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【1%ノンフィクション】Vol.0632(2009年10月14日発行のブログより)

⽴場逆転

甲は待つのが好きだ。

⼄と待ち合わせをする際には、かならず待ち合わせ場所を書店にしている。

甲はたいてい30分以上前から書店で⽴ち読みをしているから、
遅刻をしたことがない。

対して⼄はいつも5分遅刻の常習犯だ。

仕事では甲は時間に厳しいが、⼄の遅刻には寛⼤だ。

⼄が遅刻すればするほどたくさんの本を読むことができるからだ。

⼀度、⼄が1時間以上の⼤遅刻をしたことがある。

それでも甲は怒らなかった。

怒らなかったどころか、夢中で⽴ち読みしていた。

いつも遅刻してきた⼄のほうが怒るのだ。

「ねぇ〜、まだ読み終わらないの︖」

⽴場が逆転してしまうのだ。

甲は名残惜しそうに読みかけの本を閉じてレジに向かう。

今まで甲と付き合ってきた⼥性たちが甲に愛想を尽かして去っていくのは、デートの最中でも書店の⽴ち読みが多いことだ。

歩いている途中で甲が

「あ、ちょっと寄ってく」と⾔ったらおしまいだ。

最低30分は書店から出られない。

お洒落なカフェで⼥性が⼀⽅的に話しかけても、
甲は買った本が気になって仕⽅がない。

⼥性としては⾯⽩いはずがない。

これでいつも甲は付き合って間もない⼥性にフラれ続けてきた。

⼤阪の堂島にあるジュンク堂は、甲にとって出逢いの場でもあり、
別れの場でもあるのだ。

ジュンク堂は本当の本好きが集まってくる。

他の書店と決定的に違うのは、
ジュンク堂は図書館の匂いがするということだ。

本の買える図書館なのだ。

図書館は神聖な場所であり、恋に落ちやすい。

映画Love Letterに出てくる
ヒーローとヒロインの同姓同名だった藤井樹たちも図書館で恋に落ちた。

でも同時に図書館の恋は終わりやすい。

甲はデートのコースに必ず本屋を選ぶが、
やがて⼥性たちは待ち合わせ時間に来なくなる。

なぜなら、6時間以上遅刻しても催促してくれないから。

甲はそのまま黙々と⽴ち読みし続けているのだ。

閉店時間になると購入した本の入った紙袋を両手に提げて       「今日も実にいい日だった」とご満悦で帰路に就くのだった。

⼄との別れもやっぱり同じ原因だった。

ごめんね。

...千田琢哉(2009年10月14日発行の次代創造館ブログより)

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