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個人的に好きなやつら

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詩みたいなものたち
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#詩

春が嫌い

春のうららかな風が優しく包み込む ハトが寄ってきたので食いかけのおにぎりをあげた ハトって意外とちゃんと鳥の顔してんのな あ、カラスが鳴いたから一斉に飛び立った。 外の世界に目を向けられるようになったのは 心に余裕が生まれてきたからだけど、 所詮人間。心が大きくなることなんてない。 単純にすかすかになったんだ そのスポンジを、日本人は"器が広い人"と呼ぶ それはもう春が正しいように、そう呼んでいる。 我ながらくそつまらない人間になったと思う。 この余った

マリンスノーの詩

死なないために生きてた僕は 君の世界が見たくって 生まれた時から身につけられた 救命胴衣を脱ぎ捨てた 周りは心配してくるけれど 君らも後悔しないでね 息苦しさに落ち着きながら 君の元まで堕ちていく 僕が来るのは分かっていたの それとも他人に興味なし? 底に溜まった屍集め 瞳を滲ませ君は言う マリンスノーになって溶けたい 私が死んでも泣かないで 優しくしない優しい君は どれだけ待っても振り向かないけど 積まれた殻と君の横顔 眺めていれればそれでよかった だけど君が流した涙

放物線の詩

布団に包まるよりも、土に埋まりたい できれば花壇の下がいい 足にはリンドウ 腕にはスイセン 体にはヒマワリ 頭には、何だろ みんな僕に根を張り巡らしてすくすく伸びていってほしい 生きた証は受け継がれていって 彼らの笑顔を見届けたら 魂はさっぱり洗い流されて 形而上の核は誰にも掘り返されることなく どこまでも薄まっていって 終には空に溶けてしまいたい いつ終わるのか分からない宇宙の歳月を経て 空の遥か彼方まで無限に広がっていきたい 旅路はそこからが本番 波に流される前提で

天動説の詩

汚れた心を透明水彩で描けていたら 穴はもう少し埋まるんじゃないかって思うよ 優しさに触れるとずきずき痛む そんなに素敵な言葉は浮かばないよ 遠のいていく星を追いかけてみたけど 今来た道も忘れていて 芒に囲まれて独りぼっち どこにも属さないあぶれ者だって叫んだら 高慢だよって返ってきた そんなまさか

退屈は人を殺せるか

人生に疲れた、なんてこともなく。 今日も何もない一日が過ぎ去った。 空は青いまんまだし、雲は小さいまんまだ。 夕焼けの赤さも、あけぼのの青さも知ってしまった。 金木犀の香りは何度目だろう。 学べば学ぶほど知らないことが増えていくだなんて嘘っぱちだ。 突き詰めれば全て哲学に行きつくのだから、この世に知りたいことなんて1つしかない。 「自分がどうしたいか次第」 それがなんともつまらないのだ。 天変地異でも起きないかと期待している。 台風、地震、土砂崩れ、洪水 そんな非日常に灯

詩|とある曇りの日

今日も天気はくもり 空はもう何日も見ていない 汗を吸った布団 クリーニングに行かなきゃ お気に入りの動画も頭に入らない 忘れていく記憶 遠のいていく風船 薄れていく指の感触 そして迫りくる壁 感じる命の消費期限 だけど歩を早めたりしない 走る気力がない だから立ち止まってみる つかの間すり抜けていく風 体の芯は微動だにしない 誰も連れ去ってくれない ただの勘違いだった 壁なんてどこにもない 目指す場所がない 立ち尽くした凪の夕暮れ 仕事に、行かなきゃ 積み木が崩れ落ちるの

詩|やすり

もしも命が二つあったなら、 一つは自殺に使うだろう 心臓をやすりで削っていったら、 何が大切か分かる気がするから 残った真珠はあなたに贈っていただろう けれどあいにく僕は人間なので、 大人になっていくんだろうな 成長と自傷は紙一重だね

詩|オオカミ少女

怖いと言ったから、君は守ってくれたけど、 私は本当に怖かったの? 君が笑ったから私も笑ったけれど、 私は本当に楽しかったの? 「君は本当に怖がりだね」なんて君は言うけれど、 嘘だとしても守ってくれる? 今度は 怖くないよ、と言うと どっち?と笑ってくる 今度は、私は笑わなかった こんなことがしたいわけじゃないんだけどな ねえ、私はこっちにいるよ