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【1%ノンフィクション】Vol.0787(2010年3月17日発行のブログより)
地上256m
大阪南港にWTCタワーがある。
大阪府庁移転案が出たあのビルだ。
地上256mの展望台は有名だ。
大阪市内が360度ぐるりと⼀望できる。
甲は高いところが大好きで何度も訪れているが、
未だかつてこの場所が混んでいたことがない。
それがまたお気に入りだった。
乙と大人のかくれんぼができるからだ。
子どもの頃「泥棒と警察」という「ドロケイ」という遊びが流行った。
泥棒は隠れながら逃げる。
警察は捜しながら追いかける。
なぜか無性に興奮した。
もちろん泥棒の方が遥かに楽しい。
追いかけるより追いかけられる方が楽しいのは
何も泥棒と警察だけではない。
地上256mでのかくれんぼはスリリングで爽快だった。
展望台の真ん中にある喫茶も迷路のようにあちこちから入口がある。
カップルが2人きりになれるように迷路のようなスペースが
工夫されて設置されている。
もちろん、はしゃいで⾛り回るわけではない。
⼀度甲はお腹の調子が悪くて隠れるふりをして、
トイレに入っていたことがあった。
10分くらい経っただろうか。
恐る恐る外に出ると乙の姿が⾒当たらなかった。
竹内結子似の乙はいつも警察役をやってくれたものの、
探すのが凄くへたくそで本当に困った顔をしてオロオロ彷徨っていた。
天性の方向音痴で探している自分が迷子になる始末だった。
甲は見るに見かねていつも乙を背後から脅かして終わりを迎えるのだった。
ところが、いくら探しても見つからないのだ。
「あれ!?」
ドキドキした。
「怒って帰ったのかな」
泥棒と警察の立場がすっかり逆転してしまった。
地上256mで迷子になってはかなわない。
すっかり甲は心細くなってきた。
突然、後ろから目隠しされた。
「つっかまえた〜」
驚きのあまり甲は声が出なかった。
細長い指からは冷たい石鹸の匂いがした。
実は、乙もトイレにいたのだった。
ランチに隣のホテルで鉄板焼を⾷べたのが2人がお腹を壊した理由だった。
この日に限らず、いつも焼肉の後には2人でお腹を壊す。
それも込みで焼肉が好きなのだ。
甲が仙台にいた頃、
生牡蠣にあたってまる1日中トイレに入り浸ったことがある。
それでも懲りることはない。
そのリスクも込みで生牡蠣なのだ。
それが本当に好きだということだ。
乙はまるで焼肉と生牡蠣のような女性だった。
2人ともすっかり体を軽くして55Fからエスカレーターで降りた。
地上256mの御手洗いは実に快感なものだ。
...千田琢哉(2010年8月26日発行の次代創造館ブログより)
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