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ブルックリン物語 #56 “REINCARNATION”

関西学院大学2回生だった時に、学校の賑わう銀座通りを少し入りひっそりしたところにあるco-op (大学生協)で一枚自分用に、松任谷由実コンサートのチケットを購入した。貧乏学生には豪華な値段のものだが、「予感」のようなものを感じたからだ。

大掛かりなセットや凝った演出が施された贅沢なコンサートで、途中大きな「龍」が舞台に登場した。ツアータイトルは「水の中のAsiaへ」。そこで、まだ発表されていない「リインカーネーション」という曲の原型を聞いた気がする。というのは、「水の中のAsiaへ、ようこそ。過去を超えやってきたあなたをこの砂漠の国へ案内しましょう」という内容だったからだ。それは明らかにのちに発表された曲とは内容が異なる。そして、その1ファンだった僕は「いずれアジアの国の言葉を話す住人へ変わる」「さあ、催眠術をかけてあげる3、2、1、、、」というパッセージを与えられたのだ。それはしつこいようだが明らかに数年後にリリースされる「輪廻転生」を歌った「リインカーネーション」とは全く内容が違っていた。

僕が勝手に妄想を組み立てただけなのかもしれない。ただあの時、確かに僕は何十年もの時を超え、過去へ未来へ旅をし、見知らぬ遠い国の街の片隅に立っていたのだ。自分の想像力の力で。今でこそ「ああ、あの龍はミニクレーンだな」とか「はけ(大道具を舞台袖に戻すこと)の後はどこに保管するのか」「出し入れは人力かな」と技術的な疑問符が湧くだろうけれど、当時は素人なのであっけに取られぽかんと口を開け「別の時空を泳ぐ幸福な旅人」になれた。

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大学に入学するも経済学部なのにオリエンテーションが始まる前に学生会館の屋上にある軽音楽部のドアをノックしていた。というより部室のドアは開いていた。表ではドラマー達がゴム板を叩いてリズムの基礎練習をしていたし、開けっ放しの部室の中からはラリーカールトンを演奏するフュージョンバンドの音が心地よく響いた。その曲は「ルーム335」。

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