。
たまに本出納業務をしていた1年目の頃が懐かしく思えてくる。
自分の仕事が終わっても、なかなか自分一人だけ先に帰れるという雰囲気ではないので、大体は渉外係のメンバーたちと一緒に帰っていた。
正直、そんなに話が盛り上げる事はない。
こんな感じの日々を過ごしており、私は次第に「このままで良いのだろうか?」という漠然とした不安を抱える事になる。
しかし、そんなマンネリとした日々も長くは続かなった。
突如、M支店の渉外係のメンバーたちを脅かす存在となる人物が、本部から送り込まれる事になる!
To Be Continued ➤
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