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政次の手紙#08

文次殿

秋も暮れになりまして内地は寒さを覚え、朝夕は冷たいようになりました。御地方は今からが一番よい時候という事です。勉強努力する好時期です。部隊変更になってからの第一信を本日受け取りました。日頃の努力が報いられて首尾よく入隊せられた事は何より?しきると一同大いに喜んでおります。このたびますます奮闘努力、人におくれぬ様、成績を上げられん事を切に希望致します。

先般求む(十一月五日)ご通知のとおりの品物取りそろえ、慰問袋発送致しておりますが、まだ着きませんか。豊村さんよりも既に慰問品が送りてあるようです。

本日をもって出営以来、満一ヶ年となりました。永いようですが、また早いものです。田畑君初め、召集兵共十一名の入営者が出営致します。家内一同、元気です。母も至極元気で新樽の?出し等、手不足の時にはセッセと?出しております。君からの便りが遠くなると時々を愚痴を言うておる。

千代子も以前と打って変わり、毎日朝早く起きて会社の方へ通っています。本月などは給料も増していただきました。豊子も大元気です。これまた毎日休むことなく通局して本月は三十円以上の給料をいただき、また来月はたくさんの賞与があるといって喜んでいる。その反面、着物等買う事をのみ楽しみにしておる。政喜も近頃多忙なので、至極キバッテ働いておる。
昭子も昭人も通学忘れなく勉強して近頃は両人共、相当の成績になりました。私は元より元気ですよ。とにかく皆健康で銃後国民出征者家族として家内中が極円満に仲良く、苦楽をともにし気持ちよく明朗なる生活、新体制にそうべく、日暮らしを続けておりますから決して決して内の事とも心配するものではありません。
まず健康を第一に軍務に専念せられん事と切望する。

新聞等で見るに戦死はそれほどに感じませんが、戦病死とあるのを見ると実際涙が出る。同じく国家に捧げし身、しかも戦地に行きながら病のために倒れ、切もならずして果たし身はいかほど残念でありましょうか。家族の人々の顔を見るのも気の毒です。何とぞ、患わぬように気をつけてください。

また慰問品の準備をしています。柿をつるしている。つれ次第には送ります。また必要の品は通知してください。小遣い銭は充分ではありますまいが、いただくお金で辛抱ができますか。酒も少量くらい、元気付けに飲んだがよろしかろうが度を過ごさぬようご注意肝要。 さようなら。


 昭和15年11月30日 出営満一ヶ年

文中?は解読不明

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