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【1%ノンフィクション】Vol.0773(2010年3月3日発行のブログより)

スローモーションの殺人

「フー」

甲は深いため息をついた。

乙はクスクスと笑って甲に言った。

乙がクスクスと笑ったときはいつも要注意だった。

「珍しいわね、ため息なんてついて」

乙は大学院で生物学を専攻する学生だった。

「ねえ、ため息をつくと周囲の人たちは早死にするって話、知ってる?」

甲は言った。

「悪いけど今日はそんな作り話を聴いている余裕はないよ」

乙はキリリと襟を正して真剣な表情になった。

「これは本当の話だから真剣に聞いて。私にも関わってくることなんだし」

福島県出⾝の乙はいつもはホンワカとしている癒し系美人だったが、
真剣なときはゆっくりと目を閉じて大きく深呼吸した後に
ぱちりと大きな瞳をまっすぐにこちらに向けるのが癖だった。

「人間のため息をガラス管に集めマイナス118℃ の液体酸素で
液化させるの。それをモルモットに注射するんだけど、
どのような反応が出たと思う?」

乙の質問に甲は興味本位で当てずっぽうに答えた。

「死んじゃった?」

「た?」を言い終えると同時に乙は答えた。

「そうよ。数分後にね」

「注射した直後から急に暴れ出してそのまま逝っちゃったの」

甲は驚いた。

モルモットが死ぬことに驚いたのではない。

乙の迫力に驚いたのだ。

「だから、私の前でため息をつくのはやめて。
2人で⼀緒に⻑生きしたいから。
ため息はタバコと⼀緒でスローモーションの殺人よ」

...千田琢哉(2010年3月3日発行の次代創造館ブログより)

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