【1%ノンフィクション】Vol.0829(2010年4月28日発行のブログより)
魔の抹茶アイス
甲は学生時代いつも最初のデートには焼き肉バイキングと
相場は決まっていた。
焼き肉バイキングはその名も「スタミナ太郎」。
制限時間は90分。
焼肉以外にはバラエティーに富んだお寿司もあった。
もちろん定番のデザートもあった。
「うわ〜、すごい!ありがとう」
乙は感激でAカップの胸を膨らませた。
さすがエアロビクスのインストラクターだけあって、
体脂肪率は女性にもかかわらず15%ほどを維持しており、
焼肉はほどほどにしてヘルシーなお寿司を頬張っていた。
「おいしい!ありがとう」
乙は暇さえあれば愛くるしく「ありがとう」を連発する
本当に憎めない女性だった。
甲がここに連れてきたのには訳があった。
デザートでおいしいと大人気の濃厚な魔の抹茶アイスを
⾷べてもらうためだった。
甲はまだまだ⾷べ足らずにひたすら焼肉を焼きまくっていたが、
乙はお寿司を3皿ほど⾷べて野菜サラダを盛り付けてきてから、
「ありがとう。ホント、もうお腹いっぱいだよ!」
と満足そうに微笑んだ。
甲はすかさず、
「デザートは別腹だろ?ここの抹茶アイス天下⼀品だからな」
ジュージュー焼肉を焼いている最中に席を立った。
ちなみに抹茶アイスが美味しくて評判だったのは本当だった。
乙は甲が⾷欲よりも自分のことを気遣ってくれるやさしさに
ちょっと不自然さを感じながらも、
久しぶりのそのやさしさが新鮮で嬉しかった。
「ありがとう、今日はやさしいのね」
乙は甲がニヤニヤしながら運んできたてんこ盛り抹茶アイスに感激した。
実は抹茶アイスとまったく同じ色のお寿司用のワサビが
たっぷり混ぜてあったのだ。
甲はいつもこのいたずらをして相手の反応を見ては楽しんだ。
笑いを必死でこらえながら
乙の表情を見ていた甲は次第に心配になってきた。
乙がまったく魔の抹茶アイスに反応せずにニコニコ しながら
最後までペロリと平らげてしまったからだ。
「ちょっと変わった味ね」とも「濃厚すぎたみたい」とも言うことなく
顔色⼀つ変えずに、
「ありがとう!すっごくおいしかった」
と満面の微笑みで言われてしまった。
乙のような反応は甲にとって完璧な想定外だった。
さすがに、
「ワサビ大丈夫だった?」
と間抜けな質問などできるはずがなかった。
トイレに行くふりをしてワサビをちょっと味見してみたが
震え上がるほどワサビそのものだった。
その後甲はカリスマ・インストラクター乙に
主導権を握られ続けることになった。
「ありがとう」といわれる度にドキリとした。
そして魔の抹茶アイスのいたずらも乙を機にピタリとやめた。
乙はソムリエの資格も持っていることも判明し、
味覚がおかしいはずもなかった。
恐るべしカリスマ・インストラクターの乙だった。
...千田琢哉(2010年4月28日発行の次代創造館ブログより)
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