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ブルックリン物語 #77_A 「顎を上げて拍手に向かって進む(前半)」

2017年、最初に中西部をツアーした時に巡り合った方が、ちょうど中西部全域に仕事に行くところだった。 ここぞとばかりアピールをしたい僕は彼の前で「君が代」を弾いた。それも自分流のどこかモーダルなジャズコードでリハモニゼーションしたものを。これが縁になったのか、彼は中西部を回る時に僕のことを気にかけて音楽をやれそうな場所をリサーチしてくれた。一方でマネージャーのKayはミルウォーキーを訪れる機会が多く、サマーフェスタに出会った。シカゴへライブで訪れる度に「いつかあのフェスに出れたら良いね」と夢が膨らみ始めていたのだ。夢のまた夢、それが叶ったのが昨年のサマーフェスタ2020への出演決定。

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しかしそれは物の見事にコロナによるパンデミックでなくなった。あれから1年の月日が。そして3回に時期を分けて2020年行われるはずだったこの全米でいちばん大きいとされるイベントが不死鳥のように復活したのだ。一年前の僕は次々に決まるライブに緊張しすぎで毎回のハードルを乗り越える日々にどこか疲れていた。だから中止か延期かわからないがなくなったと聞いた時に心の奥で「これで少し休める」とホッとした。

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コロナは思ったよりも長く僕たちを悩ませ、危険の中にい続けさせた。その不安の日々はなおも続いているが、多少の危険はあれど次へ行こうと言う機運がワクチンにより可能になった。薬の開発でもっとこれは加速するだろう。

サマーフェスタ2021の復活。

ヘッドライナーとしての出演が正式に決定し、現実の契約へと進む。大きな喜びと同じくらいの緊張と不安がこの知らせを聞いてから再び僕の中で渦巻き始めた。

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「もう全て今起こっていることは丸儲けと思って楽しんでやりましょう」

Kayは考え詰める僕の性格を知ってか知らずか、日が近づくにつれ高らかに笑い飛ばす。僕は今までライブをする時にこの「楽しんで」をやった試しが一度もない。僕にとってライブをやるということは、大きな山を乗り越える試練であり、それを努力と集中力で自分なりになんとか乗り越えられた時、その試練は終わる。だから喜びよりも僅かな安堵感、それがいつしか次への糧になる。また高いハードルが設定された。ジャンプするしかない。

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不思議に思われるかもしれないが、表舞台でパフォーマンスをするということは予測できない危険やアクシデントに立ち向かってひ弱な心を抱えたまま戦闘態勢で飛び出していく賭けのようなものなのだ。違和感を抱かれるかもしれないが、少なくとも僕にとってはそういうものだった。楽しむなんて100年早い、いつもそう思う。40年近くこの仕事をやらせてもらっていても、いつまでたっても変わらないのはもしやこの仕事が向いていないのではとも思う。

「そんなわけないじゃないですか。いちばん向いてるじゃないですか」

と言われると「そうなのかなあ」とも思う。ただライブは未だに手に負えない毎回が挑戦。だから魅了されるわけだが怖いと言う感覚は今も大きい。

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