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指揮者
苦手なことがたくさんある。
たとえば、人を「使う」という言い方。
編集者になって2年目の頃か。
当時勤めていた出版社の社長からこっ酷く叱られた。
わたしが電話口で「じゃあ、そのカメラマンを使いますね」と口にしたからだ。
その社長はわたしに「編集者は指揮者だ」と教えてくれた。
指揮棒を振っても、何の音もしない。
著者、デザイナー、カメラマン、イラストレーター、校閲、プリンティングディレクター、本ができるまでには、さまざまなプロが集まり、
それぞれに磨き上げられた楽器から美しい音色を奏でる。
それを一冊の本にまとめあげるのが、編集者である指揮者なのだと。
ならば、音を出すことのできない編集者は、本を作るために集まったプロを「使う」だなんてもってのほか。
お願いして、それぞれの表現を「してもらう」のだ。
20年以上前に叱られたあの日以来、わたしは本を作ることに限らず、
人を「使う」という言い回しをしなくなった。
そして、そうした言い方を聞くたびに、その言い方苦手だなと、心の中でつぶやくようになった。同じ考え方から、「業者」という言い回しも苦手になった。
センジュ出版の本、一冊一冊にかかわってくれているプロ達が奏でる音楽が、
読む人のほがらかな時間を彩ってくれますように。
この指揮棒をこれからも、しずかに、ユーモアをもって、
センジュ出版らしく振り続けることができますように。
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