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【1%ノンフィクション】Vol.0849(2010年5月19日発行のブログより)

濡れない女。

甲は傘をさすのが嫌いだ。

そもそも傘を持っていない。

誕生日プレゼントにもらった傘をすべてなくしてしまった。

でも傘を持たない理由は他にもあった。

ハリウッドスターたちが土砂降りの中でも傘をささずに
そのままずぶ濡れになって歩く姿に憧れていたからだ。

だからいつも雨が降ると嬉しい。

スーツを着たサラリーマンは普通、

「ちぇっ、雨かよ、まったくついてないな」

と言うが、

甲は喜々として様々な俳優をイメージしてわざと濡れながら歩く。

女性は⼀般に天気予報に敏感で天気が怪しい日には、
必ず鞄に傘を忍ばせている。

しかし乙は違った。

乙は甲が知っている女性の中で唯⼀、傘を持たない女性だった。

上質でお洒落な身だしなみをしているにもかかわらず、
まったく気にしないところがまた男前でいい。

上下ともに純白のスーツ姿がよく似合う女性だった。

乙とはよく雨の中を2人で傘をささずに歩いたものだ。

傘をささずに歩くといいことが2つあった。

普段から歩くのが速くなり動作が機敏になることと、
雨宿りのためにお洒落な店を見つける力がつくこと。


頭の回転が速くなるのだ。

・・・しかし不思議なことが1つだけあった。

なぜか同じように歩いて同じだけ雨を浴びているのに、
いつも雨宿りのカフェに入って落ち着いてお互いの顔を見ると
驚くのは乙だけあまり濡れていないということだった。


もちろん甲はバカ正直にそのままグショグショだった。

土砂降りの雨の中を傘をささずに堂々と歩くのはカッコいい。

でも土砂降りの雨の中を傘をささずに歩いてきたのに、
ほとんど濡れていないのは更にカッコいい。

⾝⻑172cmの乙は女優志願だった。

コイツなら本当に女優になれるかもしれない、甲は思った。

24歳だった。

...千田琢哉(2010年5月19日発行の次代創造館ブログより)

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