一周年なので「鵺の陰陽師」1話の完成度の高さについて語ってみます


はじめに

 周年カラーはまだですが、連載開始から一年以上が経過連載一周年を突破しめでたく巻頭カラーを獲得した「鵺の陰陽師」。

 2023年24号に第1話が掲載された際は、膳野くんに関する描写ばかり話題になりましたが、実は彼を抜きにしてもかなり完成度が高い1話だったと私は考えているので、具体的にどう優れていたのかを語っていきたいと思います。
 あくまで個人の主観による分析ですので、異論も多々あるかと存じますがご容赦ください。

その1 コマ割りについて

1-1:場面転換

 1話に限った話ではないのですが、「鵺の陰陽師」という漫画は場面転換の際に無人の廊下や窓といった、「それ自体は特に意味を持たないコマ」が挟まれていることが多いです(2話のエアコンや3話の壁掛け時計なども同様)。

 これ、実は「漫画をスラスラテンポよく読む」上ではかなり効果のある演出なんですよね。
 ジャンプに連載するクラスの作品でも結構あるのですが、読んでいて「目が滑る」と感じる漫画はこういったことができていない(場面転換がわかりにくい)ことが多いです。

1-2 リアクション

 また、「アクシデントや他のキャラの台詞に対するキャラクターの反応」も丁寧に描かれていて、かなりわかりやすいです。
 これはどういうことかというと、学郎が屋上(鵺さんのいる部屋)に繋がる階段を登っていくシーンが良い例になっています。

1:「パキ」という音に学郎が「ん?」と気付く。
2:「なんだ? 奥で何か割れた音が」と考える。
3:実際に割れた何かを発見する。
4:それがお面と札だと理解する。
5:「これが割れて落ちた音だったのか」と、壁の壊れたお面を見つける。

「単に何が起きたのかを読者に理解させる」だけなら2~3のコマは飛ばしても問題はないのですが、「主人公と読者の感情をシンクロさせる」ということを意識する場合は、こういう「一見必要のないコマ」が重要になってくると思うんですよね。
 この場面の場合は、「何が起きたんだ?」と不思議に、そして少し不安に思う学郎の感情を直感的に理解しやすいことが、実際に読んでいただければわかるはずです。
 おそらく、一話目から「虚無だな……」と思われてしまう漫画は、こういった演出ができていないのではないでしょうか。

 この「アクシデントに対する反応」は、次のページの「幻妖の群れに驚く学郎」の描写も秀逸です。

1:学郎がドアノブを回す(前ページ)。
2:大ゴマで開いた扉から幻妖の群れが飛び出してくる。
3:それに気付いた学郎の「は?」という顔。
4:「うおおっ」幻妖に飲み込まれそうになる学郎。

 これも1と4だけ、あるいは1・2と4だけでも成り立つシーンではあるのですが、「3」で学郎のリアクションを顔付きで描いているのが、主人公に感情移入する上ではかなり重要なポイントだと思います。

その2 設定について

 1話で明かされた設定に関して言えば、それほど真新しさがあるわけではありません。
 むしろ、かなりベタな部類だと思います。

 ただ、「開示の量に過不足がない」んですよね。
 幻妖のレベルとかのややこしい設定だったり、盡器や令力といった造語はいきなり羅列されても頭に入らないので、思い切って一切説明しない。
 でも、1話の中で公開しておかないと話が成り立たない情報(幻妖は通常目に見えない、人の負の感情を察知して集まってくる、合体すると物理的な殺傷力を獲得する)はきちんと提示しておく。

 これがきちんとできている漫画家は、プロでも意外と少ないような気がします。

その3 構成について

 鵺の1話では「何の力も持たなかった主人公が覚醒し、強敵を倒すまで」がきちんと描かれています。
 これも、「週刊誌連載のバトル漫画」としては結構重要なことではないかと思うんです。

 個人的に、バトル漫画の1話目で「主人公が力に目覚めただけで終わる(敵を倒さない)」のも、「雑魚敵しか倒さない」のも、週刊連載で1話ずつ読む場合は、かなり引っかかりを感じるポイントなんですよね。
(月刊誌の場合や単行本で一気読みする場合は、そこまで気にならないんですが……)

 また、最初の敵である人型に近いレベル2の「強さ」や「恐ろしさ」が作中できちんと描写されていたのも良かったのではないかと感じています。
 強くて恐ろしい敵だからこそ、主人公がそれを倒すことによって、カタルシスを覚えることができるわけですから。

その4 学郎の行動や感情について

 おそらく、これが一番重要な部分でしょう。

 1話における学郎の行動原理、即ち「どうしてそういう行動を取ったのか?」は、かなりわかりやすく描かれています。
(幻妖が集まってくるのを防ぐためにパシリを肩代わりする、父親が幻妖に殺されたことがトラウマになっているので鵺さんの提案を断る、など)
 細かい部分だと、「鵺さんの部屋に入り、一緒にゲームをしてあげた」理由もちゃんと説明されていますよね。
 要するに、1話の学郎には「よくわからない部分」がないんです。

 鵺さんのようなキャラクターはミステリアスな部分も魅力になってくるので、そういう部分があっても良い、むしろあって然るべきでしょうが、学郎のような共感型の主人公には不要なものというか、ある程度話が進んで謎な部分が見えてくるのならともかく、1話から「よくわかんねえなこの主人公」と思われたらマズいわけです。
 なので、そう取られかねない描写を意図的に排除した川江先生の判断は正しかったと私は考えています。

 また、上記の行動原理と被る部分が多いので、改めて詳細を書くことはしませんが、「学郎の感情の流れには嘘(おかしなところ)がない」という点にも注目です。
「鵺の陰陽師」は現実にはあり得ない要素が満載のファンタジーですが、そういう作品だからこそ、こういった点は重要というか、そこに嘘があると萎えてしまうと、私は思うんですよね。
 1話以外でも、代葉編は心境の変化の描写が丁寧で良かったです。
 逆に言うと、四衲や先輩を「学郎と同じ部屋に閉じ込めて強引に距離を縮めさせる」という手法はあんまり好きじゃなかったりするんですが……。

おわりに

 分析は以上になります。
 鵺の1話を一度読んだっきりで、「膳野くんのブリーフ以外何も覚えてねえよ」という方は、ジャンプラで無料公開されていますので、ぜひもう一度読んでみてください。

 この記事を読んだ後であれば、新人だとは思えないほどの完成度の高さに驚かされるのではないでしょうか。

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