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ブルックリン物語 #19 Bewitched, Bothered and Bewildered 魅せられて

留学生になった時から、ぼくは地下鉄に頻繁に乗るようになった。東京ではすぐに右手を上げてタクシーを停めていた。アメリカに渡ってからのぼくは学生だったし、街に慣れるにつれ、とにかくNYでは地下鉄、バスが便利、体がそう思うようになってきた。今じゃ、タクシーで帰ってもいいような夜にも必ず地下鉄を使う。この街に住んでいることの基本が、この公共輸送機関には凝縮されている。NYの何もかもが混ぜこぜに、ここにはある。

だからNYに一週間旅行をするならば、地下鉄やバスに乗るメトロカードを買われることをお勧めする。

一週間乗り放題のメトロカードをベンデイングマシーン(自動販売機)で。それを財布やポケットに入れて移動する。これさえあればマンハッタンのみならずブルックリンもクイーンズも縦横無尽だ。どこまで何回乗っても値段は一緒なので、あちこち気負いなく観光する人にはもってこいだ。しかもだ。電車は24時間、動いているときたもんだ。夜中は本数が少なくなるけれど、それくらい勘弁してほしい。のんびり待ってると数メートル手前で停まって勝手に発車しちゃうし、揺れすぎて福笑いのように目鼻口が車内の床に落ちてしまうけれど、それもご愛嬌だ。ポールやつり革をしっかり握り、少し肩幅より広めに足を広げて立つ。こうじゃなきゃ激しい突然のブレーキにすっ飛ばされて窓から投げ出されてしまう。

ローカル(各駅停車)のはずの電車が急に心変わりして特急になったり、逆方向の線路に電車が入ってきたりすることがあっても驚かないでほしい。勇んで駅まで降りていくと黄色いテープが貼ってあり「今日は電車はなし!」なんてこともある。古い構内は雨漏れがひどいし、洪水の時は駅自体が閉鎖される。ホームで待っていると線路の間を猫ほど大きなRodents(ドブネズミ)が我がもの顔で走っている。天井は100年の歴史を携えてぽろぽろペンキが剥がれ落ちる。「あれ?フケ?」なんて頭を払う人がいたら、「そうだね」と笑い返してほしい。

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