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16軒目:ヤマザキショップ 代田サンカツ店

下北沢駅から小田急線でわずか一駅、下北線路街の開発や人気ドラマのロケ地となったことで近年盛り上がりを見せている世田谷代田駅。そこから、歩いて2分ほどのところにあるのが、〈ヤマザキショップ 代田サンカツ店〉だ。

「サンカツさん」の愛称で親しまれるこのお店は、懐かしい駄菓子がずらりと並んだり、日本酒を樽で仕入れて販売していることがあったりと、こちらならではのユニークな商品ラインナップもさることながら、お客さんや道行く人と店主が交わす昔ながらのコミュニケーションが大きな魅力となっている。

よくあるコンビニとは違って、古き良き「商店」のようなあたたかさをもつこちらを現在切り盛りするのは3代目の池田勝彦さんとそのお母さん。池田さんに、まずは店の成り立ちからお話を伺った。

創業から間もなく100年、御用聞きの老舗酒屋から街の商店へ

〈ヤマザキショップ 代田サンカツ店〉へと続く最初のお店が創業したのは1929年のこと。

「元々、創業したのはじいちゃんで、自分で3代目。じいちゃんが昭和4年(1929年)に今の場所で始めたんだよ。数字の三に、勝ち負けの勝ちで『三勝酒店』。

店の名前の由来は、うちのじいちゃんが「勝」一字で、名前がまさる。その勝の字をまずつけて。で、そのじいちゃんが、奉公で三守酒店さんというところに勤めていたので、そのお店から三の字をいただいて、『三勝酒店』っていう名前になったんだよ」

しかし、『三勝酒店』は開業してすぐに戦争の時代を経験する。

「戦争があった頃は、今より100メートルぐらい奥の方にお店があったんだよ。建物疎開って言うそうだけど、線路のそばに家が建っているとそこがもしも爆撃されたときに小田急線にまで影響が出ちゃうでしょ。それはいけないからって建物ごと移動して。それで戦後、またもともとあった今の場所に戻ってきたんだって」

戦争中や戦後間もない頃は今と違って、お店に来るお客さんに売るよりも、配達することが圧倒的に多かった。三勝酒店の扱う商品も、お酒の占める割合が多かったという。

「御用聞きって言葉、知ってる?サザエさんに出てくる三河屋さんってさ、サザエさんの家に行った時、『今日は何をお持ちしましょうか。』って聞くでしょ。あれが御用聞き。うちも、まさにあれをやってだんだよ。例えば、月曜日はこの家、火曜日はこの家みたいな感じで、ずっとそういう風にお客さんのところを回っては御用聞きをして商品を届けて、っていうのをやっていて」

しかし、時代の流れとともに、取り扱う商品やお店のスタイルも徐々に変化していく。

「1987年かな。元々木造だったのを、今の建物に変えてコンビニ風にして。その頃は、サンカツビルなんて呼ばれたりしてたね。当時2代目としてお店を切り盛りしていたうちのお父ちゃんがね、その時に漢字よりカタカナの方が“今風”だってことで、カタカナの『サンカツ』にお店の名前を変えたんだよ。その頃、酒屋がそういうコンビニ風のお店を作るのが、ちょっとしたブームだったんだよね、なんとかマート的な感じで。うちもそういう時流に乗って、パンとか、牛乳とか、それまでは取り扱ってなかったお菓子だったりを扱うようになった」

もがきながら商いをする中で見えてきた、街というつながりの大切さ

そんな三勝あらため「サンカツ」だが、その後間もなくして、当時まだ学生だった勝彦さんが跡を継ぐことになる。

「建物を建て替えて、で、お父ちゃんが死ぬまでが、2年ぐらいだったんだよね。それが、1989年か。ちょうど平成元年だね。

それで当時は学校に行きながら店をやっていて、まあ、店主って言っても、おかあちゃんとやっていたから。それと兄弟が2人と、あとは友達がバイトとして手伝ってくれて。楽しかったよ、友達と一緒に配達とかするのはさ」

今となっては楽しかったと思えることも多い一方で、右も左もわからない中での仕事には苦労したという。

「泳げない子がいきなり海に落とされた時に、とりあえず何をするかって言ったら、手足をバタバタさせるしかないよね。沈まないように、ブクブクしないように。あの頃は、毎日その繰り返しだった。

とにかくもう、なんだかわかんないけど、泳ぎ方もわからないもんだから。とりあえず、手足を止めたら沈んじゃうってことだけはわかるから。ノンストップ。もう、やれることを全部」

今の勝彦さんの柔和な雰囲気からは想像もつかないが、当時は、「他の大人の力を借りずにやるぞ」と意気込んで、毎日ピリピリしていたのだそう。

「とんがってたよ昔は。本当に、大人に負けたくなかった。でもね、だんだんそういうのもなくなって、勝ち負けとかじゃないなって思うようになって。どのくらいだろう。15年ぐらい前からかな。

もう、うち一店舗のことだけを、点で考えていても勝てないなと思った。勝てないどころか、勝負にさえならないな、と。点じゃ無理だし、線でも無理だし、もう面で考えないと。商売としては、周りの人たちと協力しないともう成り立たないよなって」

もがきながら商いをしていくうちに、街というつながりの大切さを意識し始めた勝彦さん。

「例えばさ、うちだけ売れるってことはないんだよ。結局周りが売れてないと、うちも売れないんだよね。周りが売れて、うちも一緒に売れるっていう、そういうことがやっと理解できるようになったのかな」

線路跡地の開発によって変わってきた、下北沢と代田の“境目“

小田急線の線路地下化に伴う下北沢の開発計画の一環で、下北沢駅と世田谷代田駅のちょうど真ん中、サンカツさんからも程近い場所に、2020年4月、〈BONUS TRACK〉が開業した。飲食や物販、書店など様々なテナントが入居するほか、コワーキングのラウンジやギャラリーも併設、毎週末には広場でイベントを行うなど、「新しい商店街」として、新しい人の流れを生み出している。

「BONUS TRACKができたことで、そもそも人通りが多くなったよね。これまでこのエリアを通らなかった新しい人たち、活気ある人たちが増えて、お店に来るお客さんもやっぱり変わったし、若い人が増えたね。特に土日はね」

サンカツさんにとっても、街という視点から考えても、新施設の開業がもたらした変化は大きなものだった。

「そこに線路があった頃はさ、鎌倉通りからこっちは下北で、こっちは代田で。線路を挟んで南側の商店街と北側はまた別の商店街で。そこは、越境はできないんだって思ってた。

その線は守らなくちゃいけないと思ってたんだけど、最近そういう気持ちがなくなって」

〈BONUS TRACK〉のお客さんや関わるスタッフだけでなく、更に下北沢駅寄りに位置する居住型教育施設〈SHIMOKITA COLLEGE〉の居住者の方との交流も盛んな勝彦さん。下北線路街の登場によって、街としての繋がりが形になってきたと感じているという。

「サンカツはちょっとずつ、下北の南西口の方に近づいてますから。(笑)もはや下北も超えて東北沢までひとつながりだね。ゴーイースト!!っていう感覚で」

この街の、「きっかけ」の場所であり続けたい

サンカツさんでは、お客さんと勝彦さんがコミュニケーションしている様子はもちろん、お客さん同士が話に花を咲かせている光景も非常によく見られる。

「例えば、うちはあのお客さんを知ってる。このお客さんも知ってる、でも、この2人はお互いを知らない。それを、接点を作って、つなげてあげるのがうちの役割なのかな、と。

あとは、ハチさん(世田谷代田駅前に新しくオープンした観葉植物などを取り扱う〈Hachi green&garden〉)みたいな新しくできたお店がある。

で、例えば、話をしてる中で家に緑を置きたいんだけどってもしお客さんが言ったとしたら、すぐさまハチさんを紹介して。で、ハチさんに行ってもらって、サンカツさんから聞いてきましたって言ってもらうみたいなことをずっとやっているんだよね。そこでまた、お客さんはうちだけじゃなくてハチさんともコミュニケーションができるしね。

うちの店で偶然会った人同士が、次に街中ですれ違った時に、あ、こんにちは、お疲れちゃんって言える。それが一番理想的だと思っているんだよ」

コロナ禍のさなかに開業した〈BONUS TRACK〉のメンバーからは、街と、新しく開業した〈BONUS TRACK〉の距離感をグッと縮めたのはサンカツさんの存在だったという声も聞こえてくる。

「代田の街に昔から住んでる人だと、〈BONUS TRACK〉ができた時に、へー、なんかごちゃごちゃと新しいことをやってるな、くらいの感じで思う人もいたんじゃないかと思うけど、〈BONUS TRACK〉っていうのは実際こういう人たちがやってるんだっていうのがわかれば、頑張ってるなぁ!って思うようになる。新しい場所ができたっていう事実は同じことでも、その見方が大きく変わるんだよ。

もっといろんなところでそういうことが起きてくれればいいなって思うよ。あとは、今まで代田ってお店がなかったのね。出来たとしてもすぐ潰れる。そうさせないための橋渡しができればね。

近くのお店だけど、入ったことがないから入れない、入りづらいって言う話をよく聞くんだよ。このお店はどんなお店で、いざ入ったらどんな感じなのかわからないからって。だけど、みんな誰しも最初は一見さんじゃない。

こういう人がやってるお店なんだって知ることで、じゃあ行ってみようかなって、100人のうち1人でも思って、実際に行ってくれる人がいれば、それはラッキーだなと思う。そういう、街にとってのきっかけになれればいい。

それが、自分がやりたいことだし、使命だと思ってる。自分の商売もこの街が元気じゃないと成り立たないし、自分自身もやっぱりこの街に育ててもらった恩があるんで。この街の人たちが買ってくれなかったら、うちはとうの昔に店畳んでたよ(笑)。結局はさ、その恩返しができればなって思ってるんだ」

最後に勝彦さんはこう話してくれた。

「この街に住んでる人たちに、もっと街への愛着を持ってもらいたい。ただ寝に帰ってくるだけの街じゃもったいないよね。自分も含めてだけど、顔見知りを多く作ってもらいたい。

この先もサンカツが、そういう顔見知りができる場所でいられたらなと思うんだよ」

勝彦さんの思いをのせて、人と人、人と街を繋ぐ架け橋として、サンカツさんの街と人への愛に満ちた日常の挑戦は続いていく。

【ヤマザキショップ 代田サンカツ店】
東京都世田谷区代田2丁目31−1
TEL 03-3414-5017
営業時間:7:00〜24:00
定休日:毎月第3火曜休

写真/村上大輔 取材・文/松永圭太(散歩社) 編集/木村俊介(散歩社)

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