見出し画像

文次の手紙#17

友人の家族から届いた手紙への返信
※友人のご家族のご好意により当家に預けてくださったものと思われる

拝啓 内地も暑い夏の盛りを過ぎはや涼風をそそる初秋の候となった事と思います。その後、みなさまにはお変わりありませんか。僕もおかげで変わりなく益々元気でいます。他事ながらご安心ください。
先日から懐かしいお便り拝見致しました。

内地は今からが一番良い季候になって来る事と思いますが、南支の暑さはまだまだこれからで、十月中くらいはこの暑さが続くとのことです。しかし、暑さもなれて来ると内地で想像されている様に対して苦しい事はありませんが、マラリヤ菌を有する蚊の多いのには少々弱ります。
今年は雨が降らず、全国的に非常な不安に襲われていた様ですが。幸い雨も降り、田植えも無事終わったとの事、いまごろは順調に稲も育っていることでしょう。

昔から支那の事を南船北馬といっている様に南支は河やクリークが非常に多く、土民【※1】はほとんど水便によって用をなしています。2、3日雨が降るとこの河やクリークがすぐ満水にして大水の出る事がたびたびあります。二毛作の当地方ではすでに第二回目の田植えが終わっています。

今、バナナ、パイン等、熱帯果物の出盛りで、バナナ等大きなすばらしいのがたくさんあって、我々もよく食べています。

津屋崎も山笠、海水浴等、今年の夏も例年の様に非常ににぎわった事でしょう。山カキ姿の彰ちゃんの姿が目に見るようです。今が一番悪そうの盛りで毎日元気に遊んでいる事でしょう。

畫【※2】をあざむく様な美しい月の出た夜など戦地で見る月もまた感慨新たなるものがあります。
こんな晩など月を眺めては戦友とともにいろいろ懐かしい故郷の思いでにふける事があります。去年の夏まで面白く遊んでいた時のことがいろいろ浮かんできます。

豪夫さんともその後、○○演習に行った時、また偶然隣り合わせの兵舎に宿営してそこに4、5日いたので毎日顔を合わせ、色々くわしい話もすることができました。
八里くらい離れた所におられる関係上、めったに会う機会はありませんが、豪夫さんは至極元気で務めを果たされておられます。ご安心ください。

先日から週刊朝日が届きました。殺風景な戦地では読み物なら何でも喜ばれます。西山さんから送ってきたのを思い、はがきを出していました。ありがとうございました。

ではみなさまのご健康を遠く南支の空より祈っています。

昭和15年9月1日 

文次より

本文中の〇〇は全て伏字、原文ママ
【※1(原文まま)】現地の部族
【※2】画・絵のこと


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?