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ジェンダー論公開講座「老いと看取りをめぐる歴史と現在、再考」

様々な社会課題の背景をジェンダー視点で読み解く「ジェンダー論講座」。9月は「老いと看取り」に焦点を当て、江戸時代の歴史から男女のケア役割を見つめ直しました。

講師は東北学院大学文学部歴史学科の菊池慶子先生。
日本近世のジェンダーと家族に関して、政治システムや相続、看病介護のケア役割の観点から研究されています。

「介護が大変な労働であるにもかかわらず、まるで無いもののように扱われてしまってきたのはなぜなのか、なぜ介護を担うのは主に女性ということになっているのか、歴史を探りたい!」という気持ちが研究のきっかけなのだそう。

江戸時代の武士の看取り

講座では、次のような歴史的事実が史料とともに紹介されました。

  • 江戸時代に表彰された者を記録した『孝子表彰記録』のうち、大半は「看病・介護」についてであり、かつ「男性」が表彰されている(これは江戸時代は家を基礎単位とした社会であり、家族の看病や介護は、家を統括する男性当主の責務とされていたからである)

  • 現代の介護休暇にあたる制度が江戸時代の武士の社会にあり、看病断(かんびょうことわり)と呼ばれて、勤務を休む際に提出された(つまり城や役所に勤務する武士は、家族の病気に際して、看病断を提出することで、勤務を休んで家族の病床に付き添うことができた)

  • 「親孝行」は主人への「忠義」と等しく、男子教育の一環であった

  • 看病は家族だけでなく、家を出た子どもや親族、親しい近所の人などと幅広く協力しながらおこなっていた

  • 看病・介護で休暇を取っても、給与は減給されず生活が保障された

講座の様子

「江戸時代の身分制度や男尊女卑の考え方を美化することはできないが、少なくとも『介護の社会化』という実態があり、『看取る人の行為』と『看取られる人』とが可視化されていた」
「現代医学のような技術がない時代に【心身ともに寄り添い、患者を孤独にしない】ことを大切にしていた介護の歴史から、現代社会のケアのあり方を相対的に見渡すことができる」と菊池先生。

講座の最後には、野田寿子(のだ・ひさこ)さんの詩、『母の耳』が紹介されました。

参加者の感想

  • 現代社会の「あたりまえ」がどのようにして成り立ったかという視点に立つことが重要だと思った

  • より多くの人が介入することで「家族の社会化」ができたら、個人の負担が軽減できると思う

  • 女性の政治家が少なく社会はなかなか変わらないが、まず自分から変わっていきたい

  • すべての人が苦しまずに自分らしく生きることができる社会になるよう、自分も行動していきたい

病気や老いは、誰にでも起こること。ケアが必要になった時、周りが支える社会をどうつくれるか。あなたはどう考えますか?
当センターでは今後も様々なテーマで講座やイベントを開催します。ぜひご参加ください。