とある一人の男が占い師になるまで #6 ~信用金庫職員編~
M支店へ配属され、本出納業務を担当する事になった一人の男。
慣れないながらも周りの職員たちに助けられ、少しずつ仕事を覚えていく。
そして1カ月が経とうとしていた頃、M支店の歓送迎会が実施される事になったのだが、その日は男のテンションがいつにもなく上がってしまい、最後にとんでもないビッグマウスな発言をしてしまう……。
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「今日は歓送迎会があるので、早く仕事を切り上げるように」
歓送迎会当日、その日はいつもより早めにM支店の全職員が仕事を切り上げ、とある居酒屋で歓送迎会が開かれる事になっていた。
金融機関の場合、お客様との癒着を防ぐために、大体どの職員も数年に一度は転勤する事になっているのだが、4月はその人事異動が最も多い時期だと言えるだろう。
今回、M支店へ新たに配属される事になったのは私を含めて5名、逆にM支店から別支店へ配属される事になったのも5名、合計10名のために歓送迎会が実施されたのだ。
繰り返しになるが、私は学生時代から人数の多い飲み会が好きではなかった。
挙句の果てに、つい最近同期生たちとの苦い思い出に塗りたくられた飲み会もあったため、歓送迎会が始まるまで気が気でなかったのだ。
ところが、いざ始まってみると、色々な先輩職員たちが声をかけてくれて、思っていたよりも嫌な飲み会ではなかった。
もちろん、気を遣う事が多いので、決して楽しい飲み会とまではいかないが、少なくともこれまで経験してきた陽キャ感丸出しイケイケな同年代の人たちとの飲み会に比べたら、遥かにマシだったように思える。
次第に気分が上々になり、お酒の力も加わって、私はどんどんハイテンションになっていった。
ちなみに、私は決してお酒が強い方ではない……。
そして縁もたけなわ、歓送迎会も終わりの時間に近づいてきた。
最後は、この春異動になった職員たちが一人一人皆の前で挨拶する流れになっていた。
お酒の力も相まって、参加している職員の半数以上はハイテンションになっていた。
誰かが挨拶をする度に、歓声が沸き上がっていた。
そしていよいよ、私の番がやってきた。
気分が上々になっていた私は、気が付いたら、普段絶対口にしないようなとんでもないビッグマウスな発言をしてしまったのだ。
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『理事長目指して頑張りまーーーす!!!』
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「おおーーーーーーーーー!!」
「頑張れよーーーーーー!!!」
「よっ! 将来の理事長!!!」
あちらこちらから歓声が上がっていく。
ちなみに、理事長とは信用金庫の中で最も偉い立場の人の事を指す。
まだ入って1カ月そこらの青二才な新人が、いきなり理事長を目指すなどと宣言してしまっているのだ。
後から考えれば、本当に恥ずかしい話である……。
そして当然ながら、そのビッグマウスな宣言が現実化する事はなかったのである……。
To Be Continued ➤
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