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見事なストーリーテリングで抜群に面白い『SHOE DOG』 【読書ログ#72】

『SHOE DOG』(フィル・ナイト)

ナイキの創業者であるフィル・ナイトの、創業前から株式上場までの物語。年代にして1962年から1980年まで。

僕らの知らない時代のナイキの物語。

フィル・ナイトと聞けば、今では泣く子も黙るスーパー経営者。ナイキを創業し、世界一のブランドに押し上げた男。

なので、最初にこの本を手にしたときは、そんな偉大な男による、偉大なるブランドの、偉大なる成功物語。なのかな? なんて思いながら読み始める。

まぁ、その通りの内容なんだけど。それがとても面白いのだから恐れ入った。ナイトの自画自賛を延々と読まされるようなものではなく、ナイトをはじめとする個性豊かな創業者たちの、素晴らしい成長物語なのだ。

物語は1962年、アメリカのオレゴンから始まる。ナイトは、勉強とジョギングにあけくれ、女の子とのデートもままならない童貞男だった。

だが、ひとつアイディアを持っていた。

当時は、かつてドイツが世界を席巻してたカメラ市場に日本のカメラが乗り込んでゆき、一気にシェアをかっさらった時期だった。それをみたナイトは、日本製のスニーカーに同じ夢をみる。オニツカタイガーがかっこよかったので、これをアメリカで売ればビジネスになると踏んだのだ。

太平洋戦争が終わり、まだ17年しか経っていない頃だ。当然日本はまだ復興からほど遠い状態。それに、ナイトの親の世代などは、日本に対する憎しみが色濃い。だが、ナイトの読みは当たった、スポーツマン達はこぞってオニツカのスニーカーを欲しがり、ビジネスは拡大を続け仲間も増えてくる。

そして、あれこれあってオニツカと喧嘩別れし、ナイキブランドを独自で立ち上げ、あとはもう、我々が知る今のナイキに向けて、イケイケドンドンの事業拡大劇だ。

幾度も訪れるピンチのたび、仲間が現れ、協力者が現れ、彼らと共に苦難を乗り越えビジネスを拡大させていく、それは、それはとても面白く、エキサイティング。島耕作とサラリーマン金太郎を混ぜてアメリカンドラマを作ったような話だった。

彼の一人称で語られるこの物語はシニカルでユーモラスで魅力的だ。そして、仲間に対する深い愛情と理解に満ちている。会社に対する愛に満ちている。

ナイトは、不思議な人物だ。引っ込み思案でちょっとナイーブ、でも、ここぞという時の勇気と行動力がすさまじいし、何よりも素晴らしい仲間を引き寄せている。

本書を読むと、ナイキの成功はナイト一人の功績ではなく、超個性的で癖だらけの仲間たちが居てこその達成だとわかる。

ビジネス書としてではなく、起業をテーマにしたとても面白い小説として読んでも面白い。バフェットのコメントとかぶるが、素晴らしいストリーテーリングだ。ああ、面白かった

最終章「死ぬまでにしたいこと」がいいよね。いいよ。

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「それって有意義だねぇ」と言われるような事につかいます。