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【小説】さようならの歌

あらすじ

「さよならば、いたしかたなし」。
冬を越せない運命を受け容れてきた虫たちが「さようならの歌」を歌う村に住むクモは、息子の親友バッタの冬越え用のミノ作りを思いつく。
その噂を聞いた村中の虫たちが「みんなで春が見たい」と騒ぎ出す。
トノサマバッタ村長の提案で、全員分のミノを作ることになったクモ。
しかしミノの完成直前の初雪で虫たちは全滅。クモも死ぬ。
みんなの夢はかなわない。
けれども、『カミサマの罰』で蝶に変身できないケムシと、ミノムシ時代の記憶を無くしたミノ蛾の「さようならの歌」により、クモが遺したミノは、子供たちへと受け継がれる。
「春が見たい」というみんなの夢はかなえられた。 

「さようならの歌」 千賀泰幸

桜の古木の麓の野原には、虫の村がありました。
秋の最後の満月の日は、秋と冬とのはざまの日。
秋が終わる日ということは、冬が始まる日ということ。
そのはざまの日の、たそがれ時は、昼と夜とのはざまの時。
昼が終わる時だから、夜が始まる時のこと。
秋と冬とのはざまの時に、音楽祭が始まります。

歌自慢はもちろんのこと、苦手な虫は裏方と、村のみんなが出演します。
それゆえ、観客といえば、クモとケムシとミノムシだけ。
「今年の祭りは、ずいぶん早いな」
 クモが首をかしげます。
 みんなには最初で最後のお祭りも、年寄りクモには二度目です。
 祭りの日取りを決めるのは、村長のトノサマバッタ。
 何故なら村の長(おさ)だけが、「秋が終わる日」がわかるから。
 バッタの指揮に合わせては、みんながみんな歌います

 満月が中天に至る頃、音楽祭は最高潮。
 祭りの最後の演目は、村全員での大合唱。
 バッタの指揮のもと、一世一代の晴れ姿。
 みんなの一生で、一度きりの合唱。
 一心不乱の演奏で、最高の曲を奏でました。
 それは、いつまでも、いつまでも、耳の奥で響いている歌。
 その歌が流れている間は、まるで時が止まったようでした。
 時が止まっているよう。
 なのに、それは「永遠」とでもいうような時間でした。
 秋の終わりの音楽祭。
 冬を越せない虫たちの、これが「さようならの歌」なのです。
 このお祭りはみんなにとって「さようならの音楽祭」なのです。

 
 月夜の道を帰るクモ。
 指揮者のバッタを想います。
 バッタは息子の親友です。
 息子は離れて暮らしています。
 故郷を出て、隣の村で、クモの息子は暮らしています。
 クモはバッタを見るたびに、息子を思い出してきました。
 今ではバッタのことも、息子のように思えます。
 クモは小さなため息ひとつ。
 そのバッタとも、もうすぐお別れ。
 祭りが終われば冬が来ます。
 虫たちのいない冬が来ます。
「消えていってしまうものを、必要以上に儚んではいけない」
 年寄りクモは、そのことを知っていました。
 そうしないと、心が擦り減ってしまうから。
 自分が誰よりも長く生きることが、クモには辛いことのように思えます。
 長く生きるということは、それだけ多くの命を見送るということ。
 命を見送ることは、悲しくせつないことなのです。
 前を行くケムシとミノムシも、冬を越えたらいなくなります。
「これが、理(ことわり)ということか」
 クモはため息を、もうひとつ。
「さようならば、いたしかたなし。と、別れていくしか、他にない」
 月下の蒼い道を、クモたちは帰っていきました。

 
 秋の終わりの翌日は、冬が始まる最初の日。
 ミノムシが、冬越え用のミノを受取りに、クモの家へとやってきます。
 八本手足のクモが、ミノムシのミノを繕います。
 その縫い針はケムシの毛針。
 二匹は一緒に暮らしています。

 初対面の虫はみな、たいていケムシを怖がります。
 全身毛針の虫なんて、滅多にお目にはかかれません。
 ケムシは全身の毛針で、われとわが身を守ります。
 誰もが近づけないように、毛針の壁で守ります。
 それゆえ、誰もケムシには、近づくことはできません。
 それゆえ、ケムシには、誰も友だちはいませんでした。
 ところが、なぜかクモだけは、他の虫とは違いました。
 ケムシとの初対面、クモはやさしく言いました。
「きみを絶対食べない、と誓う」
 そして、クモは頼みました。
「きみの毛針を『縫い針』に使わせて欲しい」
 最後にクモは言いました。
「一緒に暮らそう。短い間でも」
 その日を境にケムシとクモは、二匹で一緒に暮らしています。

「音楽祭までも、生きられないものもいる。
 バッタくんは生きて『さようならの音楽祭』の指揮者をつとめたのだも 
 の。バッタくんも、きっと本望だろう」

 クモは、繕い終わったミノを渡しながら、そう言いました。
「ありがとうございます。
 なにしろおれは、このミノのおかげで、冬を越すことができる」

 ミノムシが、にっこり受取ります。
「ミノが、ミノさえあれば、誰だって、きっと、冬を越せるだろうね」
 にこにこ話すケムシの言葉に、クモは思わず手を打ちます。
「そうだ、すごいぞ、ケムシくん。
 ミノがあればバッタくんも、きっと冬を越せるはず」

 ケムシとミノムシを家に残して、クモはバッタの家に全速力。

「こんな時、おれたちは足手まといだよね」
 ミノムシの苦笑に、ケムシも苦く笑います。
 八本手足で走るクモとは違い、ケムシもミノムシも、全身の伸び縮みでのろのろのろのろ進みます。
「ミノムシさん、あのね」
 ケムシは、ひとつ深呼吸をした後、話し始めました。


 桜の麓のバッタの家で、クモはミノの話をします。
「冬を越せるのですか? このぼくが?」
 バッタは心底、驚きました。
「ただし、ミノはあくまでも冬を越す為の道具。
 だから、たとえ、ミノを着たとしても、長く生きることができるわけではないだろう」
 バッタは、うっとり夢みるように。
「冬を越せる、のかあ」
「とにかく私がミノを作るよ。なあに、すぐにできる。できるさ」
「それなら、春が見たいなあ」

 クモは、バッタの言葉にびっくりします。
「あのね、バッタくんは、長く生きることになるのだよ」
「そうか、春を見ることができるのか」

 夏から秋を生きるバッタが、冬を越える。
 その先にある春を見ることができる。
 バッタにとっては、まさに夢のようなことでした。
 その夢は、長生きすることよりなによりも、大切なことのようです。
 クモは、理解しました。
「春か。そうだね。冬を越したら、そこは春だ」
「春は、暖かくて、いい匂いがして、色とりどりで、光に溢れていて。
 それはそれは、素敵なものなのですよね」

 バッタの輝く笑顔は、クモの顔をほころばせます。
 いつだって、笑顔はうつるものなのです。
 クモはバッタに約束します。
「私が、春を見せてあげる」
 クモは、晴れやかな顔をして、バッタの家を出ました。
 そしてさっそく、持てるだけの木の葉を集めました。


 その翌朝の夜明け前、クモは目を覚まします。
 虫たちのがやがやがやがやで、ケムシも目を覚ましました。
 戸を開けると虫たちが、村のみんなが揃っています。
 顔を出したクモをみて、みんなが一斉に叫びます。
「私のミノを作ってください」

 あれからバッタが仲良しのマツムシに、
 マツムシがウマオイに、
 ウマオイがキリギリスに、
 キリギリスが、みんなに話したのです。
「ミノがあれば、春が見られる」

「私のミノを作ってください」
 みんなの声は悲鳴のようです。
 クモの後ろでは、おろおろおろおろ、ケムシが震えています。
「ぼくが『ミノ』なんて言ったから、大変なことになっている」
「私のミノを作ってください」
 クモはみんなに圧倒されます。
 クモも大きな声をあげました。
「わかりました。ミノを作ります」
 みんなは一瞬静まり返り、そして大歓声をあげました。
 それからみんなは、我先に、自分のミノを頼もうと、もう大騒ぎ。
 その時に、トノサマバッタ村長の、大きな声が響きます。
「我らが冬を越せぬのは、カミサマの定めた理なり」
 みんなは揃って姿勢を正し、一斉に村長に注目します。
「もう、『さようならの音楽祭』は終わった。
 だから我らはこのままに、土に還る運命なのだ」

 静まり返ったその中で、キリギリスの声がします。
「それでも、春を見てみたいわ」
「死にたくないわけじゃない。ただ、春が見たいだけなのだ」

 と、ウマオイが声を上げます。
「だって、春を見るなんて夢。夢にもみたことはなかったもの」
 と、コオロギが。
「そして、もう、その夢を、みんながみんな、みてしまった」
 と、スズムシも。
「ミノさえあれば、その夢がかなう」
 そう言うクツワムシを、村長が指さします。
「そう! そうなのだ。ミノさえあれば春が来る。
 私たちの前に、ミノという新しい手段が現れた。
『さようならば、いたしかたなし』だ。
 私たちはいつだって、私たちに起こることをそうやって受け容れてきた。
 だから、みんなでミノを着て、みんなで春を見よう」

 大歓声をあげるみんなを、トノサマバッタは手を挙げて制します。
「でもね。でもね。
 もし、もしも、そのミノが、間に合わなかった虫は、どうなるの?」

 みんなは、だんだんだんだん、静かになります。
 そして、ほんとうに静まり返ります。
「ミノが間に合わなかったら、その時は」
 キリギリスの声が震えます。
「ミノが間に合う者と、間に合わない者ができてしまう」
 と、ウマオイが。
「命を長らえる者と命を無くす者。
 いや、夢がかなう者と、かなわない者。
 みんなが二つに別れてしまう」

 と、コオロギが。
「そうなのだ
 誰かのミノができた時に冬が来てしまったとしたら、
 それから後の順番のものたちは、どうなるのか。
 もしも、目の前で、夢がかなうか、
 かなわないかの境界線がひかれてしまったとしたら、どうだろう」

 村長は、みんなの顔をゆっくり見渡しながら言います。
「でも、どうすれば良いの? 私たちは、もう、夢をみてしまった」
 スズムシの声に、クツワムシも叫びます。
「みてしまった夢は、とまらない。
 けれども、みんなは仲間だ。仲間とは一緒にいたい」

 トノサマバッタが答えます。
「そこでどうだろう。
 我らは皆、一度は一緒に死を覚悟した仲間。
 だから一緒に春を見よう。
 みんなで一緒に春を見よう。
 もしも運命が変わるのなら、
 みんなで一緒にそれを受け容れよう」
「それは、どういうことですか」

 尋ねるクモに村長が、みんなを見ながらこたえます。
「ここにいるのはみんなで四十七匹。
 この全員分のミノができた時、
 みんなで一緒に受け取りたいのです」

 みんなの中から拍手が起こり、みんながみんな拍手しました。
 クモはバッタに確かめます。
「それでいいかな? バッタくん」
 バッタは、しっかりうなずきます。
「そうか、わかった。わかりました。
 みんなに春を見せましょう」

 こぶしをあげるクモを見た、みんなが起こす大歓声。
 そうしてみんなは賑やかに、それぞれの家に帰って行きました。

 みんなの後姿を見送りながら、クモがぽつりと呟きます。
「命よりも大切なものが、あるのだな」
 そして、小さく笑います。
「不思議だな。
 私は、ただただ、バッタくんと、
 もう少しだけ一緒にいたかった。
 ただ、それだけなのにね」

 クモの後ろでは、ケムシが、自分の毛を抜いていました。
 ケムシは満身の力を込めて、自分の毛針を引き抜きます。  
 汗を浮かべたケムシが、 ぽつりと言いました。
「クモさん。ミノを作る準備をしましょう」
 クモはまた、みんなが去った方を見ます。
 そして、ケムシに言いました。
「そうだね。もう、始まっているのだね」
 クモは笑って言いました。
「そうか、私はみんなのことを、
 私よりも先に死ぬ、というだけで、
『かわいそう』と決めつけてしまっていたのだな」

 クモの笑顔の後ろでは、気の早い北風が、吹き抜けて行きました。

 それからクモは大急ぎで、ミノムシのところに行きます。
 ミノムシが、冬眠に入る前に、ミノムシの糸をもらうためです。
 木の葉をつないでミノを作るには、クモの糸よりも強力な、ミノムシの糸が必要です。
 桜の木にぶら下がったミノムシは、まだ、ねむってはいませんでした。
「みんなの夢をかなえるために、おれもお役に立てるとは、なんて愉快だ。 
 ははははは」

こうして、村の虫たち全員分の、ミノ作りの準備は、とりあえず整いました。


 それからのクモは、ひたすらに、ミノを作りに作ります。
 十着目までは、すぐにできました。
 二十を過ぎて二十八着目になると、色とりどりだったミノたちは、
 枯れ葉の色になりました。

 
 ある夜のことでした。
 トノサマバッタ村長が、クモの様子を見に来ました。
 手を止めないクモの代わりに、ケムシが戸口で相手をします。
「教えてください。村長さん」
 小さな声で、ケムシが言います。
「もしも、もしも、ミノが間に合わなければ、
 クモさんはみんなに恨まれませんか?」

 さらに声を落とします。
「みんなの運命を変えたりしたら、
『カミサマの理』を変えたりしたら、
   クモさんにカミサマの罰があたりませんか?」

 ケムシが思い切って言いました。
「本当はぼくが言ったのです。
『ミノがあれば』と言ったのはぼく。
 こんな騒ぎになるなんて、まるで『呪いの言葉』です。
 だから、恨みや罰ならば、ぼくが受けるべきなのです」

 ケムシはクモとミノムシとのやり取りを、村長に説明しました。
 トノサマバッタがうなります。
「そうか、なるほど、あのミノは、ケムシくんの『言祝(ことほ』ぎか」
 そして、にっこり言いました。
「大丈夫。恨みも罰も何もかも、全部私が引き受けます。
 ほら。『みんな一緒に』と言ったのは私。
 何より私は村長だから」
 黙って聞くケムシに、村長は続けます。
「もしも、間に合わなかったら、春を見るという夢が破れる。
 夢にもみなかったことを、夢みてしまって、その夢が破れた時、
 それがどれだけ辛いのか、私には想像もつきません。

 でもね。私たちは、もう、始めてしまった。
 私たちは夢をみてしまったのだから」

 トノサマバッタの話に、ケムシの眼が光ります。
「それに間に合わなかったとしたら、
 その時は、『さようならば、いたしかたなし』と、
 きっと、みんなは受け容れる。
 私たちは、これまでもそうやって、生きてきたのだから」
「あの、『さようなら』は、別れの言葉ではないのですか?」

 そんなケムシに、村長はうんうんうんとうなずきます。
 クモがミノを作る木の葉の音だけが、聞こえてくる夜です。
「さて、ケムシくん、クモさんを頼みますよ。
 クモさんは、私たちの希望。私たちの夢なのだから」

 トノサマバッタ村長はそう言って、木枯しの中をどしどしどしどし帰って行きました。
 ケムシは、トノサマバッタの後ろ姿に呟きます。
「ぼくも、初めて春を見ます。みんなで一緒に、春を見ましょう」
 静かな、静かな夜でした。
 空いっぱいの星たちが、瞬いている夜でした。

 クモの仕事は続きます。
 今、クモだけが、みんなの運命を変えることができるのです。
 クモはもう、夜もほとんどねむらずに、仕事ばかりしていました。
 ついに四十を越えたミノ作り。
 いよいよ枯れ葉は固くなり、ケムシの毛針も折れるほど。
 その都度、ケムシは新しい毛を、体から抜いては差し出します。
 手に血をにじませながら、クモはミノを作ります。
 休まずミノを作ります。
 眠りもせずに作ります。
「クモさん、お願い、休んでください」
 みんなの希望を託された、ケムシは必死にいさめます。
 このまま命を削り続けていたら、
 ミノができる前に、クモは倒れてしまいます。
 そうなってしまったら、間に合うミノも間に合いません。
 そうなってしまったら、みんなの夢は、かないません。
 なにしろ、不眠不休で働き続けるクモは、村一番の年寄りです。
 ケムシにとってはなによりも、クモのことが大切なのです。
 けれども、クモは止まりません。
 クモは、楽しくて楽しくて、しかたがありません。
 だって、クモは、みんなに希望を持たせることができたのです。
 クモは、みんなの希望になったのですから。
「みんなが春を見ること。
 みんなが春を見る夢。
 みんなに春を見せること。
 それは、私の夢になったのだ」

 そして、笑って言いました。
「おそらくこれは運命で、
 私はこの為に生まれてきたのだ」

 クモはミノを作り続けました。

 
 四十六着目ができたその夜が、一番寒い夜でした。
 その翌朝が明ける、かわたれ時、最後のミノが縫い上がります。
 ケムシはようやく終わりかと、戸を開けて息をのみます。
 そこは一面の銀世界。
 村には昨夜の初雪が、薄く積もっておりました。
 戸を閉めたケムシは、村長の家へと急ぎます。
 それからバッタの家へ。
 そして、みんなの家にも。
 ケムシの歩みは全身で、のろのろのろのろ進みます。
 ですから、ケムシが帰って来た頃は、夜が始まる、たそがれ時。
「クモさん、間に合わなかった」
 戸を開けたケムシが見たものは、
 最後のミノを抱いたまま、動かなくなったクモでした。
 
 ケムシはひとり泣きました。
 たくさんたくさん泣きました。
 空から雪が降ってきて、何もかもを埋めました。

 
 ケムシはみんなの亡き骸を、村の真ん中にそびえ立つ、
 桜の根元に横たえます。
 それが、虫たちのお葬式。
 ケムシは、クモを葬りました。
 ケムシはバッタを、村長を、みんなを葬りました。
 ケムシの瞳の中には、みんなの顔がありました。
 この世に生きた証しにと、歌ったあの夜のみんなの顔が。
 ケムシが思い出すみんなの顔は、何故だかみんな笑顔でした。
 ケムシの耳の奥には、みんなの歌がありました。
 この世に生きた証しにと、歌ったあの夜のみんなの歌が。
 ケムシが思い出すみんなの歌は、「さようならの歌」でした。
 
 ケムシの歩みはのろのろのろのろ。
 亡き骸を抱えては、なおのこと、のろのろのろのろ進みます。
 それゆえ、最後の亡き骸を運び終えた頃には、
 ほとんどの亡き骸は、どこかに消えてなくなっていました。
「ぼくは、お葬式さえ、やってあげることができないのか」
 ケムシは、ぼんやり泣きました。

 消えてしまった亡き骸たちは、地中の世界の生きものたちに、
 土の中に連れていかれたのでした。
 空の虫も地上の虫も、そして、地中の虫さえも、
 その亡き骸は他の生きものの、命を繋ぐ糧となります。
 特にこの時期の亡き骸は、地下の生きものが冬を越すための、
 大切な命の糧となるのでした。

 ケムシは、桜の木の枝からぶら下がって眠る、
 ミノムシを見上げて言いました。
「ミノムシさん、ぼくらは、こんな運命だったみたいです」
 ケムシは、ひとりで、また泣きました。
 たくさんたくさん、泣きました。

 ケムシが見上げるその先で、ミ
 ノムシは、ゆらゆらゆらゆら揺れています。
 ミノムシがぶら下がっている枝が、ゆらゆらゆらゆら揺れています。
 ミノムシは、眠りながら覚めながら、みんなのことを見ていました。
 ケムシのお弔いを一部始終、見ていました。
 ミノムシは、みんなの亡き骸を見ていました。
 みんなの亡き骸が、消えてしまうのを見ていました。
 ミノムシは、自分を見上げて泣く、ケムシの姿を見ていました。
 眠りながら覚めながらのミノムシには、夢か現かわかりません。
 ミノムシは、時には現を見て、時には夢をみていました。

 
 あれは、クモとケムシの家でのこと。
 ミノムシのミノがきっかけで、春を見る夢が始まった時のこと。
 バッタの家へと飛び出した、クモが残したケムシとミノムシ。
 ケムシがこっそり教えます。
 毛針を抜くことは、とてもひどく痛いことを。
「クモさんはそのことを、知っているの?」
「いいえ」

 ケムシは、はにかんだように笑います。
「でも、ひどく痛いのだろう?」
「だけど、とても言えませんよ」

 クモは、ケムシに言ってくれたのです。
 ひとりぼっちだったケムシに、一緒に暮らそうと、言ってくれたのです。
 絶対にきみを食べないと、言ってくれたのです。
 そんなクモが欲しいのは、縫い針に使う、ケムシの毛針。
「毛針を抜くと痛いと知れば、ぼくが痛がると知ったなら、
 きっとクモさんは『針はいらない』って言うでしょう」

 ケムシは、また、にっこり言いました。
「それでもぼくと一緒に住んでくれる。
 きっとクモさんは、そうしてくれる」

「だったら、話した方がいい。おれにはよくわからないけれど、
 痛いということは、とても辛いことだろう。
 ケムシくんが辛いことは、クモさんは、けして望まないだろうから」
「はい。でもね。だからこそ、ぼくは『痛い』って言えないのです。
 それに」

 ケムシが小さく笑います。
「ぼくが痛いのは、『代償』なのではないか、と想うのです」
「え?『代償』って、何かとの引き換えに、
 痛みを引き受けるということ?」

 ケムシは嬉しそうにうなずきます。
「痛みを引き受けるかわりに、
 ぼくはひとりぼっちではなくなります。
 痛みを引き受けるかわりに、
 ぼくの毛針が誰かの役に立つ。
 なによりも、クモさんが『ありがとう』といってくれます。
 そして、そのおかげで、
 ぼくは『ここにいてもいいのだ』と、
 想うことができるのです。
 『生きていてもいいのだ』。
 そう、想うことが、できるのです」

 ミノムシは、ケムシが、この家に来るまで、
 ひとりぼっちだったことを思い出しました。
 ひとりぼっちで生きることは、
 痛いことよりも辛いことなのでしょう。
「そして、クモさんと一緒にいれば、
 長く生きられるクモさんならば、
 ぼくが、ケムシでいたことを、
 看取ってくれると想うのです」
「看取ってくれるって?」
「見届けてもらうっていうのか。
 確かにぼくというケムシがいたことを、
 誰かに憶えてもらいたい。
 だって、自分でさえ、忘れてしまうらしいのですからね。
 ぼくがケムシだったことを」
「待って、待って、
 ケムシくんが、ケムシでなくなるというのは、
 どういう意味?」
「え、ミノムシさん、知らないのですか? 
 ぼくは、やがてケムシではない、
 別の虫になってしまうのです。
 クモさんに教えてもらいました」

「え。そうなのか? 知らなかった」
「そうなのです。ミノムシさんと同じなのです」

 ケムシは、にこにこ続けます。
「ミノムシさんに話したのは、ミノムシさんが、
 ぼくの友だちだと、ぼくたちは仲間だと知ったからです」
「そいつはありがとう。ケムシくんと友だちで、
 仲間で、おれは嬉しいよ」

 ミノムシは、ケムシに抱きつこうとします。
「痛い」
「ああ、ごめんなさい。針が刺さりましたね」
「いやいやいやいや。今のは、おれが悪い」
「ね。ケムシは生きているだけで、迷惑なのです」
「いやいやいや、違う。違うよ。
 おれが聞きたいのは、
『ケムシくんがケムシではない、別の虫になってしまう』
 の、あと。
『ミノムシさんと同じ』って言った?」
「はい。クモさんに教わりました。
 それこそ、さっき、ミノムシさんがミノを受け取りに来る前に」

「おれは、おれも、ミノムシではない、
 別の虫になってしまうの?」
「ぼくたちは、村のみんなとは違う。
 昨夜の『さようならの音楽祭』で、つくづく想いました。
 『ああ、みんなは仲間なのだなあ』と」
「わかるように話してくれる?」
「ごめんなさい。
 みんなは一緒に『さようならの歌』を歌いましたね。
 あの歌は、みんなの『生きた証』なのですよね。
 昨夜みんなは一緒に、最期を見届け合い、
 互いに弔いあったのですね」
「ああ、そうか。あれはみんなのお葬式でもあったのだね」
「はい。あの『さようならの音楽祭』で、
 みんなと一緒ならば、死ぬのも悪くないなぁと想ったのです。
 すくなくとも、みんなと一緒ならば、怖くはない」
「まあ、そうかな。まあ、そうだな。そうだろうな」
「でも、ぼくはみんなと一緒には死なない。
 ぼくはみんなと違うのだなあ。
 みんなとは仲間ではないのだな。
 やっぱり、ぼくはひとりぼっちなのだなあ、と」

「ケムシくん」
「そしたら、今朝、クモさんが、
『ミノムシくんも、ケムシくんと同じく、春を見ることができる。
 そして、春になったら別の虫になる』と教えてくれたのです。
 ぼく、もう、うれしくて、うれしくて」
「ケムシくん」
「だから、ミノムシさんにも教えてあげたくて。
 ぼくたちが、ケムシでなくなる。ミノムシでなくなる。
 そして、クモさんが、ぼくたちの誰よりも長く生きることは運命です。
 カミサマが決めた『理』だそうです。
 ぼくがケムシでなくなっても、
 ぼくがクモさんのことを忘れてしまっても、
 クモさんには、悲しまないで欲しいと想います」
「ケムシくんが、クモさんのことを、忘れるだって?」
「だって、ぼくはケムシでなくなるのですよ。
 ケムシの時のことは、忘れるでしょう」
「そうかな。まあ、そうだな。そうなるだろうな」
 
ケムシが小さな笑顔を作ります。
「それでも、クモさんにはぼくのことを、
 ぼくがいたことを憶えていて欲しい。
 そして、せっかく憶えていてくれるのならば、悲しい思い出は嫌です」
「だから、別れの時が来ても、悲しまないで欲しい」
「はい。ぼくと出会ったことを、ケムシと一緒に過ごした時を、
 憶えていて欲しいのです」

 そこでミノムシは、目を覚まします。
 ケムシくんは、やっぱり、ひとりぼっちになってしまったのか。
 おれが別の虫になった時に、
   ミノムシ時代の記憶をみんな無くしてしまうから、
   ケムシくんは「毛を抜くと痛い」という秘密を、
    おれに打ち明けてくれたのかな。
 そして、おれは、ほんとうに全部忘れてしまうのかな。
 おれも、ケムシくんと同じく、ひとりぼっちになってしまったな。
 ミノムシは、ぼんやりと泣けてきます。
 ゆらゆらゆらゆら揺れながら、泣けてきます。
 泣いているうちにミノムシは、またまたねむくなってきます。
 
 そんなミノムシの前に、クモがするするすると現れます。
 木の枝からぶら下がるミノムシの前に、
    糸にぶら下がったクモが現れたのでした。
「夢は、かなわなかった」
 クモが、しょんぼり言いました。
「ミノができなかったのですか?」
 問うミノムシに、クモは顔を上げます。
「ミノはできた。みんなの分のミノは作り上げたのだ。
 けれど、間に合わなかった」
「もしかしたら、ミノができあがるよりも先に」
「雪が降った」
 クモもミノムシも、一緒に黙り合います。
「クモさん」
「私のミノは間に合わなかった。私は、間に合わなかったのだ」
 あれは、あれらは夢では無かったと、ミノムシの胸は沈みます。
「私はただ、バッタくんに、
    もう少しだけ、
    一緒にいて欲しいと思っただけなのだ」
 
クモは、うしろめたそうです。
「実は、昔、
   私は、バッタくんを食べようとしたことがあったのだ」
「え」
「バッタくんが子どもの頃、
    私の巣に引っかかったことがあった」
 クモは、蜂や蝿など、空の虫を食べることが多いのです。
 そのために、クモは糸で編んだ巣で、空の虫たちを捕まえます。
「するするするとバッタくんに近づいた私に、
    息子が泣いて頼むのだ。
 『バッタくんは友だちなの。だから、お願い。食べないで』。
 息子が泣いて頼むから、私はバッタくんを放してやったのさ」 
 
クモが苦く笑います。
「それなら、クモさんは、
    二回もバッタくんの命を救ったことになりますね」
「いや、今度は間に合わなかったから、一回だ。
    いやいや、あの時、バッタくんを救ったのは、
     私ではなく、息子だと思うのだが」
「そうですかね」
「だからミノのことも、
    バッタくんに息子を重ねて、
  『この子と一緒にいたい』と」
「はじまりはそうだったのかもしれない。
 でも、そんなものでしょ。何事もきっと」
「それでも、その肝心のバッタくんも、
    村のみんなも、みんな、死んでしまった」
 ミノムシの胸が暗くなります。
 クモが呟きます。
「私はみんなに夢をみせるだけで、
    夢をかなえることはできなかった。
 私は、かなわない夢をみんなにみせてしまった」
「クモさん」
「ミノのことなど、思いつかなければよかった」
「いや、それはない。それはないですよ」
「いいや、ミノのことなど思いつかなければ、
 みんなに、かなわない夢をみせることもなかったのだ」
「そんなことをいい始めたら、
    ぼくが、クモさんにミノの繕いをお願いしなかったら、
    クモさんはバッタくんのために、ミノを作ることを思いつかなかったことになります。
  つまりは、ぼくにも責任がある。
  それに、ぼくは、糸まで提供している。
  そうだ。針をくれるケムシくんにだって、責任があることになってしまう」
「しかし、実際にミノを作ったのは私だ。
 だから、私に、カミサマの罰が下ったのだろう」
「カミサマの罰ですって」
「ああ、虫たちに春を見せる、などということは、
   カミサマの理に背くこと。だから、私に、罰が下った」

 クモは、目を閉じて小さく震えます。
「私は、みんなを不幸にしてしまった」
「クモさん、しっかりしてください」

 ミノムシは、クモの肩をゆすぶります。
「クモさん、『さようならば、いたしかたなし』でしょう? 
 そういうことならば、しかたないって、
 おれたちは生きてきたのでしょう? 
「春を見たい」という夢をみた。
『春を見せたい』と頑張った。
 頑張ったけど、間に合わなかった。
 ただ、それだけのことですよ」

 ミノムシの眼に、涙がこみ上げてきます。
「それに、みんなは、夢をみることができて、
    幸せだったはずです。
 だって、そうでしょう。
 バッタくんたちにとっては、
 春を見るなんてことは、
    夢でさえなかったのですから。
 夢でさえなかったようなことを、
    夢にみることができて、
 それだけでも幸せだったはずです。
 きっと、そうです。
    そうに決まっています」
「そうかな」

 クモは顔を上げません。
「それに、もしかしたら、
 夢はかなうことよりも、
 夢がかなった時よりも、
 夢をみている時のほうが、
 幸せなのかもしれません。
 そうだ。きっと、そうだ」
「ミノムシくん。
 でも、かなってはいないのだから、
 どちらが幸せかは比べられないよ」
「そうですって。
 それに、そうだ。おれも幸せでした。
 みんなと一緒に春を見ることができる、
 そんな夢をみられて幸せでした。
 これはおれの幸せですから、
    間違いありません。
 クモさんのミノは、
    おれを幸せにしてくれました」
「そうかな。そうだといいけどな。うふふ」

 クモが、はじめて、ちいさく笑います。
「実は、私も、幸せだった。
 ミノを作るのがとても楽しかった。
 楽しくてしかたなかった。
 このまま、ミノを作り続けたいと思った」

 クモが顔をあげます。
「ミノを作っている間、
 私は歌っているようだった。
 そう、あれは私の『さようならの歌』だったのだな」

 クモの笑顔が広がります。
「私はあの時、このまま時が止まればいい、とさえ思った」
 ミノムシも、つられて笑います。
 いつだって、笑顔はうつるものなのです。
「ミノムシくんの言う通りだ。
 みんなのことを不幸だと決めつけるなんて、
 私は傲慢だったな。
 カミサマにでもなったつもりだったのか」

 そんなクモの笑顔が、また曇ります。
「それでも、きっと、ケムシくんは、
 私たちみんなのことを、儚んでいるだろうなあ」

 クモの呟きにミノムシは、泣いていたケムシを思い出します。
 あれも、夢ではなかったのです。
 クモはまた、顔を上げます。
「ミノムシくん、聞いてくれてありがとう。
 私はそろそろ、行くよ」
「どこへ?」
「そんなに遠くはないところ。
 そう、そんなには遠くないところ」
「ここには、帰って来ないのですか」
「帰ってくるよ、必ずね。
 ここにはケムシくんもいるからね」

 クモが、うふふふ、笑います。
「クモさんは、ケムシくんが一番大切なのですね」
 ミノムシは、少しケムシをうらやみます。
「だって、ケムシくんは、
   痛いのに、毛針を私にくれるから。
 痛いと言わずにくれるから」
「クモさん。知っていたのですね」
「ケムシくんは、
   あぶら汗を浮かべて毛針を抜くのだもの。
 でも、ケムシくんが黙っているのだから、
    私も黙ってこらえていた」

 クモは、桜の木を見上げて言います。
「ケムシくんは、私と一緒にいたいから、
 ひどい痛みを引き受ける、
   けなげでやさしい子だからね。
 これまでケムシくんほど、
   私を大切に想ってくれた虫はいない。
 だから私もケムシくんを、とても大切に想うのさ」

 クモは笑って続けます。
「もちろん、ミノムシくんも大切だよ。
 一緒に冬を越してくれる、大切な仲間だからね」
「大切な、仲間」

 ミノムシの胸が、じんわりと暖かくなります。
「ただ、帰ってきたとしても、ミノムシくんと会うことはないかな」
「そんな」
「いやいや、今度帰ってきた時には、ミノムシくんは、
 もう、ミノムシではなくなっているだろうからね」

 クモはちいさく笑いました。
「ミノムシくんに、お願いしたいことがあるけれど、
 あなたが、ミノムシではなくなってしまったら、
 無理な頼みになるかも知れない。
 それでも、私の最期の頼みだ。
    あなたに届いて欲しいな」
「なんですか、なんですか。
 クモさんの頼みならば、何でもしますよ。できること」

 ミノムシはそこで目を覚まします。
「あれえ。いまのは、夢なのか」
 どちらが夢で、どちらが現か。
 あるいは、どちらも夢なのか。
 それとも、どちらも現なのか。
 ミノムシは混乱しました。
 クモから何か頼まれた、頼まれた何か。
 たしかに聞いたはずでした。
 ところが、今は思い出せない。
 ミノムシには思い出せません。
 ミノムシは、さっきまでみていた夢を思い出します。
 さっきまでみていた夢。
 うとうとうとうと、たくさんの夢をみたミノムシ。
 さっきまでみていた夢は、どの夢だったのか、わからなくなりました。
 そうしているうちに、ミノムシは、やっぱり眠くなってきます。
 そうしているうちに、ミノムシは、やっぱり眠ってしまいます。
 ゆらゆらゆらゆら揺れながら、ミノムシは、眠っていました。

 
 ひとりぼっちに遺された、ケムシは何度も考えます。
「どこで間違ったのだろうか?」
 ケムシは何度も想います。
 さようならの音楽祭で、みんなの歌を聞く。
 みんなの「さようならの歌」を聞く。
 ミノムシのミノを見て、「ミノがあれば」と口走る。
 バッタにミノで春を見せようとする。
 みんなも春を見たいと願う。
 春を見る夢を持つ。
 一緒に春を見るために、みんなの分のミノを作る。
 雪が降って、ミノは間に合わない。
 疲れ果ててクモも逝く。
 クモの頑張りが無駄になる。
 間に合わなかったから無駄になる。
 みんなの夢はかなわない。
 どんなに願ってもかなわない。
 何度も何度も考えた。
 ケムシが何度も考えて、たどり着いたこの答え。
 やっぱり、すべての始まりは、ケムシの呪いの言葉から。

 
 その冬はとても長く厳しいものでした。
 それでも時は流れます。
 それでも、春はやって来ます。
 ケムシは、ひとりで春を見ました。
 ほんとうならば、一緒にいるはずのみんなはいません。
 ケムシは、ひとりぼっちで春を見たのでした。
 ほんとうならば、クモだけは、一緒に見たはずの春でした。
 たったひとつの呪いの言葉で、ひとりぼっちになったケムシでした。
 ケムシが見つけたその春は、
 夢にみていたような春ではありませんでした。

 
 その春がゆき、夏が来る頃、虫の子供たちが生まれました。
 虫の子供たち、みんな合わせて四十七匹。

 
 撫子の林の影で、子供たちが遊んでいると、
 枯れ葉の山を引きずった怪物が現れました。
 子供たちは怪物を、恐る恐る取り巻きます。
 その怪物は言いました。
「これは、カミサマからのお祝いだ」
 それだけいって怪物は、もと来た方へ去りました。
 のろのろのろのろ去りました。
 怪物の姿が見えなくなると、みんなで枯れ葉の山を囲んでは、
「これは何か」
 と、がやがやざわざわ。
「これはミノだよ」
 枯れ葉の山から突然に、声が聞こえて、
 子供たちはみんな飛び上がります。
 よくよく見ると、枯れ葉色の翅の怪物が、枯れ葉の山の上にいます。
「おれはミノ蛾で、元はミノムシ。さっきの怪物はケムシくん」

 ミノにくるまってゆらゆらと風に揺れながら、
 ミノムシは眠って冬を越しました。
 冬が終わって春が来たら、ミノムシは、ミノ蛾へと変身しました。
 枝からぶら下がっていたミノムシは、ミノを捨てて、空を飛ぶのでした。
 ミノを捨てる時、ミノ蛾はミノムシであった頃の記憶を失くします。
 それは、地上の虫であるミノムシから、
 空の虫、ミノ蛾に生まれ変わる時の、通過儀礼なのでした。
「おれは、思い出したのだ」
 ミノ蛾は、それまで、自分がミノムシであった頃の記憶を、
 忘れてしまっていたことに気づきます。
 たくさんのミノを見て、ミノ蛾は、ミノムシだった、
 かつての記憶を取り戻したのです。
「みんなは知らないけれどね。
 これは 『ミノ』 というものなのだ」

 ミノ蛾は、ミノムシ時代のことを鮮明に思い出しました。
 ミノムシ時代にみた夢さえも、思い出しました。
「いや。あれは夢ではない。
 あの時のおれには見えたのだ」

 ミノ蛾は興奮します。
 こんなことは、普通には起こり得ないことのはずです。
「あの時、おれは、カミサマになったみんなを見たのだ」

 その時、ミノムシは、クモとみんなの姿を見ていました。
 クモは、みんなに囲まれていました。
「すまない。間に合わなかった。ほんとうに、ごめんなさい」
 クモは謝っていました。
 這いつくばって謝っていました。
 謝るクモに、みんなは口々にいいます。
「ありがとう」
 バッタがクモに、にっこり手を振ります。
「クモさんのおかげで、ぼくは、ぼくらは、ずっと夢をみたままです」
 顔を上げたクモの笑顔と、クモを囲んだみんなの笑顔。
 ミノムシには、たしかに見えました。
 ゆらゆらゆらゆら、見えました。
「ああ、クモさんは、みんなは報われたのだ」
 ミノムシの中に、幸せが満ちてきます。
「ああ、みんなはカミサマになったのだ」

 ミノ蛾は、何もかもを思い出しました。
 ミノ蛾は、子供たちに、これまでの物語を話しました。
「ケムシくんの姿が変わっていないのは、
   クモさんに託されたから」

 ミノ蛾は頭の中の霧が晴れてきたようです。
「だから、ケムシくんに奇跡が起きたのだ。
 そして、おれにも起きたのだ。
 『思い出す』という奇跡が。
 だから、おそらくこのおれも、
    何かを託されているはずだ」

 そういったミノ蛾は、どこかへ飛んで行きました。

 
 
 ケムシはひとりで生きています。
 クモと一緒にいたあの家で、ケムシはひとりで生きています。
 夏が去って秋になっても、ケムシはケムシのままでした。
 ケムシは、ミノムシがミノ蛾になったことを知りました。
 子供たちにミノを渡したその後に、
 上がったみんなの歓声で、振り向いたケムシはミノ蛾を見ました。
 それは、クモから教わった通りの、変身を遂げたミノムシの姿でした。
 だから、ケムシは知っていました。
 自分も変身するはずだと。
 けれども何故か、どれだけ待っても、
 ケムシはケムシのままでした。
 これには、理由があるはずです。
 理由が何かあるはずです。
 そして、ケムシは知っていました。
 理由が何かを知っていました。
 これが、カミサマの罰なのです。
 村長に頼まれたのに、ケムシはクモを守れませんでした。
 クモの夢も、みんなの夢も、どちらもかないませんでした。 
 しかも、それらの夢たちは、みなくてもいい夢でした。
 それらの全ての始まりは、ケムシの「呪いの言葉」から。
 だから罰を受けるのです。
 ケムシは罰を受けるのです。
 村長は「言祝ぎ」と言ってくれたけれど。
 やっぱりあれは「呪い」だった。
 だから、罰を受けるのです。
 ケムシは罰を受けるのです。
 いつまでも、いつまでたっても、
 ケムシは罰を受けるのです。
 それでもケムシは満足でした。
 自分が罰を受けるそのかわりに、
 ミノを渡すことができたから。
 クモには、かなえられなかった願い。
 みんなには、かなえられなかった夢。
 ケムシはクモに託された、
 クモの願いをかなえたのです。
 村のみんなの未来の希望。
 村のみんなの子供たちに、
 ミノを渡すことができたのです。
 自分が受けた「カミサマの罰」。
 その引き換えの「カミサマのお祝い」。

 
 いつしか秋の最後の満月の夜。
 外の声に気づいたケムシは、閉め切っていた戸を開きます。
 空には満月と満天の星。
 蒼い月明かりのその下に、村のみんなが並んでいました。
 あの「さようならの音楽祭」の時のように。
 違っていたのは、ただ一つ。
 みんなはミノを着ていました。
 トノサマバッタがお辞儀します。
 あの村長の娘です。
「ケムシさんと、そしてクモさんに、
 聞いてほしくてやって来ました。
 父母が歌った『別れの歌』ではなく、
 ミノのおかげの『祝いの歌』を」

 娘村長がそういうと、
 バッタの息子の指揮に合わせて、みんなは一緒に歌います。
 その歌は、みんなとの別れを悲しむ歌ではなく、
 みんなとの出会いを寿ぐ歌でした。
 そして、みんなが、クモを想っていました。
 だから、みんなで、クモを弔っていました。
 ケムシは、空を仰ぎました。
 空いっぱいの星たちが、みんなをみつめるように、きらめいて。
「クモさん、聞こえますか」
 空を仰いでケムシは、小さく言いました。
 すると晴れた星月夜の空から、
 静かに、静かに、雪が舞い降りてきました。
 雪はひらひらと降ってきます。
 ケムシは空を仰いだまま目を閉じます。
「ああ、クモさんは、ここにいる」
 風花(かざばな)が舞う星月夜の下。
 静まり返った夜の中。
 虫たちの「祝いの歌」は、誇らしげに響き渡りました。

 
 ミノを着たみんなは一緒に、翌日から眠りにつきます。
 ところが「春の始まり」を、村の誰もが知りません。
 「秋の終わり」がわかる村長にも、こればかりはわかりません。
「約束ですよ、ケムシさん。
   春になったら知らせてください。
 みんなに春を見せてください」

 娘村長が約束させます。
 これで、ケムシは春が来るまでは、絶対に死ねません。
 ケムシはこれで春までは、生きぬかなければなりません。
 
 
 ケムシは村にそびえ立つ、桜の古木を見上げます。
 あの木に咲く花こそが、春が来たとの証です。

 
 月は満ち欠けを繰り返し、風向きは北から、やがて東へと。

 
 いつしかケムシの体には、異変が起きてしまいます。
 ケムシの毛針は抜け落ちて、体は硬い皮に覆われます。
 ケムシは動けなくなります。
 身動きとれないケムシは、深い眠りに落ちました。
 深い眠りのその果てに、ケムシは夢をみたのです。

 とても穏やかな気持ちでした。
 ケムシは気づきました。
「ああ、いよいよ、このぼくも『
 あちら側』に行く時が来たのだな」

 ケムシは、大きく息を吐きました。
「これで、ようやくカミサマの罰が終わる」
 ケムシは自分がいつまでもケムシのままでいることが、
 自分の命が終わらないことが、カミサマの罰だと思っていました。
 ケムシは、クモを失った自分が、ケムシのままで冬を越した時、
 自分こそがカミサマへの贖罪に選ばれたのだと信じました。
 カミサマの理を変えてしまった罰は、誰かが受けねばなりません。
 ケムシは、そう信じていました。
 カミサマの罰は、他の誰でもない、自分に下りますように。
 ケムシは、そう願っていました。
 ケムシの願いはかなえられたようでした。
 ケムシは、ひとりでカミサマの罰を受け止めました。
 ケムシのカミサマへの贖罪が、どうやらようやく終わるようです。
 ケムシの胸は、安らかに、凪ぎました。

 そんなケムシの前に、あのクモが姿を現しました。
 クモは、あの日のままの姿です。
「ケムシくん、わかるか。私の声が聞こえるか?」
「ああ、ようやく会えましたね。クモさん」
「私は、ずっと、ここにいたのだよ」
「ぼくもようやく『そちら側』に来ることができたのかな」
「いやいや、『こちら側』には、まだまだだ。
 今のところ、ケムシくんは
  『こちら側』と『そちら側』との境界、
 はざまの世界にいるのだよ」
「え」
「とにかく、間に合って良かった。
 私は、また、間に合わないかと心配していたよ」
「クモさんの姿が見えるということは、
 ようやく、ぼくも死ねるのですね」

 ケムシの言葉に、クモはにこにこ顔を、厳しく引き締めます。
「ケムシくんが長く生きているのは、
 カミサマの罰だと思っているでしょう? 
 私たちがミノを作ってみんなと一緒に春を見たいと望んだことを、
『カミサマの理』に背く罪だと思って、
 そして、その罪を贖うために長く生きていると。
 だから、ケムシくんは、『ようやく死ねる』なんていうのだろう」
「だって、そうでしょう。それに」

 ケムシは、とうとう、言ってしまいます。
「死ねば、きっと、もう、痛くなくなる、だろうから」
 ケムシの涙が、すーっと、一滴。
 クモは少し黙った後で、きっぱりと言います。
「私も『こちら側』に来る前は、そう思っていた。
 けれども、そもそも、
『カミサマの罰』なんてものはないのだ。
 カミサマは祝うだけなのさ」
「祝うだけ? カミサマが?」
「そう。たとえば、誰かが死んでしまうことさえも、
 カミサマの祝福なのだよ」

「そんなはずはない。
 今生の別れが、さようならが、祝福であるはずはない」
「あのね。
 私たちの側から見たら『さようなら』でも、
 たとえば、地中の虫たちにしてみたら、『ありがとう』になる。
 私たちの体は、彼らの命をつなぐ糧になるからね。
 カミサマは、私たちだけのカミサマではない。
 ありとあらゆるもののカミサマなのだから」

 クモは、やさしく続けます。
「生きるということは、ただ、それだけで、
 誰かの、何かの命を繋ぐことになるのだよ。
 だから、長生きすることは、
   そのまま、あらゆる命を繋ぐこと。
 そして、カミサマになることにつながる」
「カミサマにつながる?」
「そもそも、カミサマは、私たちの中にいる。
 ありとあらゆるもの、
    生きものも、そうでないものも、
 この世の全てのものの中にいる。
 そして、誰もがやがて、カミサマになるのだ」

 わけがわからない様子のケムシに、クモが説明を重ねます。
「あらゆるものには命がある。
 時がきて、体を捨てて命だけになると、
 誰でもが『こちら側』と『そちら側』のはざまを行き来する
 カミサマになる。
 この木に咲く花たちのようにね。
 そして、そのカミサマたちは、
 やがてひとつの大いなるカミサマになる。
 この木のようにね」

 クモとケムシは桜の木を見上げます。
「カミサマになったのは、私だけではないよ。
 バッタくんも村長も、村のみんなもカミサマになった。
 そして、みんなでケムシくんを見守っていた。
 だって、ケムシくんは、みんなを弔ってくれたからね。
 それは、みんなを、憶えていてくれたってこと」
「ぼくが、憶えていることが、弔うこと」
「そう、だから、ケムシくんは、みんなの仲間」
「仲間。ぼくが、みんなの」
「ああ、私たちは、同じことで笑って、同じことで泣いた。
 そんなふうに一緒に感じたことを共有できる相手が、仲間さ」

 ケムシは黙って聞いています。
「ははは。私たちは長い時間を共有した。
 私たちは特別な関係になったのだよ。
 もう、私にとって、みんなにとって、
   ケムシくんはかけがえのない、
 大切な存在なのさ」
 
ケムシはクモの言葉をしばらくかみしめます。
「ぼくは、ひとりぼっちではなかった」

 ケムシの涙が、ほろほろほろほろ。
「ぼくが、他の誰よりも長く生きたことに、意味があったのか」
「私が『そちら側』で最後に願ったことは、
 ケムシくんが報われること。
 だから、ケムシくんが長く生きて欲しいと願った。
 私たちが果たせなかった約束を、
 みんなの夢を託すために」

 クモが頭を下げます。
「ケムシくん、長く生きてくれてありがとう。
 残された者が憶えていてくれさえすれば、
 死んでしまった者も、失われずにいることができる。
 わかるかい? 
 記憶、思い出の中では、時は遡り、
 誰もが『その時』に戻るのだ。

 亡くなった者の記憶とは、
 残された自分の『その時』の記憶でもあるのだ。
 そう、思い出の中では、誰もが時の流れから自由になる。
 もしかしたら、それを永遠というのかもしれない」

 ケムシの頬に、涙がまた、ひとしずく。
「ケムシくん、笑って。笑ってごらん」
「え」
「希望のミノが受け継がれ、
 止まった時が動き出した。
 ケムシくん、
 みんなの夢をかなえることは、ケムシくんに託された。
 ケムシくんが、ケムシくんこそが、
 みんなの希望になったのだ。
 約束を果たせ」

 そういうクモの顔と声が、ケムシからどんどん遠ざかっていきます。

 ケムシは、虫たちの歌を聞いています。 
 ケムシの右にはクモが、左にはミノムシがいます。 
 歌う虫たちは、今の虫たちの親たち。 
 そこは、あの「さようならの音楽祭」の夜です。
 バッタの指揮のもと、一世一代の晴れ姿。 
 みんなの一生で、一度きりの合唱。 
 一心不乱の演奏で、最高の曲を奏でます。 
 それは、今でもケムシの耳の奥で響いている歌。 
 その歌が流れていた間は、まるで時が止まったようでした。 
 時が止まっているようなのに、
 それは「永遠」とでもいうような時間でした。
「そうか。どちらの歌も『悲しい歌』ではなかったのだな」
 みんなは、それはそれは、晴れやかな顔で歌っています。
 みんなが歌っていたのは、この世に生きた証の歌でした。
 命をつないだ証の歌。
 この世に生を受けて、今まで生きてきたことを寿ぐ歌。
 今まで生きて、互いに出会えたことを祝う歌、
「出会えたからこそ別れは来る。
 だから今、別れの悲しみよりも、
 出会えた喜びを歌おう」

 それがみんなの歌でした。
「ぼくは、勝手に『悲しい歌』だと決めつけていたよ」
 ケムシは、冬を越すことができなかった、
 みんなのことを悲しんでいました。
 クモのミノを着て春を見たいと願った彼らの夢は、
 かないませんでした。
 みんなに春を見せようとした、
 クモの願いもかなうことはありませんでした。
 けれども、彼らは間違いなく生きていました。
 今、ケムシの前で歌っているみんなこそが、彼らが生きた証です。
 今、みんなが歌う歌は、彼らが繋いだ命です。
「ああ、『さようなら』は、未来を迎えるための言葉だったのか」
 思い出しさえすれば、今はいないみんなとも、
 また、こうして、会うことができるのです。
 ケムシの胸は、みんなでいっぱいになりました。

 そこでケムシは、本当に目を覚ましました。
 ケムシの体が、激しく揺さぶられていました。
 ケムシの体を揺すぶっていたのは、たくさんの蟻たちでした。
 ケムシの体は、色が変わって固まってしまっています。
 その体を地中に運び込もうと、蟻がケムシに群がっていたのでした。

 この村の地下にある、女王蟻とその家族からなる蟻の王国。
 その蟻たちが、ケムシの家にまで入り込んできていたのでした。
 蟻たちもまた、必死に家族の命を繋いでいました。

「ああ、蟻がぼくを連れに来たのか。
 ぼくは、蟻たちの命を繋ぐことになるのか」

 身動きができないケムシは、自分の状況を理解しました。
 しかし、それでは、みんなに春の始まりを伝えることができません。
「さようなら、ば、いたし、かた、な、し、なの、か」
 がくがくがくがく揺れる体で、ケムシはそう呟きます。
 その時も時。
 大きな声が響きます。
「ケムシさんを放せ」
 そこに飛び込んできたのは、あのクモの息子でした。

 ミノ蛾はあれから、クモの息子が住む隣村まで飛びました。
「おれは託されたのだ。語り継ぐことを」
 ミノ蛾は、クモに父親の物語を語りました。
 クモの父が作ったミノが、村のみんなの子供たちに受け継がれた物語。
 ミノ蛾の話しを聞いたクモの息子。
 息子は父の死を知ります。
 父が、みんなの夢をかなえた誉れを知ります。
 自分の村のみんなにも、ミノを作ることを思い立ちます。
 みんなの夢は、受け継がれたのでした。
 そして、ケムシから毛針を得る為に、
 生まれた村に急いで帰ってきたのです。

 そのクモが見たのは、蟻に囲まれたケムシの変わり果てた姿。
 クモが叫んでも、蟻たちは動きを止めません。
 クモはたまらず、蟻たちに襲いかかります。
 蟻たちは大勢いますが、クモのほうが体も大きいし、
 なにより蟻よりも手足が二本多いのです。
 もっといえば、クモは蟻を食べることさえあるのです。
 荒れ狂うクモに、蟻たちは驚いて逃げてしまいます。
 蟻たちにしても、ケムシが動かなくなったからこそ、
 土の中に運び込もうとしていたのです。
 クモにぶっ飛ばされて、蟻たちは、家の外に逃げ去りました。
 
 しかし、ケムシの意識は遠ざかっていきます。
 深くて暗い闇の中を墜落していきます。
 やがて、暗闇の底に、すとんと止まったケムシは、
 頭上遥かにほのかな光を感じます。
「ああ、ぼくの行き先は、きっと、向こうだ」
 ケムシは上を向いて、笑いました。
「おそらく、ぼくは、この為に生まれて来たのだ」

 クモは、蟻たちが退散した後の戸を閉めます。
 変わり果てたケムシの体に触ってみます。
 そのケムシの体の表面にすうーと、切れ目ができます。
 なんとケムシの脱皮が始まったのです。
 黒いケムシの中から、真っ白な翅を持った蝶が現れます。
 見守るクモの前で、真っ白な翅がだんだんと黒くなります。
 やがて、その翅は漆黒に染まりました。
 黒い蝶に姿を変えたケムシが羽ばたきます。
 黒い蝶は、部屋の中を飛んで壁にぶつかります。
 思わず、クモが戸を開けます。
 蝶は羽ばたき、外へ出ます。

 外は夜と朝とのはざまの、かわたれ時。
 闇を破った暁の中、黒い蝶が舞い上がります。
 高く、高く、舞い上がります。
 ひらりひらひら舞い上がる蝶は、まるで歌っているようです。
 これがケムシの「さようならの歌」なのです。
 するとかわたれ時の空から、白いものが舞い降ります。
「まさか、今ごろ、雪なのか?」
 見上げるクモの上に舞い降りてきた、
 咲いたばかりの桜の花びら。
 暁に舞うのは、小さな、小さな桜吹雪。
 春の暁の光の中。
 黒い蝶が巻き起こした小さな桜吹雪。
 舞うは咲いたばかりの桜の花びら。
 その花びらのひとつが、
 村長の眠る家の戸を叩きます。
「春が来たよ」
 と、知らせます。

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