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とある一人の男が占い師になるまで #25 ~信用金庫職員編~

度重なる理不尽なキャンペーン企画に対し、仕事に対するモチベーションが日に日に低下しつつある男。
『自分はこの仕事に向いていないのではないか?』
そんな自問自答を繰り返す日々に、男の悩みは次第に大きくなっていく。

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「山内、何か悩みでもあるのか?」

信用金庫に入社してから2回目となる冬の時期を迎えたある日、身体も心も冷え切っている自分に対して、渉外係長が声をかけてきた。
どうやら、日々悩んでいる様子が、私の表情や態度に現れてしまっていたようだ。

『あ、いえ、大丈夫です!』

私は慌てて返答した。

(いけない、いけない)

仕事に対する進め方とか、仕事の具体的な内容とか、あるいは職場の環境の事とか、そういった類で悩んでいるのだったら、せっかく声をかけてきてくれたこの機会に相談した方が良いのだろう。

しかし、今私が悩んでいるのは、「この仕事に向いていないのではないか」という、もっと根本的な部分なので、そんな事を相談したら何て言われるか分かったものじゃない。
だから、私は必死で本心を悟られないように隠していた。

それに加えて、私にはもう一つ厄介な悩みがあった。
それは、半年ぐらい前に本部から派遣されてきた、あの債権管理部の部長代理の存在だ。

相変わらず、何かあるごとにプレッシャーをかけてきたりするのだが、モチベーションが下がっている自分にとっては、もはや耳にタコでしかない。
というより、そもそも直属の上司でもなんでもなく、M支店の職員でもない部外者なのだから、放っておいてほしいというのが正直な気持ちだ。

しかも機嫌が悪い時は、挨拶をしても無視したり、やたら威圧的な態度を取ったりするので、私としては誰よりも気を遣う厄介な存在となっていた。
私だけでなく、渉外係長や先輩職員も、以前からずっと彼の事を煙たい存在だと感じていたようだ。

そしてある日、ついに最悪の事態が起きた。

その日はいつも以上に部長代理の機嫌が悪く、渉外部屋の雰囲気はかなり緊迫した雰囲気になっていた。

突然、部長代理が私に大声で話しかけてきた。

「山内君、今抱えてる融資の案件はいくつあるの!?」

『はい? いや、今は特にないですけど……』

その後、今度は先輩にも大声で話しかけてきた。

代理「〇〇君は!?」

先輩「ないです」

その後、ついに渉外係長にまで詰め寄っていった。

代理「なんでもっと話し合いをしないんですか!?」

係長「いや、話し合いって言われてもなあ~」

代理「もっと話し合った方が良いと思いますよ!」

これまで部長代理は私や先輩には何度か詰め寄るような事はあったが、さすがに渉外係長には気を遣って何も言わなかった。
しかし、今日はついに渉外係長にまで詰め寄ってたのだ。

その後の渉外部屋の空気は最悪だった……。
私は溜まらず渉外部屋を後にした。

しばらくして部屋に戻る際、渉外係長とすれ違った。

「本当にうるさいよな」
「聞き流しとけば大丈夫だから」

『はい……』

とは言え、私は性格的にそういう事を簡単に聞き流せるようなタイプではないのだ。
先輩もよく部長代理からキツイ事を言われているが、上手く聞き流している。

しかし、私はついつい反応してしまうのだ。
それで捕まってしまい、長々と説教されたりする。

こういう場面でも上手くすり抜けられるような対応力が、私にはないのだ。
これは私の弱点でもある。

私はこれまで周りの人たちから繰り返し言われてきた言葉がある。

「真面目過ぎる」と。

そう、自分で言うのも何だが、私は真面目過ぎる性格であるがゆえに、チャラチャラした同期生たちと打ち解けられず、面倒くさい人たちを上手く捌けず、理不尽なキャンペーンの度に葛藤を抱え、何かあるとすぐに落ち込んだり考え込んだりしてしまって、結局のところ、ずっと仕事に対して悩み続けているのだ。

確かに上長や先輩社員たちを見ていると、本質的に真面目ではあるけど、真面目過ぎるという事はない。
だからこそ、長く信用金庫に勤めていられるのではないだろうか。

私の中で、一つの結論と課題が明らかになった。

「この仕事はいつか必ず辞めよう」
「この仕事を長く続けていたら、精神的にずっと悩み続ける事になる」
「では一体、いつ辞めるべきなのか?」
「辞めた後は何をするのか?」

辞めるという結論に達したら、精神的にかなり楽になると思っていた。
しかし、今度は逆に、辞めるつもりでいるにも関わらず、上司や先輩社員たちが私が仕事を続けていく前提で接してくる事に対し、申し訳ない気持ちで一杯になり、楽になるどころか、むしろ辛い気持ちが強くなってしまったのだ。
恐らくこれも、私の真面目過ぎる性格が原因となっているからだと言えるだろう。

本当はもっと長く続けてから辞めようと思っていたが、これでは精神がもたないと思い、私は当初の予定よりも大幅に早く、信用金庫を辞めようと考えた。
そして、「辞めます」の一言を直属の上司である渉外係長に伝えるまで、私の苦悩の日々が続いていく事になる。

➤ To Be Continued


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