はじめて畜産に向き合った日

もう、畜産の勉強を始めて5年目になるのか。

以前も少し書いたかもしれないが、私は高校生の時、一切の家畜や畜産に興味がなかった。そればかりか、うっすらと苦手意識があった気さえする。苦手意識、というか正確に言うならば、日々の生活に欠かせない大事な産業であるということはもちろんだけれど、私はきっと悲しいきもちになるから積極的に関わりたくはないかな、と。大学も動物学を学びに入学したのであって当時の私の脳内は今みたいに畜産畜産していなかった。

そんな私は大学1年生の時に、養豚場に実習に行った。正直なところ、養豚という産業に興味があったというより、ブタという動物をもっと見たい!知りたい!という知識欲だ。
昨今はブタ熱で動物園や観光牧場でもブタは遮蔽されたところで隔離して飼育されていることが多く、生でブタを見ること、ましてやブタに触れることなど早々できない。ブタに触れたい!という一心で応募していて受け入れが決まった。

いざ実習。

申し込んだはいいけど、申し込んでから怖くなった。
もうブタ肉が食べられなくなったらどうしよう。なんていう、今考えたら笑っちゃうような心配も本気でしていた。戦々恐々としながら挑んだ。
いざ養豚場についてみるとブタってこんなに大きいの!?!?!とびっくりした。本当にそのレベルで私は何も知らなかった。
普通科の高校を出ていたし、大学1年生の夏なんてまだ専門科目の1つにも触れさせてもらっていなかったからすべてのことが初耳・初見だった。匂い・音・耳の形・皮膚の硬さ。知覚できる全てに驚いた。

作業の詳細は省くが全体的に力仕事で、コロナ渦真っただ中で引きこもっていた私にはとてもハードだが気持ちのいい労働だった。1日で全身が筋肉痛になったのを覚えている。ブタたちはとても愛されて育っているため、人の声に反応して寄って来る姿になんてかわいいんだ!!!と思った。

お昼。先方がバーベキューを用意してくださったた。もちろんそこで育ったブタのお肉だ。でもちっとも怖くなかった。
食べてみて思った。誤解を恐れずにいうならば、お肉も野菜と同じだと。例えば小学生の頃クラスのみんなで丹精込めて育てた野菜は普通の野菜よりもなぜだかおいしく感じた、みたいな経験、それと本質的には全く同じだと思った。
農家さんがどれだけこの子たちみんなを愛し、大事に育て居心地のいい環境を提供するためにくる日も来る日も徹底した管理を行ってきたのか、実際見たからよくわかる。おいしいごはんを食べさせてもらって、すくすく育ったこの子たち。もはやおいしいに決まっているのだ。
本当にびっくりするくらいおいしかった。畜産っていいなと思った。

明日出荷されるブタ

その後も仔ブタのワクチネーションをしたり母豚の移動をしたりとバタバタ過ごした。
短期間だったが何日かの実習を終え、最後に
「明日と場にいく子たちをみるか?」と聞かれた。
どきどきしながらはいと答えると肉豚舎に入れてもらえた。
「腰のあたりを触ってみな。きっといい成績を残してくれるよ。」とおっしゃっていた。
本当にいい感じに肉がついていて、分厚い腰だった。
温かかった。温かくていい弾力だった。

現場に入るまで「出荷」ときくとお肉になる動物たちへの哀愁みたいなのをなんとなく想像していたが、実際は出荷のトラックに乗るその時まで、大事に大事に丹精込めて育てられて、自信満々で行ってこい!と送り出されるのに近いのだと感じた。出荷は門出なのだ。

これまで食べてきたお肉たち、実習でかかわったブタたち、農家の人たち、と場の人たち、、、等々家畜に、そして畜産に関わっている方々に感謝の気持ちでいっぱいになった。

最後に

この実習から家畜に向き合ってもお肉を食べられなくなるかも、なんて思わなくなった。もちろん家畜は痛い思いも沢山しているし、そこを可哀相だという気持ちがなくなったわけではない。
でも、私は全部受け入れてお肉を食べるという選択をする覚悟ができた。家畜たちが最後までせいいっぱい生きた産物を、ありがたく頂戴して生きていくのだ。

畜産という産業の内側に入り込んでいきたい、もっといろんな人の話がききたい、家畜に触れたい、と強く思ったいい機会だった。

私の人生が大きく変わった実習だった。


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