またお前かアメオ_1 はじまりは「はじまりはいつも雨」

題名からはおよそ想像もつかないかと思いますが、ASKAさんの作詞曲についての文です。

先に言っておきますが私はCHAGE and ASKA、およびその関連グループ、アーティストが大好きです。その好きさ加減を書き出したらnoteさんのサーバを潰せるぐらいの分量を書けると思います。なので彼らおよび彼らの楽曲を貶めるつもりは一切ありません。何卒ご理解の程をひとつ。

で何を書くかというと。

超絶魅力的であると同時に難解至極であることでも有名なASKAさんの歌詞を
「あるいくつかのキーワード」
に注目して見ていくとアラ不思議、いろんな仕掛けや隠された意味がザックザックと掘り出せるのよ!

という話です。
もし既出だったら盛大にごめんなさい。

話は「はじまりはいつも雨」から始めます。取っ掛かりとして1番良いんです。

はじまりはいつも雨
1991年リリース
作詞 作曲 飛鳥涼
歌 ASKA
(以下””内は全て同曲歌詞からの引用)

もはや説明不要の名曲で、ASKAさんの代表曲です。
20代以上だったらほとんどの人が知っているんじゃないでしょうか。
YouTube に公式MVが出ているので、知らない人はぜひ聴いてください。名曲です。素晴らしいです。

そんなこの曲。
美しいメロディと甘く優しいASKAさんの歌声が相まって、幸せな恋愛を描いた王道のラブソングに聞こえます。

でも実は

「世間一般では禁断とされる、片方あるいは両方が別に配偶者を持つ者同士の間で発生する恋愛関係およびそれに付随する諸々の行為(ものすごく乱暴な省略で本当に心苦しいですが以下不倫)」

を歌ったものなんですねコレ。

「既出だったら盛大にごめんなさい」って言った矢先にいきなり盛大にごめんなさいなんですけど、この「はじまりはいつも雨=不倫の歌」って解釈は有名らしく、私も既出の記事を見て知りました。

じゃあなんでそんなもんわざわざここで紹介するのかと言うと、この解釈をきっかけに、他のASKAさんの作詞曲も縦横に眺めてみたところ、色々面白いことに気づいたからです。
同時に、ASKAさんってほんとにすごいなと。
このすごさを、ぜひ記録しておきたいなと。
そして、不特定多数の人たちから見える場所に置いて共有しておきたいなと。

僭越ながら、そんな寸法でございます。

どんな面白いことに気付いたのかと言うと。

まずASKAさんのラブソングは、テレビとかラジオとかでよく流される1番だけだと王道の恋愛謳歌っぽく聞こえるものが多いけど、実は大体違うよってこと。
これはもうご本人が意図的にやっていると思うのですけど、1番が王道っぽい曲のほとんど全部が、2番でいろいろブッ込んできます。そして後半や大サビで畳み掛け、それを踏まえて全体を見直すと、1番も全然違う意味に見えてくる。
そういう構造になっています。

そしてその構造を解体するキーワードの存在。
ASKAさんの作詞曲には「雨」「空」「星」「言葉」等の単語がよく出てきます。「はじまりはいつも雨」なんて、タイトルからして入ってますね。
で、これらのワードはASKAさんの作詞曲内で非常にしばしば不倫関連のワードとして使われるんです。
それに気を付けて見ていくと、ASKAさん独特の複雑な構造の歌詞の中に、実に様々な仕掛けが施されていることがわかります。これが本当に見事で、面白い。

そんな訳で「はじまりはいつも雨」から見ていこうという趣向でございます。
ここからは歌詞カード片手にどうぞ。

まず1番はサラッと見てオーケーです。

”君に逢う日は 不思議なくらい 雨が多くて
水のトンネル くぐるみたいで しあわせになる
君を愛する度に 愛じゃ足りない気がしてた
君を連れ出す度に 雨が包んだ
君の名前は 優しさくらい よくあるけれど
呼べば素敵な とても素敵な 名前と気づいた
僕は上手に君を愛してるかい 愛せてるかい
誰よりも 誰よりも
今夜君のこと誘うから 空を見てた
はじまりはいつも雨 星をよけて”

うん。大丈夫ですね。初見で引っかかるところは特にないかなと思います。
ああデートの時は雨が多いのね。今夜も降るかなって空見てるのね。

では2番。

“君の景色を語れるくらい抱きしめ合って
愛の部品もそろわないのにひとつになった”

ん…?
愛の部品…揃わない…?
不意にブッ込まれる謎フレーズ。
何だコレと思った途端、その先は1番から一転し、なんかすごく危うい言葉が並びます。

“君は本当に僕を愛してるかい 愛せてるかい
誰よりも 誰よりも
わけもなく君が消えそうな気持ちになる
失くした恋達の足跡(あと)をつけて”

そういうことです。
どういうことだよ。

まずは
“愛の部品”

“揃わないのにひとつになった”
ってところに注目しましょう。
ここ、聴いてて結構耳に残る箇所なんですよね。「ん?」ってなる。
これがASKAさんの「ブッ込み」なんです。
1番からの流れで、普通の恋愛曲だと思って聞いていると「ん?」→「…まあいいか」って通り過ぎてしまいそうになるけど、踏みとどまりましょう。

この部分、よくよく見ると何やら普通の恋愛じゃないっぽいオーラを醸しています。
だって

「世間一般の恋愛と比べ、色々欠けているものがあるまま結ばれちゃった」

ってことですよね。
それはつまり要するにフの字ってことじゃないのか?
そしてその後に並ぶ危うい言葉も、不倫であるが故の後ろめたさや不安から来るものじゃないのか?
っていう。

まあでもこれだけだと証拠不十分って感じも否めません。どうにでも取れるじゃんって範囲内でしょう。

問題はそのあとなんです。
この曲は最後に大どんでん返しが来ます。

曲の終わり、大サビをご覧ください。

まずもっかい1番の歌詞が来ますね。

“今夜君のこと誘うから 空を見てた
はじまりはいつも雨 星をよけて”

そして次。
最後の最後にこれまでなかったフレーズが加わります。

“ふたり 星をよけて”

ここ。コ・コ!!
ここがほんとすごい。

“ふたり 星をよけて”
が無い状態だと
“星をよけて”
の主語は
“雨”
に見えるんです。

“今夜君のこと誘うから空を見てた
はじまりはいつも雨 星をよけて”

ね?
「恋人と会う夜、いつものように雨が降ってくるんじゃないかと、空を見ている」
みたいな、さりげない情景描写に見える。

でもこの最後のフレーズ
“ふたり 星をよけて”
が付け加わることで
“星をよけて”
の主語が実は
“雨”
でなくて
“ふたり”
であることがわかる。

“今夜君のこと誘うから 空を見てた
はじまりはいつも雨 星をよけて
ふたり 星をよけて”

な?
「恋人と2人で星をよけている」
ということになるんです。

すると。するとすると。
俄然
“星”
というのが、ただの情景でなく、どうやら何かの暗喩らしいなって感じが出てくる。
2人はいったい何をよけているんだと。

そして、さらに、その前の
“はじまりはいつも雨”
も何かあるなと勘ぐりたくなってくる。
“雨”
って何だと。

ここで
「雨=不倫」
「星=世間」
と置き換えてみるんです。

“今夜君のこと誘うから 空を見てた
はじまりはいつも雨 星をよけて
ふたり 星をよけて”

今夜君と逢うから周りの様子を伺ってる
いつものように不倫の逢引が始まる
二人で世間の目をかいくぐって

不倫の歌として辻褄があうんですよ。

え何何そうなの?
ってことで、あらためて1番から見返すと、もう最初っから実は全然違う意味だったってことに気付くんです。

“君に逢う日は 不思議なくらい 雨が多くて”

これはただの
「デートの日ってなんか雨多いなぁ」
って感想じゃないんです。
不倫の逢引だから、日本晴れの気持ちで逢いに行くことなんかできないわけで、そういう状況・心情を「雨」って表現しているんですね。

あるいは
「恋をする時って、なんか不倫になっちゃうことが多くてさ」
って捉えることもできると思います。タイトルやサビで「はじまりは」「いつも」って言ってますしね。

いずれにせよ、のっけから
「これは不倫なんだ」
って宣言してるんです。

で。
1番の歌詞は次にこう来ます。

“水のトンネル くぐるみたいで しあわせになる”

しっとりした言い方してますけど、

「不倫とか浮気とかの方が燃える」

みたいな事を言ってるんですよここ。

この歌の主人公、雨が好きらしいんでアメオさんと呼ぶことにしますが、アメオさんはこういう、忍んで逢うような秘密の関係に幸せを感じるタチみたいなんですね。

それにしても、
不倫とか浮気って、よく「火遊び」とか「燃える」とか火属性のイメージが使われるじゃないですか。
そこを正反対の水属性、しかも鉄板ワイルドカードの(悪く言うと凡庸な)「涙」もよけて「雨」って言葉で表現したところがこの曲の独自性、唯一無二性だと思うんです。
直接言うよりも奥ゆかしく「涙」の意味合いも持たせられますしね。
本当にこの「雨」って言葉の選択が絶妙で、ため息が出ます。

さあ次。

‘'僕は上手に君を愛してるかい 愛せてるかい
誰よりも 誰よりも”

「旦那さんより上手かい?」
ですよ。
アメオお前ってやつは…。

そしてサビへ行き、前述の2番へと繋がっていくわけです。

いかがでしょうか。

「なるほど!」
と思っていただければ幸いですが
「納得できるか!」
「よくわからん!」
って方もいらっしゃるかと思います。

いずれにせよ、まずはひとまず、

1番で吊り込んで、
2番でブッ込んで、
最後でひっくり返して、
「実はこんな歌でしたー」
と種明かしする構造

そして種明かしの鍵になるキーワード
「雨」
「星」

これだけ覚えていただければ大丈夫です。

これからいろんな曲を見て答え合わせしていきたいと思うんですが、
出るんですよ。
アメオさんが。
アノ曲にも。コノ曲にも。
それらを見ていくうちに、どんどん上記の構造やキーワードについて合点がいくようになると思います。

そんなわけで、
しょっぱなから思いの外ものすごく長くなってしまい、これからもだいぶ長くなりそうなので、何回かに分けて見ていきましょう。

では次回まで、ごきげんよう。

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