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アンドロイド転生896

2118年10月31日 午後
都内某所の公園

リツとソウタはパーティに参加しているアンドロイドのゲンを公園に連れ出した。ゲンは人間の呼び出しに臆する事なく平然としている。2人は主人ではない。恐れる必要などないのだ。

ソウタはスマートリングを立ち上げると不敵に笑った。ホログラムが宙空に浮かんだ。
「これが何か分かるか?さぁ…譲渡契約書にサインをするぞ。お前はどうなるかな?」

ソウタはサインをした。即座にその情報がゲンの所有者のラボに送信されてゲンの契約者がスオウトシキからカガミソウタに移った。
「今から俺はお前の主人だ」


(回想)
2118年8月31日 午後
亀有救急センター:エントランス

「お世話になりました」
ソウタは医師と病院スタッフのアンドロイド達に頭を下げた。ソウタは晴れて退院の日を迎えた。風邪が悪化し肺炎となり入院が長引いた。

リツもアリスもペコペコとお辞儀する。医師アンドロイドは真面目な顔をして頷いた。
「ソウタ様。回復はしましたが油断しないで下さい。よく食べてよく眠る事です」

ソウタも頷いた。なかなか食欲は湧かないけれども、健康への第一歩は食事だ。スミレの復讐を遂げるにはまず体力が必要だ。
「分かりました。それではさようなら」

医師やスタッフに見送られ、ソウタはリツの車に乗り込んだ。直ぐにソウタの屋敷に戻った。約1ヶ月振りの我が家だ。室内は空調が整えられており快適だがスミレの不在が物悲しかった。

リビングに行くとスミレの遺骸がシーツに覆われていた。側には瑞々しい百合の話が手向けられている。アリスが度々訪れて花を飾ったのだ。ソウタは膝を落としてスミレの名を呟いた。

ソウタはシーツを捲るとスミレの顔を見た。長い睫毛が曲線を描いていた。彼女の額や頬を撫で、髪を触った。スミレは死んだ。頭蓋のメモリが破壊されたのだ。イヴ曰く復元は不可能だった。

3人は暫くリビングに佇んでいた。やがてソウタは立ち上がるとリツ達に向かって頷いた。
「庭に埋める。手伝ってくれるか?」
「勿論です」

3人はスミレを運んで墓を作った。真夏の作業はまだ体力のないソウタには厳しく汗が吹き出して息が切れた。だがリツが休めと言ってもソウタは意志を曲げなかった。陽が落ちる頃に漸く完成した。

ソウタは花を手向けて手を合わせた。スミレは庭で永遠の眠りにつく事になったのだ。
「スミレ。俺はやるぞ。必ずお前の無念を晴らす。何があってもゲンを倒す」

リツとアリスも手を合わせた。其々が思いを巡らせていた。数ヶ月前のリツの逮捕劇にはゲンが絡んでいた。アリスにとっては妹分のミオとスミレを失った。誰もがゲンに恨みがあった。

リビングに戻るとソウタはソファに崩れるように座った。顔色が真っ白だった。アリスが駆け寄る。額に手を当てた。熱はない。ホッとする。だがまだまだ回復途中なのだ。

リツが厳しい顔をした。
「ソウタさん。うちに来て下さい。身体が100%になるまでうちで養生して下さい」
「私も心配です。お願いします」

ソウタは首を横に振った。
「大丈夫だ。それに…俺がいないとスミレが寂しがる。ここにいたいんだ」
2人は黙り込んだ。

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