傀儡の道化師

千年王国シリーズ

-我々は、二つで一つの命だ-


♢世界観・あらすじ♢

 大陸の傍に浮かぶ小さな島には、兵師を育成する特殊な養成学校があった。その名も蒐州学院本部。師を冠する者たちは、大陸に蔓延る妖魔を討伐するため、日々訓練と戦闘に明け暮れていた。
 師はそれぞれ傀儡師と道化師に分けられる。彼らは霊長二種といった、通常の人間とは別の人種に分類され、また互いに別の生き物であることを自覚していた。
 傀儡師は魂魄の魂を司り、精神的な能力を持って妖魔の核を破壊する。道化師は魂魄の魄を司り、肉体的な能力を持って霊獣の幽膜を纏い、妖魔を押さえつける。
 師にはそれぞれの役割があり、遥か昔から約束された対になる関係だった。精神と肉体、そして魂が合わさることで天秤は均衡に保たれる。それが偏った状態で産まれてくる彼らは、契約を交わし絆(くさり)を繋ぐことで均衡を戻し、真の力を振るえるようになるのである。しかし、古くから対等であったはずの関係は、次第に傾いていき、やがて主従関係を孕むようになったのである。それは歴史の中で何度も勢力争いが起こったことを示していた。
 現在の学院では、傀儡師による道化師の差別は緩和され、種族同士の関係は良くなりつつあったが、まだ染み付いた因果は拭えないままだった。
 そんな中、契約が主流になったこの時代で未だに単独で活動している者がいた。キラ・リカータ。学院の高等部に通う優秀な戦績を持つ傀儡師である。
 彼女はその日、半年前に施行された新たな法律に従い、単独の活動を止めて道化師と契約するため、理事長が選定した相手と対面することになっていた。
 そうして現れたのは、難易度の高い編入試験に見事合格した田舎出身の道化師、セイヴ・シャルグリアである。
 傀儡師に気に入られようと愛想良く振る舞うセイヴだったが、一切の関心を寄せず事務的なやり取りを交わすキラに戸惑うばかり。何をやっても冷たくあしらう彼女が、どうすれば自分に興味を持ってくれるのか──……、兵師としての成功を夢見ていたセイヴは、あらゆる手を尽くして彼女に心を開かせようとする。だがキラが道化師を壁を作るのには、深い理由があった……。


♢登場人物♢

●キラ・リカータ(18)
 傀儡師。成績優秀で学院でも一目置かれているが、それは別の意味も含まれている。長年単独で活動していたが、法律が改正され奇しくもセイヴと契約を結ぶことになった。傀儡師らしく論理的で現実主義な性格だが、命の重みを誰よりも理解し、寄り添う柔らかな心を持っている。
 代々受け継がれてきた東洋の刀を扱い戦う。


●セイヴ・シャルグリア(17)
 道化師。田舎出身のため学院や島全体における師の規則や暗黙のルールを知らない世間知らず。だが道化師らしい社交的な性格であるがゆえに環境に馴染むのを得意とする。実家を支援するために道化師を目指すが、師の社会や戦いに揉まれていくうちにパートナーとしての責務や能力と向き合うようになる。
 青龍の幽膜を纏い戦う。


●ソオ・イーグレオ(19)
 傀儡師。キラを凌ぐほどの優秀な戦績を持ち、一部では戦闘狂と恐れられている。典型的な傀儡師至上主義な思想を持ち、パートナーであるヒレンを普段からこき使っている。戦いでしか己の生きる価値を見い出せず、因縁である白群を倒すまで生き続けることを目標としている。
 学院を経由して誂えた薙刀で戦う。



●ヒレン・アリス・ヒム(18)
 道化師。中等部の頃からソオと組んでいる。淑女らしい穏やかで慎ましやかな性格で、ソオの命令には必ず従う。だが根は強かであるため、情報収集や人の懐柔は得意としている。ソオとは望んでパートナーになったが、彼が自分を大切にしてくれないことに不満を持っている。
 ケルベロスの幽膜を纏い戦う。


●理事長
 学院の若き兵師を統べるモグラ。最高指揮官として日々兵師たちに任務を与えている。昔の因縁がありキラのことをよく気にかけているが、贔屓しているわけではなく、時には教師として、時には相談役として、彼女の内面を支えようと務めている。
 オーダーメイドのシルクハットを被り、真面目に実務に励んでいるが、彼の過去を知る者は少ない。


●イェルガ・パウロ
 医務室の保健医、兼傀儡師。元は黒十字医師団所属だったが、引退して戦いから身を引いている。学院に通う師徒たちの健康管理をし、定期検診から応急処置まであらゆるサポートを行っている。オボについての研究に携わっている。


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