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ブルックリン物語 #36  L.O.V.E「ラブ」

携帯が生まれた頃はこんな小さな機器にこれほどまで心と体を束縛されるとは、誰が想像しただろうか?

気がつけばスクリーンをいじり、気がつけばバイブを気にし、気がつけばいつもその存在の一挙一動に反応して、それはもはや身体の一部と呼んでもいいくらいだ。

神戸からブルックリンに戻り、一旦自宅に荷物を置き、友人に預けているぴをピックアップしようと携帯のスクリーンをいじり始める。今日これから伺っていいものか、明日にしたほうがいいか? テキストメッセージを書く。すぐにリスポンスが帰ってきた。

「フードも今夜の分でなくなるしオシッコシートもなくなる。ちょうど良かった。今夜ピックアップしにきてください」

わずか10日間だが、信頼できる友人の家でぴが病院やホテルとは違う生活ができるというのは本当にありがたい。その感謝を噛みしめながら地下鉄で向かう。

この前の零下10度の雪の中、4時間歩行をした数時間後に僕はミネアポリスに旅立ち、そのまま羽田、伊丹と飛行機の旅をした。人間ドックもやった。温泉にも入った。東京で仕事もした。テレビの収録やパーティーでの演奏、打ち合わせ。関西に再び戻り、芦屋に宿泊。ビルボードクラシックス主催のチャリテイコンサートを終える。翌朝タクシーで伊丹、そこからはひたすら羽田、ミネアポリス、JFKと、来た道をRewindするようにNYに戻る。時差ぼけが心と体に影響を与えているのかさえもわからないままの瞬速移動だったので、どうも気持ちが追いつかない。

留守番の間にぴは新しい経験をしたようだ。丸いボールを友人に買ってもらって、その中にトリート(お菓子)を入れて転がし、中から出して食べるという遊びだ。 

友人と僕がそばで話をしていてもずっと熱中している。これは頭と体のいい運動だ。革命に近い。パパと二人だとついパパが甘やかしもたれあう。パパの out of town (出張)が少なからずいい緊張感を生んでいるのだなと遊びに徹するぴを見守る。

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