ヘイゼルと僕。2《根花のヘイゼル》統率者デッキ紹介(チャレンジ帯)
(↑前回)
『ふぁ〜あ』
八重歯が溢れんばかりの大口を開けたヘイゼルは僕に見られていたことに気がついてはにかんだ。ブル〜ムバロウにいた頃の彼女の栗毛のように明るいオレンジ色が窓の外を包んでいた。間も無く日が暮れるだろう。
『何よ。あなたは今日も夜更かしする訳?』
「僕はもともと人間だからね。夜には強いんだ」
この間までリスとして生活していたヘイゼルは人間の生活リズムにまだ慣れないらしい。
「明日のご予定は?夫人との昼食会は来週だっけ?」
『来週よ。シチューをご馳走してくれるみたい。具沢山で有名なあの。明日は特に何も無いわよ』
「そう。そういえば、こないだ君に言っていたデッキのレベル7構築。組み終えたんだけど見てみない?」
さっきまで眠そうにしていた目をキラキラ輝かせて、彼女は僕の膝に座った。
『今日は少し夜更かししてみようかしら。』
「レベル帯を上げるにあたってヘイゼルの独自性が何かを再考していたんだ。君はなんだと思う?」
『うーん。パンチ力ならどっきりドングリ団だし継戦能力でもどっきりドングリ団だったよね。ニッチなケモナー需要もサワギバさんの物、トークンを増やせるのはサワギバさんと私と共通しているから、私だけの独自性と言ったらマナを出せることかしら』
「そうだね。大量マナを出せることが君にしかない強みだ。今回はその強みを生かした構築にしたんだ」
彼女は慣れた手つきで丁寧に床にデッキを広げていく。
『マナベースの大枠は変わらないわね。土地にバウンスランド、マナファクトに魔力の墓所と宝石の睡蓮が増えたくらい…これは上のレベル帯で遊ぶためには仕方ないものね』
「キルターンの上振れを狙うためには必要だね。このデッキは妨害無しでのキルターンを4〜6に設定してある。初手に太陽の指輪、魔力の墓所、宝石の睡蓮があれば4、それらが無ければ6くらいの目安値だ。
実際は妨害が飛んでくるし自分も妨害札を使わないといけないからあくまでも目安としてのキルターンだね。
もちろん3人のライフ合計120点を4〜6ターンで削るにはフェアな戦い方はしていられない。これはコンボデッキだよ」
『どんなコンボを狙うの?』
「ライフを削り切るための無限リストークンを
小走り樫+キヅタ小径の住人 から
リスでない無限1/1トークンを
硬鎧の大群+東の樹の木霊+バウンスランド から
無限トークンを生成してもそのままだと召喚酔いで勝てないから上記のいずれかに加えて調和の中心も必要だね。
他にも、
不浄なる者、ミケウス+歩行バリスタ+想起の拠点or食肉鉤虐殺事件
を使った無限ライフドレインもあるよ」
『どれも3枚以上のコンボってこと?要求値が高くない?』
「そう。これは”最終的な勝ち方”だ。たまたま揃ったらラッキー。このパーツを集めるためのコンボの方がこのデッキの根幹かな。
ペレグリン・トゥック+ヌカコーラ自動販売機
食物トークンが3つ以上あるときにこの2枚が揃うと無限ドロー、無限宝物トークン(タップ)になる。このままだとマナは増えていかない。ドローの最中に見つけた精力の護符を置くことで、以降は1ドローにつき宝物トークンが3つ出てアンタップして実質3マナ増えることになる。
とんでもなく山の下の方に精力の護符が落ちていない限りは大体決まるさ」
『それでも2枚+食物トークン3つが必要なコンボなのね。私の独自性って言ってた大量マナは何か関係あった?』
「食物トークンは君の召喚酔いが明ける頃には3つ賄えるように組んである。ヘイゼル自身でも増やせるよ。
大量マナについてはこれらのカードに注ぎ込みたいんだ。
召喚の調べ、歯と爪、イコリアへの侵攻
どれもクリーチャーサーチだね。持ってくるクリーチャーは溜め込む親玉。これは手札にあれば素出しでも構わない。とにかくこれを出すためにマナが必要なんだ。
詳細な過程は省略するけど(2)(G)浮いてる状態の溜め込む親玉の着地誘発から切断マジック、Sacrifice、ヨーグモスの意志と繋げて最終的にペレグリン・トゥックとヌカコーラ自動販売機をサーチしてプレイするところまで可能になる。
そしたら精力の護符を引くまでドロー、マナが増えていけば最初に紹介したコンボのいずれかを通して勝ちだ」
『コンボのために複数枚のカードが必要に見えるけど実質的には溜め込む親玉の1枚だけ、そしてそこまで繋がっているのなら食物トークンからマナを出しているからコンボが最後まで成立するってことね』
「そういうこと。上振れ要素の追加として再誕のパターンってカードもあるよ。
エルドラージ・落とし子・トークンにエンチャントしてそのまま生け贄にしたり、適当なクリーチャーを命取りの論争や悪魔の意図のコストにしたり、リストークンにつけて頭蓋骨絞めで破壊することやリスの将軍、サワギバの起動コストにすることでも誘発して溜め込む親玉を引っ張り出せる。
細かく見ていけばまだまだコンボルートはあるから自分でも探してみて」
『これはえっちなカードね。気になったんだけどトリスケリオンは入れないのかしら?不浄なる者、ミケウスと2枚コンボで勝てるわよ』
「トリミケコンボはトークンが絡まないし、サーチ先としてどうしても他のコンボより優先されてしまう。簡単に勝てるからね。僕はヘイゼルを活かして勝ちまで持っていくデッキにしたかったんだ」
『あなた…』
ふと窓の方に目をやると、外の世界は既に闇に覆われていた。眠たげな様子を感じさせない妖艶な瞳が真っ直ぐに僕を見つめる。
何を考えたのか、悪戯に微笑んだ。
僕たちの夜はまだ始まったばかりだ。