見出し画像

ブルックリン物語 #79 「ミネソタサウンドマシーンがやってきた!」(1)

2020年に決定していたライブスケジュールが、パンデミックでゼロになってしまった。

ツインシティー(ミネアポリス、セントポール)の2夜にわたるライブもその目玉だった。仕事がなくなり旅がなくなり人との接触さえもなくなり「家にいること」が当たり前になった。そんな生活を基調にして、新たなポストコロナをどう生きるかを考えた。

音楽家では食べてはいけないな。生活できないものを仕事とは呼べない。じゃあ、音楽は趣味だ。究極の。これもまた真理なのだ。じゃあ、職業、お金を儲けて暮らすだけのインカムを何で得ればいい? 職業=生きること。仕事=考えること。自問自答の日々に、「目玉」の存在を忘れかけていた頃、嬉しい知らせが届く。ミネソタ州ツインシティーのライブが復活するというのだ。本当に?

2017年に中西部ツアーで初めて訪れてからこの地や人に縁はあった。だから、あの時大切に繋げていきたい、と足繁く通った。けれど、ロックダウンはその大事な縁さえも奪い去った。コロナの怖いのは人間関係にさえもその影響が出てくるところだ。お互いの生活が大変になると連絡を取り合うのも億劫になり、地球規模のメンタルホームレス化が進む。行き所なく彷徨う感じだ。いつ自分が家賃を払えなくなって外に放り出されるかもしれない危機感を抱え月日を過ごす。

辛うじて生き長らえていた僕が、再び旅に出てミネソタでライブをする。しかも今度はトリオだ。現地のミュージシャンと組んで。ほぼ2年ぶりにまた人と会う。会って音楽をやる。リハをやりライブの本番をする。それは願っていた嬉しいことのはずなのに、心のどこかは不安でいっぱいだった。感染の不安ではなく、ライブはもうこの先ないのではと思っていた自分の心のままで、果たしてまたあの空間にすっぽり戻ることができるのか、という意味での不安だった。僕はライブじゃない場所に向かい始めているのではないか。

9月のミルウオーキーのサマーフェスタ2021をやり終えてからあっという間に時が流れ、僕は年齢も61歳になりライブライブと躍起になる気持ちが靄がかっていくのを感じていた。もうそんなの卒業でいいんじゃない?  十分すぎるほどやったじゃない?  欲を出せばきりがない。どこかで「はい、次!」と切り替えていかないと。それよりもコロナで目から鱗の新しい生活のニュースタンダードを試行錯誤し見つけ出すのに必死だった。

生きる。そのシンプルで根元的な挑戦をどうやったら続けられる?

ここから先は

6,083字

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?