ある日ボスが消えた

これは、sennaアドベントカレンダーの14日目です。
昨日はsenna的今年の漢字についてsennaが書きました。今日は近所のカラスの話をします。

僕が今の家に住んでから6年近く経とうとしている。仙川歴に関してはもうすぐ12年。余談だが本当にそろそろマンションか家を買いたい。
あと、どうでもいいけど戸建てで育ったせいか家っていうと戸建てのイメージが強い。家にはhomeという意味もあるけど、どうしてもdetached houseのイメージが先行してしまう。なので日本語的に家と表記することが正しくても、今住んでいる場所はflatと言いたくなる気持ちがある。


さて、本題に戻すとしよう。
今の家に住みはじめた頃、ある日、玄関の扉を開けたら、声も図体も大きすぎるカラスが目の前に鎮座していたことがあった。
僕はロンドン塔の飼い慣らされたカラス以外は苦手というか怖いので、思わず扉を閉めてそのカラスがその場から離れるまでドアスコープから様子を見守った。
離れたのを確認して外に出ると近くの電柱に停まっており、怖すぎて、見つからないようにそそくさとその場を去ったのを今でも覚えている。

そのあまりにも大きなカラスはいつも僕の家の近くにいた。僕は彼(彼女だったのかも)にボスと名前をつけた。なぜならボスはいつも他のカラスたちからは距離を置いていて、時には威嚇して追い払ったり、時には電柱の上から眺めたりして、風貌も態度もボス感があったからだ。

最初は怖かったボスだが、観察するうちに他のカラスよりも怖くなくなった。
まず、ボスは無闇に人を威嚇しない。僕の家の前に鎮座していた時もそうだったが、アクシデント的にそこそこ近い距離に近づいてしまっても、どっしりと構えているだけで、威嚇したり、襲ってきたりは決してしない。
次にボスはゴミを漁らない。時々近所のゴミ捨て場でゴミを漁っているカラスたちがいたが、ボスは近くにいてもゴミを漁るようなことは絶対しない。むしろ無関心である。
それらの光景を見ていてボスへの恐怖心は減っていった。

ボスが怖くなくなってから、よりボスを観察するようになって気づいたことがあった。ボスはいつも近所の森(木が生い茂っているエリア)の方へ帰っていく。僕はボスの帰っていく先には何があるのだろうと思いつつもそれを探ることはなかった。

そんなこんなでボスがいる生活が当たり前になってから3年と少しが経って、僕は唐突にボスの棲家を知ることになる。

コロナ禍で運動不足になり、休みの日には最寄駅とは反対側に1時間以上の散歩に出るようになった。ある日、住宅街を通って芦花公園に行ってみようと思い、近所だがこれまで通ったことがなかった道の方へ歩いて行った。
その時初めて家の近くに小さい稲荷神社があることを知った。神社自体は小さいのだが、鳥居はないものの参道にあたる場所がしっかりとあり、等間隔に植えられた驚くほど背の高い木に囲まれていた。
何となくその場所だけ空気が澄んでいて、恐れを感じた。恐れといっても、fearではなくaweという感じだった。

運動不足解消のため、コロナ禍で在宅が続いた時期は、頻繁に芦花公園まで散歩に行くようになった。そんなある日、稲荷神社の前を通ると、神社にある背の高い木を目掛けて飛んでいくボスを見た。その後は何度もそこにボスがいるのを見かけるようになった。
定めし、そこがボスの棲家だったのだろう。

それを知ってから何となくすべて合点がいった気がした。
今ではゴミを漁り、人を威嚇し、嫌われ者のカラスではあるが、元来日本神話においては神使であった。神社でカラスを見ると縁起が良いとも聞いたことがある。
ボスのあの風格と厳かな性格は神使であるが故だったのか!と思った。

そして昨年、2021年の秋ごろ、ボスは唐突に消えた。
最初は理由が分からず、そういえば最近ボスを見ないなと思っていた。コロナの状況が落ち着き、稲荷神社の方へ散歩にも行かなくなっていた頃だった。

ボスが姿を見せなくなってから1ヶ月ほど経った頃、さすがにボスのことがきになり、稲荷神社の方へ足をむけてみた。
稲荷神社の前についてすべてを察した。

稲荷神社の隣の空いていた土地はアパートの建設中だった。稲荷神社の参道にあたる場所にあった木は上部の葉や枝がほとんど切り落とされていた。それどころか等間隔に植えられていた木のいくつかは根本近くから切り倒され、完全に切り株となっていた。
もうその場所にaweという感情を抱くことはなかったし、1年経った今もそれは変わらない。

神使を失ったお稲荷さんに今も神はいるのだろうか。なぜ樹々は切られなければならなかったのか。それは僕にはわからない。

ただ僕が知るのは、僕がこの家に移り住んだ時からご近所づきあいを続けた。カラスのボスが消えたしまったということだけである。

今はただ、ボスがまた別の神社で神使となっていることを切に願っている。

それにしても、世界中の神話や伝承に登場するカラス、比較神話の研究対象にしたら絶対楽しいんだろうな(絶対大変だし、何か国語学ぶんだ?となりそうだけど)。

明日はsennaがある種自分のブランディングに成功した話について書きます。たぶんね。

英語を勉強したり、広報したり、民俗学を学んだりしています。