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白色殺人事件~古畑任三郎VSアンミカ~

はじめに

推し会用の賑やかしの一つとして書きました。
ミステリーは難しい。トリックとかさっぱり思いつかんし、まったく書けない。見返してもボロボロすぎて情けない。
ミステリーを書ける人は本当にすごいと思う。アガサ・クリスティもコナン・ドイルも横溝正史も江戸川乱歩もみんな神様に思える。古畑任三郎の生みの親・三谷幸喜は言わずもがなだけど。
まぁ、古畑任三郎とアンミカを描くのだけはめちゃくちゃ楽しかったから、いいか…。

※↓PDF変換したバージョン。台本形式になっています。

○黒い背景の部屋(アバンタイトル)

立っている古畑任三郎(75)。彼に向けられているスポットライト。
古畑「えー、色にはそれぞれ意味がありますぅ。赤は『情熱』、青は『平静』。白は『純粋』と言われていますが、ほんの少しひっくり返すと黒色・・・『死』になりますぅ。白が黒になるのは案外、簡単なもので・・・」

○OP

○トーク番組・収録スタジオ・中

煌びやかに飾られたセット。
司会者と向かい合う形で座っているアンミカ(51)。
司会者「アンミカさんは常にポジティブなマインドをお持ちだと思うんですけど、どうしてそこまでポジティブでいられるんでしょう」
アンミカ「(早口で)ハッピー・ラッキー・ラブ・スマイル・ピース・ドリーム。これを寝る前に毎晩、ダーリンと唱えるんです。そうすることで、自然とポジティブが舞い込んでくるんですね。それから、常に笑顔の人を見るんです。笑顔の人を見ると、自分を釣られて笑顔になる。これ、『笑顔の観覧車』って言ってるんやけど、これを回すことでよりポジティブなマインドになってくるんですね」
優しく微笑むアンミカ。

○アンミカの自宅・居間・中(夜)

調度品などが並ぶ広いリビング。テーブルの上にはアンミカプロデュースのシャンプー。
ソファに座っているアンミカ、スマホを片手に持つと、深呼吸をする。
スマホ画面には動画撮影の待機画面。
録画ボタンを押すアンミカの手。
アンミカ、笑顔を作り、
アンミカ「こんばんわ~。アンミカです~。インスタライブ、昨日ぶりやなぁ~。今日はな、私がプロデュースさせてもらってるエスプリーナシャンプーのお知らせさせてもらおうと思って・・・あれ? なんや、みんなのコメント全然見られへん・・・ごめんなさい、なんや今日、調子悪いみたいでコメント見られないんで、私が皮膚呼吸で一方的に話させてもらいます。それでなんやけど・・・」
シャンプーを手に取り、説明を始めるアンミカ。

○アトリエ・中

打ちっぱなしの部屋に、トルソーやミシン、などの服飾関連の用具が置かれている。
デスクの上にはノートパソコン。
中嶋里美(35)が、トルソーに着せられたアイボリーのウェディングドレスと、鳥の子色のウェディングドレスを見比べている。
ドアが開き、派手な服装にサングラス姿のアンミカが入ってくる。
アンミカ「どう?」
里美「あぁ、ミカさん」
アンミカ、サングラスを外しながら、二つのトルソーを交互に見て、
アンミカ「やっぱり鳥の子色の方がええなぁ。ほんのり和のテイスト入って、おしゃれやわ。これでいこか」
里美「ミカさんのウェディングドレス待ってる人が何人といるんですもんねぇ。これ、着られる人が羨ましいです・・・ねぇ、ミカさん、私もやっぱり着ちゃダメですか?」
アンミカ、鼻で笑って、
アンミカ「里美ちゃん、それはさすがに図々しすぎるとちゃう? 人の旦那取っておいて」
里美「それは・・・本当にごめんなさい。でも・・・」
アンミカ、優しく微笑んで、
アンミカ「冗談やって。里美ちゃんはずっと私のデザインを支えてくれた大事なパートナーやんか。里美ちゃんとあの人の幸せは、私の幸せ。ほんまにおめでとう。幸せになってな」
里美、目を潤ませて、
里美「ありがとうございます・・・」
アンミカ「そうや、里美ちゃん。里美ちゃんに見せたいものがあんねん。ちょっと時間かかるから、写真、撮って待っといて」
アンミカ、ノートパソコンに近づくと、操作をする。
画面にはインスタグラムの配信待機画面。
アンミカ、パソコン画面の右端を見る。
無音の表示と19:10の表示。
アンミカ、スマホを取り出し、30分のアラームを開始する。
『動画をアップロードする』という表示をクリックするアンミカ。
パソコン画面に自宅の居間のソファに座り、喋っているアンミカの動画が表示される。
アンミカ、里美に視線を向ける。
アンミカに背を向ける形で、少し離れた位置からドレス全体の写真を撮っている里美。
アンミカ、手袋をつけると、近くにある服飾用の文鎮を手に取り、背後からゆっくりと里美に近づき、振り下ろす。
その場に倒れこむ里美。
里美の手からこぼれ落ちるスマホ。
アンミカ、急いで文鎮をその場に捨てると、テーブルの上など、辺りを荒らす。
×   ×   ×
アンミカ、トルソーに近づき倒そうとするが、ドレスを見つめ、悲しげな表情を浮かべると元に戻す。
×   ×   ×
凶器とは別の文鎮を手に持ったアンミカ、窓に近づくと、クレセント錠を開く。
窓を少し開き、外側からクレセント錠の辺りをめがけて、文鎮をたたきつけ、クレセント錠部分のみ窓を割る。
×   ×   ×
アンミカ、部屋の奥の方にも移動し、一通り辺りを荒らした後、出て行こうとドアへ向かう。
頭から血を流した里美が這って、血の着いた手で鳥の子色のドレスの裾を掴んでいるのが見える。
アンミカ、ハッとすると、捨てた文鎮を拾い上げ、里美に近づき、
アンミカ「何汚してんねん、どアホ!」
里美の後頭部を思い切り殴りつけるアンミカ。
力なくぐったりとする里美。
辺りに血だまりが広がる。
アンミカ、鳥の子色のドレスの裾を見る。
血痕がべったりとついたドレス。
アンミカ、悔しそうな表情を浮かべると、急いでドアを開けて出て行く。

○走る車内(夜)

アンミカ、サングラスをかけて車を運転している。
前方の車の停止に合わせて、停止するアンミカ。
アンミカ、少し身を乗り出して前方を見ると、小さな渋滞。その先に道路工事をしている様子が見える。
アンミカ、深くため息をつくと、スマホを取り出し、アラームを確認する。
アラームは残り8分を示している。
そわそわした様子のアンミカ。

○アンミカの自宅・居間・中(夜)

息を切らし、慌てた様子で入ってくるアンミカ。
ソファに座り、スマホを開く。残り10秒の表示。
急いで汗を拭い、スマホでインスタライブの配信画面を開く。
画面のアラームカウントが0になる。
アンミカ、笑顔を作り、
アンミカ「・・・っていうのが、エスプリーナシャンプーのいいところやねん。あ、コメント戻った! 何々・・・? 『シャンプー、めっちゃ良さそう!買います!』ありがとうな。でな、これ、薬事法であんま言われへんのやけど、育毛にも一定の効果があってな・・・」

○アンミカのアトリエ・前(夜)

警察車両が数台止まり、『立ち入り禁止』と書かれた黄色いテープが貼られている。
その前には、警官服姿の向島音吉(75)が立っている。
アルマーニのブラックスーツを着た古畑任三郎が、自転車に乗ってくる。
向島「古畑さん、お疲れ様です!」
古畑「いやぁ、『トークィーンズ』観てたのに、急に呼び出されるだもん。勘弁してほしいよぉ。現場、ここ?」
向島「はい! 階段上がった先です!」
古畑「どうも」

○同・同・中(夜)

実況見分がされている。
床に落ちているスマホ。
里美が倒れていた位置にはチョークアウトラインが引かれている。
きれいなままのアイボリーのドレスと、裾が血で汚れた鳥の子色のドレス。
荒らされた状態の部屋。
今泉慎太郎(63)がいる。
やってくる古畑。
今泉、古畑に気がつくと、手を振って、
今泉「あ! 古畑さん!」
古畑「うるさいよぉ。ガイシャは?」
今泉、メモを見ながら、
今泉「中嶋里美。35歳。デザイナーだそうです。あのアンミカさんのデザインの手伝いなんかもしてたみたいです。ここもアンミカさんのアトリエなんですって」
古畑「アンミカってあのアンミカ? どうしてそれを先に言わないんだよ、まったく」
古畑、今泉のおでこを叩く。
今泉「あ、痛っ。・・・今、アンミカさんがこっちに向かってるそうです。サインもらえるかなぁ・・・?」
古畑「あっそう。死因は?」
今泉「何か鈍器のようなもので殴られたことによる頭蓋骨骨折。死亡推定時刻は19:00~20:00の間みたいです。窓が割られてたんで、この感じからすると、強盗に見つかって、バコンってされたのかなって」
古畑、顎に手を当てて、そのまま窓辺に近づき、
古畑「・・・強盗じゃないよ、これ」
今泉「え? そうなんですか?」
古畑、窓枠を指さして、
古畑「外から入ってきたら、ここ汚れるでしょう普通。内部の人間の犯行だよ」
今泉「さすがだなぁ~、古畑さん」
古畑、うろうろと室内を歩きながら、室内を見渡すと、血のついた鳥の子色のドレスの裾に気がつく。
古畑「これは?」
今泉「遺体が掴んでいたみたいです。綺麗なドレスなのに汚れちゃって・・・」
古畑、床に落ちているスマホと、血のついたドレスの裾を交互に見比べて、
古畑「・・・これ、おかしいよぉ」
今泉「え? どこが?」
古畑「スマホに血がついてない。スマホが近くにあったら、普通そっち触るでしょ。助け呼ぶ為に。なのに、ドレス掴んでる」
今泉「あ、分かった! 適当に目の前にあるものつかんだとか?」
古畑「そんなワケないでしょ」
古畑、再び今泉のおでこを叩く。
古畑「血痕の感じからすると、わざわざ這って、このドレス掴んでるんだよ。それも手前にあるこっちのドレスは掴んでない。どう考えても変でしょう、これ」
今泉、アイボリーと鳥の子色のドレスをそれぞれ指さして、
今泉「この右のと左のと、何が違うのかな? どっちも同じなのかな? 古畑さん分かります?」
向島とサングラス姿のアンミカがやってくる。
向島「古畑さん、アンミカさんです」
アンミカ、サングラスを外しながら、笑顔で、
アンミカ「こんばんわ、アンミカです~」
今泉、目を輝かせて、
今泉「本物のアンミカさんだ~」
古畑「あ~。古畑と申します。さっきまで観てたんですよ、『トークィーンズ』。お会いできて光栄ですぅ」
アンミカ「あれ? もしかして古畑さんってスマップとかイチローとか逮捕した、あの古畑さん?」
古畑「はい、そうなんですぅ。あの事件、解決したの私なんですぅ」
アンミカ「そうなんや~。どっかで聞いた名前やなぁ思って。光栄やわぁ~」
今泉「アンミカさん、あとで良かったらサインください!」
古畑「あーうるさいのがいるので、場所変えましょう」
アンミカ、微笑んで、
アンミカ「せやな。捜査にならなさそうやね」
古畑「君は現場の写真撮っておいて」
今泉、敬礼して、
今泉「はい!」

○同・廊下

ベンチに座っている古畑とアンミカ。
古畑「この度はご愁傷様ですぅ」
アンミカ「殺された里美ちゃんな、ほんまにいい子やったんです」
アンミカ、悲しそうな表情を浮かべ、
アンミカ「まさか、そんな子が強盗に殺されるなんて、あんまりやわぁ・・・」
古畑、アンミカをじっと見て、
古畑「お察ししますぅ」
アンミカ、目に涙を浮かべると、微笑んで、
アンミカ「すみません・・・生きてる人間は前向いていかなアカンのに。里美ちゃんの無念晴らす為やったら、協力させてもらいます」
古畑「ありがとうございますぅ。早速なんですが、ドレス二つあったでしょう。あれ、何が違うんでしょう? 色も作りも同じに見えたものでぇ」
アンミカ、笑って、
アンミカ「古畑さん、おもろいわぁ。あれは全然ちゃいます。一つはアイボリー、もう一つは鳥の子色」
古畑「しかし、よく似た色ですねぇ。素人目じゃまったく分からないですぅ。それで左隣にあったドレス、あちらの裾にだけ血がついていたんですぅ。どうも中嶋さんがそちらを掴んだまま亡くなったそうでぇ」
アンミカ「左隣・・・鳥の子色の方やね」
古畑「あー、そちらが鳥の子色ですかぁ。近くにスマホがあったのに、そちらには触らず、鳥の子色のドレスの裾だけを掴んでいた。これがどうもひっかかってましてぇ・・・。色にお詳しいアンミカさんのお力、お借りできないでしょうか?」
アンミカ、顎に手を当てて、考えたフリをして、
アンミカ「うーん・・・こうは考えられへん? 頭を殴られて、意識朦朧として、思わず目の前にあったドレスの裾を掴んだとか? ほら? 藁にもすがる思いっていうやろ? あんな感じで、とにかく何かに掴まりたかった。そういう考えもできるんとちゃいます?」
古畑、深く頷き、
古畑「なるほどぉ・・・それは思いませんでしたぁ。ありがとうございましたぁ」
古畑、アンミカをじっと見て、
古畑「私はてっきりダイイングメッセージかと」
古畑から視線を逸らすアンミカ。
古畑、立ち上がり、
古畑「お忙しいところ、ありがとうございましたぁ。またお聞きしたいことがありましたら、伺いますぅ」
アンミカ「いえ、よろしくお願いします」
古畑、会釈すると、去って行こうとするが、アンミカの方を振り返り、
古畑「あー、最後に一つよろしいでしょうかぁ?」
アンミカ「何です?」
古畑「どうして中嶋さんが頭を殴られて殺害されたこと、ご存じだったんでしょう?」
アンミカ、表情を強ばらせて、
アンミカ「それは・・・ほら、強盗に殺されたって言ったら、頭殴られたんかなって。そういうイメージあるやんか」
古畑「誰から聞いたんでしょう? 強盗による犯行だと」
アンミカ、少し目を泳がせて、
アンミカ「・・・あんだけ部屋荒らされたら、イヤでも分かるわ」
古畑、不適に微笑むと、黙って去って行く。
アンミカ、古畑の背中を複雑な表情で見つめる。

○展覧会会場・中

等間隔で展示されている斬新なデザインの服の数々。
展示物を見ながら、スタッフと神妙な面持ちで会話しているアンミカ。
古畑の声「すみませーん」
アンミカ、ハッとして、声のする方を見る。
古畑の姿。
古畑「アンミカさん、お時間よろしいでしょうか?」
アンミカ、スタッフに会釈すると、慌てて古畑に近づき、
アンミカ「古畑さん、びっくりした~。なんや来るんやったら、事務所にでも言っといてくれたら良かったのに~」
古畑「申し訳ありませぇん。それにしても、お洋服の展示もされてるんですねぇ。お見事ですぅ」
アンミカ「里美ちゃんがあんなことになって、中止も考えたんやけど、里美ちゃんもやって欲しいと思ってるんちゃうかなって。里美ちゃんと二人三脚で作ってきたものばかりやし」
古畑「現場にあったあの白いドレスもですかぁ?」
アンミカ「そうです。この展覧会の一番の目玉のつもりやったけど、血ぃついたの出されへんし…」
古畑「…ということは、あのなんでしたっけ…数の子色じゃなくて…」
アンミカ「鳥の子色な」
古畑「そうですぅ。鳥の子色を出す予定だったということでしょうかぁ?」
アンミカ「そうやったんやけどな…。今回はもう一つのアイボリーのドレス、出すことにします。それで、今日は何です? 私に話あるんやろ?」
古畑「アンミカさんに一つ聞き忘れていたことがありましてぇ。中嶋さんが殺された時間、19:00~20:00の間、アンミカさんどこで何されてましたか?」
アンミカ「あ、それアリバイってやつやろ~? そんなら、証明できます。その時間、ちょうどインスタライブしててん。ほら、これ見て」
アンミカ、スマホを捜査すると、古畑に見せる。
画面にはアンミカのインスタライブの映像。
画面右端に事件当日の日時が記録されている。
アンミカ「これ、立派な証拠やろ?」
古畑、不適に笑って、
古畑「ありがとうございますぅ。間違いなくあなたがご自宅にいたことの証明になりますぅ」
アンミカ、笑って、
アンミカ「これで、私の無実は証明されたってワケやな」
古畑、不敵な笑顔のまま、
古畑「うーん…どうでしょうか」
派手に物が倒れる音。
アンミカと古畑、音のする方を見る。
慌てた様子のスタッフが、服を着たトルソーを床から起こしている。
アンミカ、スタッフに
アンミカ「(大きな声で)ちょっと美奈ちゃん、何してんねん! 大事に扱ってや! その服、その一本一本の糸にも魂宿ってんねんで!」
アンミカ、古畑に向き直り、
アンミカ「古畑さん、ごめんなさい。私、ちょっと行かなあかんから」
古畑「あ~、こちらこそお忙しいところ失礼致しましたぁ」
アンミカ、古畑に会釈すると、去って行く。
アンミカの背中を見つめると、去っていく古畑。
アンミカ、振り返り、去っていく古畑の背中を睨みつける。

○警視庁・廊下

険しい表情で、スマホを見ながら、操作している古畑。
今泉、やってきて、
今泉「古畑さん、探しましたよー。え? 何やってるんですか?」
古畑、イライラした様子で、
古畑「インスタライブ。これどうやって見るの?」
古畑、今泉にスマホを差し出す。
今泉「古畑さん、インライ観るんですか? 実は僕、こっそりインライやってるんですよ」
古畑「何、君インスタライブ詳しいの?」
今泉「あの、今度、配信見に来ます?」
古畑、無言で今泉のおでこを叩く。
今泉、おでこをさすりながら、スマホの画面を見て、
今泉「アンミカさん、こんなにしょっちゅうインライしてたんだ・・・すごいなぁ、見習わなくちゃ」
古畑「いいから早く出して」
今泉、スマホを操作して、
今泉「ほら、これで見れますよ」
古畑、今泉からスマホを受け取ると、操作しながら、
古畑「うーん・・・なるほどぉ・・・」
古畑、不適に笑うと、満足そうに深く頷く。
今泉「なになに? 何映ってたんですか? 僕にも見せてくださいよ!」
古畑「いいんだよ、君は」
今泉のおでこを叩く古畑。
古畑、スマホの画面を見ながら、
古畑「これってコメントが急に読めなくなることあるの?」
今泉「たまーにあるんですよ。そういう時は一回、配信やめて、再起動すれば直ったりするんですけどね」
古畑「君、そんなにコメントつくの?」
今泉、ニコニコしながら、
今泉「いつもコメントしてくれるんです、お母さんが」
古畑、ため息をついて、
古畑「現場の写真は?」
今泉「あ、そうだ! これです」
今泉、古畑に写真を渡す。
古畑「ありがと」
古畑、写真をじっと見る。
照明が一斉に落ち、スポットライトが古畑に当たる。
古畑、カメラに向かって、
古畑「え~、中嶋さんを殺害したのは間違いなくアンミカですぅ。実に巧妙なアリバイ工作でしたが、穴がありすぎましたぁ。決め手となったのは、彼女のファッションへの想いと、色の知識。古畑任三郎でしたぁ」

○アンミカのアトリエ・外観(夜)

○同・中(夜)

古畑とアンミカがいる。
古畑「お忙しいところ、お呼び立てして申し訳ありませぇん」
アンミカ、微笑んで、
アンミカ「私、こう見えて、めちゃくちゃ忙しいんやけど?」
古畑「すみませぇん」
アンミカ「それで、犯人が分かったんやって?」
古畑「そうです」
アンミカ「強盗、捕まったん?」
古畑「いいえ・・・中嶋さんを殺したのは、あなたですぅ」
アンミカ、鼻で笑って、
アンミカ「古畑さん、ほんまおもろい人やな。そこいらの芸人さんより、よっぽどわらかしてくれるわ。今度、『トークィーンズ』出てくださる?」
古畑「遠慮しておきますぅ。観ている方が楽しいですからぁ」
アンミカ「それで? 私が犯人やって言うんやったら、あのインスタライブはどう説明するん? あれは私が自宅に居ることの証明って、あんた言うたやろ?」
古畑「えぇ、そうですぅ。ですが、あのインスタライブはあなたが犯行時刻にご自宅にいたことの証明にはなりませぇん」
表情が強ばるアンミカ。
古畑「あらかじめ録画しておいた映像を、犯行時刻に流しただけだとしたら?」
アンミカ「なんやそれ」
古畑「あの映像にはいくつか違和感がありますぅ。リアルタイムで観ていた視聴者は気がつかないかもしれませんが、あらためて何度も見返すと、おかしなところばかりですぅ」
古畑、スマホを取り出すと、アンミカのインスタライブのリール動画を見せる。
古畑「まずは、冒頭」
古畑、動画のシークバーを動かす。
動画内のアンミカ「今日はな、私がプロデュースさせてもらってるエスプリーナシャンプーのお知らせさせてもらおうと思って・・・あれ? なんや、みんなのコメント全然見られへん・・・ごめんなさい、なんや今日、調子悪いみたいでコメント見られないんで、私が皮膚呼吸で一方的に話させてもらいます」
古畑、動画を停止し、
古畑「この日に限って、コメントが読めなくなったそうですねぇ」
アンミカ、いらついた表情で、
アンミカ「それが何? コメント欄が表示されなくなったんやから、しょうがないやろ」
古畑、アンミカをじっと見て、
古畑「何故、もう一度、配信を仕切り直さなかったのでしょう。大抵、この手の不具合が出た場合、スマホを再起動して、配信しなおせば解決するそうですぅ。インスタライブやっている私の部下が言っていましたぁ。ですが、あなたはそれをやらなかった。頻繁にインスタライブをしているあなたが、それを知らなかったはずはありません」
アンミカ、少し焦った様子で、
アンミカ「今まで不具合が出たことなかったんや、幸運にも。だから、その解決方法を知らなかった。それだけです。それにあの後、コメント欄復活して、ちゃんとコメント読んでるんやけど、それはどう説明するん?」
古畑、動画内のシークバーを動かす。
動画の30分辺り。
動画内のアンミカ「・・・っていうのが、エスプリーナシャンプーのいいところやねん。あ、コメント戻った! 何々・・・? 『シャンプー、めっちゃ良さそう! 買います!』ありがとうな。でな、これ、薬事法であんま言われへんのやけど、育毛にも一定の効果があってな・・・」
アンミカ「ほら? ちゃんとコメント読んでるやろ?」
古畑「この部分以降は確かに配信をしてらっしゃいます。この部分より前の30分、この間にあなたは中嶋さんを殺害したんですぅ。見てください」
古畑、シークバーを戻す。
動画内のアンミカ、髪が肩より前にきた状態で話している。
一瞬の暗転の後、髪が肩より後ろにきた状態で話しているアンミカ。
アンミカ「それが何なん?」
古畑「30分より前のあなたは髪の位置が、肩より前に来ています。ですが、30分以降のあなたは髪の位置が肩より後ろになっています。しかし、髪をかきあげるような仕草は見られません。あるのは不自然な一瞬の暗転だけ。あなたくらい髪の長い人であれば、髪をかき上げる仕草が映っていなければ、瞬時に髪の位置が変わることなど不自然ですぅ。この一瞬の暗転が動画と配信の切れ目と考えると、すべて辻褄が合うんですぅ」
押し黙るアンミカ。
古畑「賢いあなたのことですから、おそらく動画の尺は余裕を持たせていたはずですぅ。ですが、何か予想外のことが起こり、その余裕がなくなってしまい、髪にまで意識を向けることができなかったぁ。だから、この些細なミスが発生してしまったんですぅ」
アンミカ、力なく笑いながら、両手を挙げて、
アンミカ「もう分かりました、降参です。たしかに最初の30分は動画を流してたわ。でも、それはいつもとちょっと違ったことをしたかっただけ。不自然になったのはちょっとした間違い探し。そういう遊び心って大事やんか」
アンミカ、手を下ろすと、古畑を睨み付け、
アンミカ「私が殺したって証拠にはなりません」
古畑、不適に笑って、
古畑「え~、たしかにこれだけでは証拠になりません。では、こちらをご覧ください」
古畑、現場の写真を見せる。
写真には荒らされた現場の中、立っているドレスを着た二つのトルソー。
古畑「何か気になりませんかぁ?」
アンミカ「強盗に荒らされた写真やろ。これの何が気になんねん」
古畑、トルソーを指さして、
古畑「この二つだけ、倒されていないんですぅ」
押し黙るアンミカ。
古畑「強盗がこれだけ部屋を荒らしたのなら、このマネキン・・・」
アンミカ「(遮るように)トルソー」
古畑「トルソーも倒れるでしょう。むしろ、立っている方が視界の妨げになりますぅ。倒していった方が筋が通りますし、強盗に見せかけるだけの犯行にしても、やはり倒して行った方が状況的に違和感はありません。でも、犯人は倒せなかった。それは何故でしょう?」
アンミカ、目を泳がせながら、
アンミカ「倒すのがめんどくさかったからやない?」
古畑、アンミカを見据えて、
古畑「・・・このドレスを傷つけたくなかったからですぅ。そう想うのは、このドレスを作った人間だけですぅ」
アンミカ、生唾を飲み込むと、
アンミカ「えらい勝手な妄想やな」
古畑「それだけではありません。私が最も気になっていた、中嶋さんが何故、ドレスの裾を掴んでいたのか。これには本当に頭を悩ませましたぁ。ですがぁ、私が最初に思ったとおり、これはあなたが犯人だということを示すダイイングメッセージだとしたら、やはり辻褄が合うんですぅ」
古畑、ドアに向かって、
古畑「今泉君、持ってきて」
今泉の声「はーい!」
ドアが開き、今泉がアイボリーと血のついた鳥の子色のドレスを来たトルソーを運び入れ、事件当日にあった位置に置く。
今泉、額の汗を拭いながら、
今泉「いやー、重たかった~。古畑さん、バイト代弾んでくださいよ!」
古畑「ありがとう。もう帰っていいよ」
今泉「はい! お邪魔しました~」
出て行く今泉。
アンミカ「何なん? わざわざ持ってきて」
古畑、右側に置いてあるドレスを指さして、
古畑「これは何色でしょう?」
アンミカ「・・・アイボリー」
古畑、左にある裾に血がついたドレスを指差して、
古畑「では、これは?」
アンミカ「鳥の子色やろ。それが何?」
古畑、不適に笑って、
古畑「どちらもよく似た色ですぅ。一般人にはとても区別がつきませぇん。アイボリーと鳥の子色の見分けがつく強盗もまずいないでしょう」
アンミカ、イライラした様子で、
アンミカ「勿体ぶらんとはよ言いや」
古畑「おそらく中嶋さんは、スマホで助けを呼ぶことは不可能だと感じたのでしょう。だからせめて、この鳥の子色のドレスに血痕を残すことで、発見者の意識をこのドレスに向けさせたかったんですぅ。アイボリーは一般人でも聞きなじみがありますが、そうではない鳥の子色にあえて意識を向けさせること、それはつまり、この二色の区別がつく人間が犯人だと伝えたかったんですぅ」
呆然とするアンミカ。
古畑「この二色の区別がつき、なおかつ、このドレスを傷つけたくないと思う人間、それは・・・アンミカさん、あなたしかいないんですぅ」
呆然とするアンミカ。
スマホのバイブ音。
古畑、スマホの画面を見ると、アンミカに
古畑「え~、あなたのお宅に家宅捜査に入ってる刑事からですぅ」
電話に出る古畑。
古畑「もしもし? あ、そう。靴に血痕がついてた? 分かった。はい、ありがとう」
電話を切ると、無言でアンミカを見る古畑。
アンミカ、項垂れると、観念したように力なく、息を吐き、
アンミカ「…人なんか殺すもんやないなぁ。ちっともポジティブにならへん」
古畑「みなさん、そうおっしゃいますぅ」
アンミカ「・・・ドレスを粗末にできて、どっちもアイボリーや言うてたら、もうちょい言い逃れできたんかなぁ・・・」
古畑「どうでしょうか」
アンミカ、自嘲気味に笑って、
アンミカ「ねぇ、古畑さん・・・白って何色あるか知ってます?」
古畑、顎に手を当てて、少し考えて、
古畑「うーん・・・5色くらいでしょうかぁ?」
アンミカ、力なく笑うと、首を横に振り、
アンミカ「白って・・・200色あんねん」
古畑、指をこめかみに当てると、
古畑「覚えておきますぅ。・・・参りましょう」
古畑に促されて、部屋を出て行くアンミカ。
                  (終)

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