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インターネットでいつでも会える祖父の話

祖父が亡くなってからもう10年近くになる。
落語と和菓子の練り切りが好きで、東京のことを「お江戸」と呼び、ビュンと響く美しい声を持った人だった。
今でも時々、祖父に会って話をしたいと思うことがある。

そんな時、私はYouTubeを開く。
仕事帰りの電車の中や、深夜のベッドの中で。
知らない誰かが上げた、チャンネル唯一の4分足らずの動画。そこに祖父がいる。祖父の背中が、そこに映っている。祖父の声はしない。大きく手を振って、そこにいる。
再生数も1000程度。ほとんど誰も見ないその動画に映っている背中が、祖父だと私は知っている。だから会いたいとき、思い出したようにそれを見る。無言の会話をして、思い出して、また今に戻る。

このことが、私を何度支えたか知れない。
ビュンと響く祖父の声が、どこかで聞こえる。
まだ忘れてない。まだ、生きていける。もういない人と話をする。暗いお江戸で、私は何度も確かめる。まだ、まだ。