見出し画像

2020年NHK大河ドラマ『麒麟がくる』の菊丸の正体

 ネットで話題になっている菊丸の正体について聞かれて、
「三河の百姓じゃないの?」
って答えると、
「ボーッと生きてんじゃねーよ!」
としかられそうなので、ちょっとだけ考えてみた。

 公式サイトには、「光秀が美濃で出会う三河出身の農民。神出鬼没で、敵か味方かわからないが、常に光秀の危機を助ける」とあり、劇中の自称は「三河の百姓」である。そして、オリジナルキャラだという。

 最初、発表された時は「三河出身も、オリキャラというのも嘘だろ。尾張国出身の日吉丸(後の豊臣秀吉)だろ」と思ったが、「豊臣秀吉は佐々木蔵之介さん」と発表されて「言わなくてよかった」と胸をなでおろした。というのも、私は1度、恥をかいている。『おんな城主 直虎』において、「高瀬姫は実子で、武田のスパイではありません」「堀川城を築いたのは新田友作ですから、龍雲丸は新田友作です」と言ったら、結局、高瀬姫は武田のスパイで、龍雲丸はオリキャラのままで終わった。(拙稿「井伊直虎の真実」(『週刊ザ・テレビジョン』(角川書店)2017/5/26号)参照)。とはいえ、『おんな城主 直虎』には、新田友作は登場せず、龍雲丸=新田友作の可能性は残された。)『おんな城主 直虎』が終わってから、「龍雲丸」という名について、「丸」は元服前の童子の名であるが、かといって「龍雲」だと僧侶っぽいし、「龍雲丸」だと船の名のようだが「真田丸」に対抗させたのかなと思った。(『おんな城主 直虎』は終わったが、未だに「『おんな城主 直虎』のファンだ」と自称する方々がおられ、その方々によると、「龍雲丸は実在の人物だ」という。「井伊直虎男性説というのがある。あれは井伊直虎と行動を共にした龍雲丸を井伊直虎だと勘違いしてしまった人々による伝承である」──ちょっとついていけない。)

1.菊丸は農民なのか?


 初登場の場面で、菊丸は、「三河の国で山菜を採っていたら、野盗にさらわれた」(第1話)と語っていた。さらわれたのが1人しかいないというのはおかしな話ではあるが、野盗は明智荘を襲って、10人くらいさらおうと思ったが、明智光秀らの活躍で失敗したという設定のようだ。この時、菊丸は、恩人である明智光秀の名を聞かずに、お礼だけ言って去ったが、後に明智光秀という名前を知っていたことが判明した。村一番の足の速さを誇る菊丸が野盗に捕まるはずがなく、「野盗にさらわれた」は、明智光秀に近づくための手段であったのだろう。

 ──菊丸は怪しい。

 そもそも、「農民」とは、作物に水や肥料をあげたり、雑草取りをしたりと、その土地から離れられない「一所懸命」の人である。三河はもちろん、尾張も、美濃にも詳しい菊丸は、「農民」ではなく、「薬草売り」「行商人」であろう。

2.菊丸は、狐か? 忍者か?


 「足が速い」ということからは、美濃国の伝承「狐女房」の狐の子孫と考えられる。出典は景戒が著した『日本国現報善悪霊異記』(通称『日本霊異記』)の「狐為妻令生子緣(狐を妻として子を生ましめし縁(はなし))」である。
故、其令相生子名、號「岐都禰」。亦、其子姓負「狐直」也。是人、強力、多有。走疾如鳥飛矣。三乃國「狐直」等根本是也。」(故に、其の相生ま令(し)めし子の名を、「岐都禰(きつね)」と号す。亦(また)、其の子の姓(かばね)を「狐直(きつねのあたへ)」と負ほす也。是の人、強き力、多(あまた)有り。走ること疾(と)くして、鳥の飛ぶが如し。美濃国の「狐直」らが根本、是れなり)」。
 後日譚「力女捔力試緣(力女(りきにょ)、捔力(すまひ)し、試しみる緣)」には、
三野國片縣郡少川市、有一力女。為人大也。名為「三野狐」(是昔三野國狐為母生人之四繼孫也)。力強、當百人力。」(美濃国方県郡小川市に、一力女有り。人と為して大き也。名を美濃狐。是は、昔、美濃国の狐を母と為して生まれたる人の四継孫也。力強く、百人力に当たる。)
とある。
 つまり、キツネとの間に生まれた子は「きつね」と名付けられて「狐直」の祖となり、4世孫の美濃狐(本巣市の小川市場在住)は、名古屋市古渡在住の力女と角力(相撲)をとって負けたという。ひょっとして、菊丸は吉法師と相撲をとって負け、吉法師の家来になるのでは?

 第4話では、明智光秀が苦戦していると、木陰から野良着の集団(菊丸が所属する集団)が織田方の追っ手に石を投げ、的確に手に当てて痺れさせ、刀を落とさせていた。「狐」「猿」といった名ではなく、「菊丸」という立派な名前からしても、「龍雲丸」のように、ある集団(野盗? 忍者?)の棟梁だと思われる。そこで思い出されるのは、『太閤記』で、日吉丸が仕えたという蜂須賀小六(川並衆の棟梁)である。

※川並衆(かわなみしゅう):尾張国と美濃国の国境を流れる木曽川沿いに勢力を持ったとされる土豪の集団。伏屋一夜城の建設に伴い、織田家家臣となり、豊臣秀吉に付けられた。その後の墨俣一夜城の建設も彼らの功績である。とはいえ、「川並衆」は、偽書とされる『武功夜話』にのみ登場する。また、『太閤記』では、日吉丸と蜂須賀小六は矢作橋で出会ったことになっているが、当時、矢作川には橋が架かっていなかった。

3.ネットでの予想


 ネットでは、
・忍者の棟梁:服部半蔵、滝川一益
・野盗の棟梁:蜂須賀小六
・盗賊の棟梁:石川五右衛門
・千利休
・麒麟
・小栗栖で竹槍で明智光秀を刺した農民
・明智光秀の重臣「明智五宿老」の誰か:①斎藤利三(キャスト未発表)、②明智左馬之助(キャスト未発表)、③藤田伝五(徳重聡さん)、④明智光忠(光秀の従弟=明智光秀は顔を知っているはず)、⑤溝尾茂朝(キャスト未発表)の5名で、②の可能性が高い。
などと予想されている。

 私の予想は、原点に帰って、「豊臣秀吉」である。
 佐々木蔵之介さんの公式ビジュアルを見て確信した。「豊臣秀吉のビジュアル」といえば、「派手な甲冑に煙管」が一般的であるが、あの公式ビジュアルは、成長し、元服した菊丸(「丸」は元服前の童子の名)としか思えない。NHKが視聴者に与えたヒントなのであろう。

  今までの情報をまとめれば、「今は忍者で、雇い主は、三河国の誰か。西三河の松平氏か水野氏、東三河の戸田氏か牧野氏。忍者のまま一生を終えるのか、忍者をやめて有名人になるのかは不明」となるでしょうが、忍者の掟は厳しく、抜け忍は許されないといいますから、一生、忍者のままでしょうね。

 なお、豊臣秀吉の出自(通説の豊臣秀吉農民説)については、『明智軍記』第8話「秀吉公立身之事」、異説(豊臣秀吉忍者説ではなく、豊臣秀吉武将説の方)については第9話「信長公妹被嫁浅井事付斎藤龍興落居事」で解説させていただいた。
※『明智軍記』第8話「秀吉公立身之事」

※『明智軍記』第9話「信長公妹被嫁浅井事付斎藤龍興落居事」

4.年齢からの考察


 私の「菊丸=豊臣秀吉説」の欠点は年齢である。第4話(天文17年(1548年)春)時点での数え年は、明智光秀が21歳で、豊臣秀吉は12歳である。(菊丸=豊臣秀吉初登場の第1話では、明智光秀が19歳で、豊臣秀吉は10歳である。)若すぎる・・・。菊丸は、明智光秀(21歳)に、「私の方が兄に見える」と言ってる。これは、「実は20歳(弟)だが、老け顔なので、22歳(兄)に見える」ということか?
 年齢から考察すると、「菊丸は駒と結婚して京都の医者(望月東庵が曲直瀬道三(42歳)で、菊丸が弟子・施薬院全宗(23歳))になった」が適切か? 施薬院全宗は甲賀生まれなので、忍術の心得もありそうである。
 とはいえ、今回も「はずれ~。オリキャラの無名の忍者でした~」で終わりそうな気がする。

ここから先は

1,522字

¥ 100

あなたのサポートがあれば、未来は頑張れる!