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シーボルトもたまげた『江戸の下半身事情』【読書ログ#66】

江戸の下半身事情(永井義男)

「品川の客ににんべんとあるとなし」と当時の川柳。

人偏のあるとなしは、《侍》と《寺》の事を言う。寺とはつまり僧侶を指していて、吉原と双璧をなしていた品川の売春宿には、侍と僧侶が入り浸っていたと詩っている。

他の川柳では「朝っぱらから医者がはいれば出家出る」とも。

この方々は、昼間にスタバへ行く程度のカジュアルさで、この手の店に出入りしていた。

坊主は、さすがに自分が坊主とは言えないので、その手の店では《医者》に化けて遊んだらしい。江戸時代から坊さんはどうしょうもない(もうしわけございません)のだ。

ただ、江戸時代は、僧侶の女犯に厳しかったので、よく検挙されていた。

検挙された僧侶は、日本橋に三日さらされる。なんと、あるときは70人近くが数珠つなぎに繋げられ、三日三晩さらされたとのこと。本当にどうしようもない。

この本を読んだ後にたまたま日本橋を通り過ぎたけど、あそこに70人のしょげかえったエロ僧侶が繋がれていたとか、なかなか面白い光景だ。

よく、江戸時代は政治が安定しており、鮮麗な文化が人々を楽しませ、食事も酒も旬のものを取り入れ豊かだった、みたいな話が持ち上がるが、著者は眉唾だという。人身売買は悲惨だし、皆が性病に罹患しているし、身分差別もひどくて閉塞的。よっぽど現代のほうが清潔で安全で安定しているに決まってる。まぁ、そりゃそうだ。

本書の著者は、そんな閉塞的な江戸時代に刊行されたエロ本をつぶさに検証し、江戸時代の庶民たちの下半身事情を調べ上げた。変わってる。

体系立てて江戸時代の風俗や文化を論じているというよりも、当時のエロ本から面白いエピソードを抜き出してきた、という風情の本である。気楽に読めるし、当時のはちゃめちゃぶりが、面白おかしい。

読んでいて個人的に江戸時代無理だわ! となるのは、プライバシーの無さ加減だ。

落語を楽しむ人はよくご存じだと思うけど、庶民の大半はプライバシーなんて無いに等しい長屋住まいだ。ひそひそ声だって両隣には筒抜けだ。

そんなプライバシーなんて無いに等しい状況でも、悲しいかな、あらかたの人間(主に男子)にとってリビドーは抑えられるものではない。

おのずと、SODもビックリな奔放な世界になっていく。

控えるとか、抑えるとか、そういうのがない。身体も心もプライバシーも本能もすべて丸出し。

一般的な庶民が住む長屋は、レオパレスもびっくりな薄壁で防音効果はゼロだが、そのうえ隙間だらけで覗き放題だ。昼間から元気いっぱいなハッスル夫婦の部屋には、覗きの行列が出来ていた。

家がダメなら外で、ということで、現代のラブホテルにあたる出会茶屋なんてものの有ったが、これも隣との仕切りは襖1枚。ふすま。取り組みの様子を隠そうにも、隠しようがない。

もっと驚くのが女郎部屋、ようするに売春宿だが、基本的に相部屋で間仕切りは屏風か戸から外した障子のみ。障子を外してしまったら、外からどうやって隠すのか。そもそも相部屋ってなんでだ。

とまぁ、こんな感じで、江戸時代のどうしようもない下半身事情が詳しく書かれた本書、詳しく紹介するとnoteにBANされてしまうので細かい紹介は控えますが、江戸時代のエロ本を丹念に紐解き、整理し、紹介してくれており、とても面白いのです。

著者の永井義男さんは、江戸時代のシモネタで何冊も本を書かれているようで、興味がそそられる。でも、あんまりこの手の本を増やすと妻に嫌がられるので程々に。

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