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NEW DAYS ★ プチDAYS★ブルックリン物語

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ブルックリン在住の大江千里が日々の暮らしを綴る6000字前後の読み応えあるエッセイ。「NEW DAYS」も仲間になりました。単行本『ブルックリンでジヤズを耕す 52歳からのひとり…
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記事一覧

プチDAYS 「ぴと夕涼み。」

今年の夏、日本に帰る少し前に、マンリーから、 「にいちゃん、実家、最後のタンス出したで。これで鍵渡したら終わりや。」 とラインがあった。 そうか、 2人とも実家にはもう住まないしどうしよう処分しないと、と話したきり互いに避けてた会話……あっという間に数年が流れた。

¥150

新新 *SenriとRyokoのおしゃべり泥棒* 7

ノーランとJunkoさん、僕の3人での音の見直し日、思ったよりも時間を要することがわかったので夜に予定してたdinnerをドタキャンした。なんかドタキャン多い。 間が悪くエアコンの直し作業が入ってしまいスタジオの温度がうまく下がらない。僕は汗がポタポタ床に落ち、水溜りを作る寸前だったが、細かい作業のJunko さんやノーランはもっとかわいそうだった。痺れを切らしたノーランが「もう我慢ができない」と頼み込み、ボスのアーロンが本来ミックスで使う部屋へ移動させてもらうことに。

プチDAYS「FOOD DANCEでワルツはいかが?」

昨日はリカバリーデート。一昨日ドタキャンした友人との。もうかれこれ140年くらいの付き合いになるNYに35年住んでる日系の友達。 6月に日本に行く前に会ったきりだから2カ月ぶりになる?もうこのあとの日々は怒涛の自己リハに突入するので最後の夏の終わりと秋の始まりを満喫する楽しみもあって。 「Senri、もしかして前に会った時(6月)と同じ服じゃない?」 「え? 嘘でしょ? おしゃれしてきたのに! もしかして久しぶりに会うので気合いが入りまくって、下も上も前あった時と同じコ

新新 *SenriとRyokoのおしゃべり泥棒* 6

撮影のあった翌日も、いつもの午後1時前になるとスタジオのベルを押して古いビルの中の迷路を行く。そしてAndyがスタジオのドアを開けて待っててくれる。今日もレコーディングの始まりだ。 僕が最近家で飲んでるブルックリンで一番安く手に入るコーヒーとおそろ、安くて尚且つおいしいエクアドルのコーヒーを、ノーランが手際良く淹れる。僕らはBスタジオ。この前みんなで賑やかにリズムを録ったAスタジオにはジャズビッグバンドのレコーディングがこの日入ってて、人懐っこいジャズメンたちが「よ!」と声

¥200

新新 *SenriとRyokoのおしゃべり泥棒*1

Ryokoさんご一行がニューヨークに到着。僕がproduceをする今年冬発売のJazz Album『Life Is Beautiful』のレコーディングのためだ。 マネージャーさんたち、通称エンジェルボーイズのミゲルさんとパンチョさん、そしてRyokoさん。民泊のチェックインより早く到着したものの、全てが奇跡のようにスイスイとうまくいき、お掃除の片言の英語を話すヒスパニックの女の子も「Enjoy your stay!」と満面の笑顔で手を振り去って行った。民泊で必ずと言ってい

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新新 *SenriとRyokoのおしゃべり泥棒* 2

リズムの日は9曲録音する。アルバムの曲数が9曲、厳密にいうと8曲+ボーナス曲が1曲、合わせて9曲。 録音中何が起こるかはわからない。なので油断や楽観は禁物だ。10時間で一応スタジオをLock outという形で押さえてあるが、11時にはカウントオフして1曲目の演奏を開始する。僕がproduceするプロジェクトは11時と言ったら集合11時ではなくて本番の録音スタート11時だとみんな認識しているので、それぞれがその瞬間に向かって仕上げてくる。 映像チームのSamとStephan

¥200

新新 *SenriとRyokoのおしゃべり泥棒* 3

リズム(ピアノ、ベース、ドラムス)のバッキングドラックが仕上がり、そのミックスされた音源に載せていよいよボーカルレコが始まった。 ミックスボイスという呼び方の声で今回のRyokoさんは歌っている。ヘッドボイス(裏声)でもチェストボイス(地声)でもないその両方を併せ持ったミックスされた声なのだ。 おでこあたりのパレットを開く。そこに声を当ててリズムに乗って歌っていく。音域が地声の範囲に降りても実声を落とさずヘッドに響かせたままに。左足のダウンビートと右手のアップビートのカウ

¥200

新新 *SenriとRyokoのおしゃべり泥棒* 5

スタジオにやって来ると前に使ってる人たちがまだ撮影中みたいで中から盛り上がる声が聞こえてくる。 後5分、果たしてその人たちは撮影をキッチリ時間通りに終えてくれるのだろうか? ちょっとプロデューサーはそのことで頭がいっぱい。 時々中から関係者が、 「撮影終了で物を運ばないといけないので、車を横付けにするからね。ごめんね。」 と出たり入ったりする。トレイシーがそんな中の様子をふとのぞいて「あ」と大きな声をあげる。 「フォローしてるインスタグラマーの、あたしの大好きなマジ

¥200

新新 *SenriとRyokoのおしゃべり泥棒* 4

雨女の異名をとるRyokoさんがブルックリンにやってきて居を構えてからのニューヨークは、コロコロ天気が変化する。にわか雨、ざーーと雷雨、カラッと雨が上がった後には、今度は虹が見える。 レコーディングのちょうど真ん中あたり、ボーカル録音をやっている過度期に1日外での撮影日を設けてあった。プロデューサーとしてはこれはdistribution labelから預かっている大事な案件の一つである。 still(スチール)カメラウーマンのトレイシーと日夜、 「当日100%雨か。予報

¥200

特別寄稿 「時空越えの旅の栞」

ほぼ1カ月以上日本にいた。 なのでかどうかは自分でも定かじゃないのだが、ブルックリンやニューヨークの生活が随分に遠く、どこかへ減衰してるように感じられて。 不思議だ。それほど"BIG SOLO"が自分にとって没頭ツアーだったのだ。不安と気づきの間で何をやったかというと、ピアノとずっと戯れていて、記憶として一番残ってるのは客席を見渡す度に飛び込んできた顔だ。多くの人が笑っていて泣いていた。 あの涙の意味をうまく言葉で表現した友達がいる。オペラシティに来てた秋元奈緒美さんだ

プチDAYS 「BIG SOLOを考える」

BIG SOLOが終わって一夜明けると手首も指も肘も肩も意外や意外、全然大丈夫なのに驚いた。囁くような音から爆音に近い音まで弾いていたにも関わらず、実はそんなに力を使わずにまるで「風船を膨らます」ようにピアノに向かって、客席の熱気を吹き込んでいたのだ。 胃腸炎で倒れた後の2公演はピアノに慎重に触れるところからの再スタートだった。BLUE LIVE 広島のKAWAIのフルコンは、触れると前に触れた時の記憶を即座に蘇えらせてくれた。鍵盤の隙間に、目に見えない薄い膜を張り巡らした

¥150

特別寄稿 「青春63切符は知ってますか?」

ツアーがあっという間に後半戦に差し掛かった。 思えばブルックリンでの荷造りの日々。出来てたことと出来なかったことを抱えつつ朝ラガーディアへ向かったあの朝、まさかこの心に光が差してくる瞬間が訪れることを知る由もなかった。 ぴの逝去による悲しみで目の下が膨らみ、「歩き過ぎ、練習し過ぎ」で腰、背中、膝、手首、首、指が変調をきたし、幾つもの仕事の質も量もそれぞれが重く濃く、一旦一個に集中すると遅々として進まない全体像への不安と恐れ、茫然とする気持ち、それが霧のように目の前に立ちは

プチDAYS 「今週のサニサイを京都で録音してからサンダーバードで金沢へ!」

ここのところ流石にハードなスケジュールが続いている。 RYOKOさんのレコーディングをPVやTeaserでおさえるのでその監督Samとzoom meetingしなければいけないのだが、日本とニューヨークで互いの空いてるスケジュールがなかなか合わない。加えて僕の頭の中が「基本はET(東海岸時間)なのに今は日本にいて身体はJapan Time(日本時間)、でいながら伝える時それをもう一回ETに戻してSamに言わなきゃいけない」のがなかなか難しい。 譜面や音源等の資料を関係者で

特別寄稿「マンリー一家がやってきた!」

マンリー一家が箕面にやってきた。 「2時に開演やろ? 1時に安井さんにチケット37枚支払って交換することになってんねんけど、その前後でにいちゃん会えるかな? 楽屋で?」 手元の携帯のラインが鳴った。 その頃、センリーはKGグリークラブの女子たちとのリハ、もうお馴染みになった宝塚少年少女合唱団のみんなとのリハを終えて、楽屋でひとり忙しく本番準備をしていたのだ。そこへこのメールなので、慌ててマンリー家族がすぐに座れるようソファいっぱいに散らかした自分の荷物を片付け始めた。