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わたしの下北沢 vol.1 曽我部恵一さん(シンガーソングライター)

下北沢と縁が深いあの人にとって、この街はどんな存在なんだろう? 学生時代から下北沢で遊び、飲み、ライブをし、やがて住民となり、現在は自身のお店も下北沢に構えているシンガーソングライターの曽我部恵一さん。イベントスペース「下北線路街 空き地」のオープン日にもステージでライブを行った曽我部さんに、今あえて下北沢に思う所、さらに好きなスポットなどを聞いてみました。

曽我部恵一(そかべ・けいいち)
1971年生まれ。95年にサニーデイ・サービスのボーカル&ギターとしてデビュー。ソロや曽我部恵一BAND名義などでも幅広く活動。12月7日には下北沢界隈のライブハウスを中心に行われるイベント「下北沢にて’19」に出演予定。sokabekeiichi.com

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「下北沢に住み始めたのは、一番上の子どもが生まれてすぐだから2001年頃かな? それまでの住まいが明大前の古い木造アパートだったので、広い家に住みたいと思ったのが一番の理由。それから一度三宿に移って、また今は三茶と下北沢の真ん中あたりに住んでいます。

若い頃から人と食事したり飲んだりするのは下北沢が多かったですね。今でも営業しているところでいうと〈ラ・カーニャ〉とか、今はもうなくなりましたが、行くと小泉今日子さんやダウンタウンさん、今田耕司さん達もいるような居酒屋とか…。最近は飲まなくなったので新しいお店は知らないですけど。

ここ10年くらいですかね、若い人が増えたし若者向けのお店もたくさん出来ましたよね。昔はもう少し〝一見さんお断り〟的な渋いお店がたくさんあったような……。

とはいえ、それで居心地が悪くなったという事ではなく、それは街として自然な姿なんだなあと感じています。どんなにタピオカ屋がたくさん出来ても(笑)。ただ、全体的に家賃が年々高くなっている印象はありますね。お店を新しく始めたい人は大変だと思いますよ」


 曽我部さんは12年前にカフェ&レコードショップ〈City Country City〉をオープンし、自身のレーベル〈ROSE RECORDS〉も下北沢を拠点にしている。

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「でも、ここに一生根を下ろそうみたいな考えは一切ないんです。元々地方(香川県)出身だし、なんとなく下北沢に行きついたみたいな部分もあるので…。もちろん、下北沢を拠点にしたことで出会った人も多いし、新しく始めたこともたくさんあるので、たまたま家が下北沢の近くじゃなければ今頃何をしていたかなあ?とたまに思いますけど。お店やレーベルを下北沢に構えたのは意識的なことではなく、あくまで自然な流れの中でそうなった感じですね」


この日、曽我部さんがお話をしてくれた〈City Country City〉にしても、曽我部さんはオーナーではあるが自らが「経営者」だ、という意識はあまりないのだという。


「〈City Country City〉は夜にフラッと遊びに行けるような場所があれば楽しいな、という感じで始めたので、今でも普通にお客さんとして行くんですよ。ちゃんとお会計もしますし(笑)。店長はじめ、スタッフがみんなこのお店を好きで、ちゃんとやってくれるおかげで何年経ってもいい雰囲気が保てているので、そこは本当にありがたいですね。だから僕はいつ行っても居心地良く過ごせるんです。

こうしてお店をやったりしているから下北沢の音楽の代表みたいに言われることも多いんですよね。それは決して嫌ではなく光栄なこと。でも事務所を下北沢に構えているのは、日本の音楽業界が東京中心だから、というのが大きいんです。あのファットボーイ・スリムがイギリスのロンドンから少し離れた海辺の街、ブライトンを拠点にしているように、今後は他の場所を拠点にしてもいいのかなあ、とは最近考えていますね」


「どんな場所でも住めば都ですよ」と話す曽我部さん。長年住んでいる下北沢に居心地の良さは感じつつも、特別この場所にこだわっている訳ではないという。そのあたりはあくまでフラットなスタンスだ。

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「本心を言えば、誰にも干渉されずに静かな土地で音楽を作るのが一番理想的ですよね。だから今下北沢でいろいろやっているのは、好きな街ではあるんだけど本当にたまたまなんだなあって。これが隣の池ノ上だったらどうだったかなあ…。でも僕という人間の本質はどこに住んでいても変わらないと思うんですよ」

●曽我部さんが下北沢で好きな場所3選


① 北沢タウンホールの屋上庭園

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おなじみ北沢タウンホールの低層階用エレベーターで5階に上がり扉を開けると、朝から夕方まで(8時半~17時)誰でも利用できる屋上庭園。芝生が植えられ、パーゴラの下には持参した食事を食べるのにちょうどいいベンチが。ベンチも床も水はけのいい材質で、雨上がりに訪れて乾いているのが嬉しい。眺めの良さはもちろんだが、いつ来ても吹く風が心地よく開放感のある空間だ。撮影時も傍らでは数組の親子連れがお弁当を広げ、小さい子が床で自由に遊んでいた。

「正直ここはあまり教えたくないんですが(笑)、子どもが幼い頃は近所でハンバーガーを買ってしょっちゅう来てご飯を食べていましたね。特に平日だと空いているし、周りに気兼ねなく食事ができます。子どもを連れて買い物とかしていると、ちょっと休憩したい時も子どもOKのお店を探さないといけないし、こういう場所があると本当に助かりますよね。特に下北沢は街中に公園があまりないので……」

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② カトリック世田谷教会

ザ・スズナリの真裏にある、創立から73年を数えるカトリック系の教会。聖堂と中庭があり、中庭にはグロッタ(洞窟)も設けられている。毎週日曜日10時半からミサが行われる。

「多分10年以上前だと思うんですけど、〈レディジェーン〉の大木さんたちが主催するライブイベントに呼ばれてここでライブをした思い出があります。中庭がすごくいい雰囲気で、ザワザワした街からふっと離れて静かなのもいい。下北沢にああいうこじんまりとした教会が昔のまま残っているのが意外ですよね。以前知り合いが亡くなった時もあそこでお別れ会をやったんです」


③ 緑道

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下北沢界隈の緑道というと駅から代沢方面に下ったあたりを東西に伸びる北沢川緑道が有名だけど、曽我部さんのお気に入りは茶沢通りの1本裏側を南北に伸びる、かつては小さな川だった場所を小道にした名もなき緑道。

「お気に入りというより、家と下北沢を行き来する際に自転車で必ず通る、通勤路ですね(笑)。本当に普通の人と自転車のための道ですけど、自分の中で生活の一部となっている場所でもあります」


写真/石原敦志 取材・文/黒田創 編集/木村俊介(散歩社)


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