胃袋ひとつで世界を歩く 『パスタ嫌い』読書ログ#67
ローマ人が日本の銭湯に現れるという不思議な漫画『テルマエ・ロマエ』の作者のヤマザキマリさんの食に関するコラム。
私、ヤマザキマリさんの波乱万丈な半生を、本人から大爆笑の中で伺うという幸運に恵まれたことがありまして、そのころに伺った印象深い話とあわせ、感慨深く読むことが出来た。
イタリアといえばこの方、という位にイタリアの印象が強いのだけど、本の題名の通り、パスタにはあまり思い入れが無い。えっ。
そのうえ、酸っぱいものが苦手で、トマトもNG。えっ
しかも、コーヒーまでNG。
いったいぜんたいイタリアで何を食べてきたの? そんなびっくりから本書は始まる。
話題は日本とイタリアを行ったり来たり。
日本で食べるラーメンの美味しさ。
パスタの本場でふるまったケチャップを使ったナポリタン。
北海道の隠れた珍味中の珍・珍味中の珍味「めふん」の話。
臨終で食べたいポルチーニへの愛。
ドイツ人のソーセージ愛。
どの国でもやっぱり不味い病院食。
そしてワインやチーズの話。
とはいえ、外国生活の長い女性によるヨーロッパ大好き美味礼賛、うふぅ、といった本ではない。
グルメな知識を増やしたいと思うなら、この本は適さない。
この本は、ヤマザキマリさんという稀有な人物による、食事を通した、他文化への理解や寛容に触れる事が出来る本だ。
ヤマザキマリさんは、日本でも、外国でも、まぁとにかく「食べてから考えよう」的に食に挑み、食を通して様々な文化を知り、受け入れていく。(受け入れた上で愚痴ったりもする)
日本に居るだけでは得られない視点で、普段我々が日本で過ごしているだけでは思いつきもしない気付きを得ていく感じは非常に面白い。
日本人の視点、イタリア人の視点、そのどちらでもない視点をいったりきたりしながら、さまざまな食をボーダレスに語るのは、いかにもヤマザキマリさんらしい芸当だ。
5章の最後「胃袋の外交力」は自分の経験からもよく理解できた。
私は、国内だろうが海外だろうが、どこへ行ってもとにかく地元のものをしっかり食べる。何をだされても、それが羊の脳みそでも、何かの動物の睾丸でも、見たこともない形のエビでも、何色なのか表現できないキノコでも、大きな昆虫でなければひとまず食べる、そして地元の酒を飲む。うまけりゃラッキーだし、そうじゃなくても、これがうまいのかと、その文化を少し深く感じられる。なにより、テーブルを囲んだ方々とは友達になれる。
上にもちょっと書いたけど、北海道が誇る珍味「めふん」はご存じ? オスの鮭の血合いを塩辛にしたもので、これがむちゃ酒に合うの。日本酒がイマイチな北海道だけど、最近は男山とか美味いし、酒とあわせて食べてみてほしい。個人的には、余市みたいなスモーキーなウイスキーにもあうと思うよ。築地に食べられる店があるから、興味のある方はご一緒しましょう。
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