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ウィズコロナの社会

東京ではまだ毎日20〜30人の感染者が報告される新型コロナウイルス感染症。私たちは、まだしばらく、この厄介なウイルスとともに過ごす必要がありそうだ。

すでに巷に多数の「コロナ本」が出版されているが、友人の瀬名秀明さんから近著『ウイルスVS人類』(文春新書)をご恵贈頂いた。

本書の元になっているのは、NHKの「BS1スペシャル ウイルスVS人類」というシリーズの2本の番組だ。第一部は1本目の番組「未知なる敵と闘うために」(3月19日放送)をベースにしており、「はじめに」を記されたNHK解説委員の中村幸司氏が進行役を務め、東北大学薬学部・薬学研究科出身の瀬名さん、東北大学の押谷仁先生(筆者にとっては同僚でもある)と、国立環境研究所の五箇公一先生がそれぞれの専門的視点から語られた。

第二部は「ワクチンと治療薬」という4月25日の放送をベースにしており、登壇されたのは、川崎市健康安全研究所の岡部信彦先生(政府の新型コロナウイルス専門家会議メンバー)、東京大学の河岡義裕先生、国立国際医療センターの大曲貴夫先生。いずれの専門家もいろいろなところで顔や名前を目にすることが多い方々だ。新型コロナウイルスに対するワクチン開発には年単位の時間がかかるため、既存のウイルス薬の利用も研究開発や臨床研究が進められているが、そこには副作用等の考慮すべき問題もある。

さらにこれら2つの番組収録後に、瀬名さんが考えたことをまとめた第三部が加えられている。薬学出身の瀬名さんだからこそ、COVID-19の治療薬をどのように考えるべきか、既存薬の利用について副作用とのリスクベネフィットを考慮した上で取り入れることが必要と論じている。

第一部の押谷先生と瀬名さんは、実は2009年の新型インフルエンザ流行の際に『パンデミックとたかかう』という岩波新書を共著で出しておられた背景がある。(紙の本は現在は在庫切れなので、Kindleを読まれたい)

改めてこの新書を手に取ると、2009年に議論されていたことが、10年経った今でも、同じように繰り返されていることがよくわかる。瀬名さんが『パンデミックとたたかう』で記した「しかし実際のところ、私たちはパンデミックとたたかっているのではない。本当はこの現代社会とたたかっているのだ」という文章は、そっくり対COVID-19の2020年にも当てはまる。

本note執筆時点で感染の中心は南アジアや中南米にシフトしつつあり、ここ数日、インドやブラジルでは一日の感染者数の増加が1万〜2万人にも上る日もあった。感染拡大を防ぐために、私たちはこれまでの日常であった「ローカルに、グローバルに動くこと」を避ける必要があるが、それ以上に経済格差や人種差別によって世界、地域が、人々が分断されるリスクを感じる日々だ。

だからこそ人々の「連帯」のあり方を今、私たちは考えなければならない。幸い、ヴァーチャルな繋がり方の技術は、新型インフルエンザの10年前と比較にならないほど進歩した。だが、本来、人類はコミュニケーションを密にした集団として進化した生物である。フィジカルな関係性をどのように確保すべきか、口元をマスクで覆ってもコミュニケーションは可能か、文化の変容が求められている。

瀬名さんは本書の中で、「人々の倫理観が変わったとき、それを"未来"と呼ぶ」と記しているが、まさに今、「人々の社会観が変わる"未来"」が待ち受けていると思う。

【参考】東北大学HP:緊急オンライン学内セミナー(講師:押谷仁教授)を開催しました(2020.5.27)>>>押谷先生の講演PPTへのリンク付き






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