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京都大学、環境適応電源・デジタル変換半導体集積回路の開発に成功―22nmで実証、体内で自律動作するIoTの開発へ―

発表日:2024年6月17日

概要

京都大学情報学研究科の新津葵一教授をはじめとする研究グループが、涙液糖駆動が可能な超低消費電力の半導体集積回路の開発に成功しました。この画期的な技術は、0.9ピコワット(pW)の消費電力と0.1ボルト(V)の電源電圧で動作する環境適応型電源・デジタル変換半導体集積回路で、22ナノメートル(nm)のCMOSプロセスで実証されています。

この開発は、低電力・低電源電圧動作を実現するための新しい手法を提供し、次世代のエネルギー効率の高い電子デバイスの基盤となる可能性があります。

本研究開発のイメージ図:提案回路の動作を、カエルの合唱に例えて表現している。歌声を発するのに必要なエサの量が異なるカエル達を複数設け(動作しきい値電源電圧の異なるバッファを複数設け)、環境中に存在するエサの量(環境中で得られる電源電圧)に応じて、指揮を受けた時に歌声を発するカエルの数(クロックを与えられた時に動作する回路の数)が変化することを活用してデジタル変換を行う。(京都大学HPより引用)

開発の背景と意義

この研究は、環境に適応することで低電力動作を実現する技術を基盤にしています。現代の電子デバイスは、ますます高いエネルギー効率が求められています。特に、ウェアラブルデバイスやIoT(Internet of Things)デバイスにおいて、バッテリー寿命を延ばすためには、消費電力の低減が不可欠です。新津教授らの研究グループは、環境適応型の回路設計によって、この課題に対する解決策を提供しています。

環境適応型電源・デジタル変換技術

自律的最適化手法の開発

この技術の核心は、入力信号となる電源電圧に応じて動作を自律的に最適化することにあります。電源確保対象とセンシングデータ取得対象が同一システムにおいて、入力電源電圧の高低に応じて動作させる要素回路ブロックを最適化する手法を開発しました。この手法は、環境に存在するエサの量に応じて自律的に動作を調整するカエルの行動に例えられます。この自律的最適化により、消費電力の大幅な削減が可能となります。

複数の信号駆動回路の搭載

具体的には、異なるしきい値の電源電圧を持つ複数の信号駆動回路(バッファ)を搭載し、クロック信号が与えられた際に動作したバッファ回路の数を数えることでデジタル化を行います。この手法により、低入力電源電圧の場合には少ない数のバッファが動作するため、消費電力を低減させることが可能となります。22nmの超低リーク電流CMOSプロセスにおいて、提案された回路の有効性が実証されました。

実用化に向けた展望

この技術は、今後のさまざまな応用が期待されています。特に、涙液糖駆動の単独動作可能持続血糖モニターコンタクトやデジタル錠剤、スマートステントなど、医療分野での利用が見込まれています。これらのデバイスは、体内のエネルギー源を活用することで、長時間の持続的なモニタリングや治療を可能にします。

涙液糖駆動の可能性

涙液糖をエネルギー源とすることで、持続可能なエネルギー供給が可能となり、バッテリー交換の手間を省くことができます。これにより、より小型で長時間使用できるデバイスの開発が進むと期待されています。

名古屋大学のグループが開発した発電センシング一体型血糖センサー(引用元

研究成果の公表

この研究成果は、2024年6月16日から開催されているIEEE Symposium on VLSI Technology and Circuitsの技術論文の要約集「Digest of Technical Papers」に掲載されました。このシンポジウムは、世界中の最先端技術を発表する場として知られており、今回の発表は国際的にも高い評価を受けています。

まとめ

今回の研究成果は、次世代の半導体技術において重要な一歩を示しています。特に、環境に適応する自律的な最適化手法により、エネルギー効率を大幅に向上させることができます。以下に、この記事のポイントをまとめます。

まとめポイント✨

  • 涙液糖駆動が可能な超低消費電力の半導体集積回路の開発

  • 0.9pWの消費電力、0.1Vの電源電圧で動作

  • 22nmのCMOSプロセスで実証

  • 環境適応型の自律的最適化手法を開発

  • 低電力・低電源電圧動作を実現

  • 涙液糖駆動の持続血糖モニターコンタクトやデジタル錠剤、スマートステントへの展開を目指す

  • IEEE Symposium on VLSI Technology and Circuitsで発表

この技術が今後の半導体技術の進化にどのように貢献するか、引き続き注目していきましょう!

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参考文献


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