見出し画像

【絶版プレミア書籍】 40年前からテレワーク!何を大切に経営していたか? その1

現在、絶版プレミアがついている書籍、「奇跡の経営」で紹介されているセムコ社は、40年前からテレワークを導入しています。

一体、何を大切に経営してきたのか?
そこには、今の時代にも通じる、大切な経営思想がありました。

今日は、そのエッセンスを改めて抽出し、凝縮してまとめます。

◆コントロールをやめることが絶対的に重要である!

時代は1980年代初頭。ブラジルの海運業界では誰もが知る大企業「セムコ社」に、21歳の社長が誕生しました。

彼の名はリカルド・セムラー。

彼は、父親から経営を引き継いだ後、セムコ社を平均年間成長率147%、離職率2%、社員を3000人抱える大企業に成長させました。

ある夏、当時学生だったリカルド・セムラーは父が経営する会社であるセムコ社の購買部で見習いとして働きました。

彼は当時のことをよく覚えています。

社員は朝、眠たい目をこすりながら出勤してきてお互いに挨拶もない。

死んだ魚のような目で仕事をしながら、休憩中には同僚や社長の悪口、会社の制度に不満を並べている。

マネージャーは社員が時間通りに作業を進めているか監視し、できていなければ罵声を浴びせる。

この夏の間だけでも、何人もの優秀な人材が会社を辞めていくのを見ました。

「なぜこのようなことが起こるのか?」

「どうすれば従業員がもっと意欲的に働ける会社になるだろうか?」

「これはトップダウンによる管理型の経営スタイルに問題があるのではないか?」

当時21歳だったリカルド・セムラーは、こう考えました。

「我々は会社の外では、家を買い、ローンを組み、子供を育て、交通ルールを守る大人なのに、なぜ会社になった途端、管理や監視が必要な子どもみたいに扱われるのだろうか?」

これらの状況を変えるには、コントロールをやめることが絶対的に重要だ

そう考えたリカルド・セムラーは会社を引き継いだ日から会社内にある様々な管理を外していきます。

・勤務時間自由
・勤務場所自由
・服装自由
・入社1年目はどこでも好きな部署で仕事を経験できる
・重役会議に誰でも参加自由(たとえ清掃スタッフでも)

これは彼がなくした管理のほんの一部です。

これはまさに昨今、急激に進んだテレワークの先駆け。

それでも、セムコ社は平均年間成長率147%、離職率2%、社員を3000人抱える大企業に成長しました。

彼が築き上げた経営スタイルは、従来の管理型・トップダウン型とは異なり、社員による主体的な経営参画が行われる「セルフマネジメント型組織」と言われるようになりました。

世界的に有名になったセムコ社には、毎年6,000人もの人が、セムコのことを知りたいと手紙を送り、多くの新聞や雑誌が、記事にとりあげ、BBCテレビや他の多くのテレビ局も、セムコ社の特集を組みました。

また、リカルドは、他の企業やカンファレンス、慈善団体、青年会議所、スタンフォード大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、ロンドン大学経済学院、INSEADといった大学で、200回近くの講演を行いました。

これまでにセムコ社は、76の大学で事例研究の対象となっており。セムコ社の組織についてのテキストは、他の271の大学で読まれています。16人の博士号を持つ人や博士号の候補生が、セムコを論文のテーマにしました。

そんなセムコ社は何を大切に経営をしていたのでしょうか?

本を買うには高すぎる!という方のために、リカルドが述べていることを一部引用しながら、エッセンスをお伝えします。

◆人の行動を監視することは、窃盗よりも危険なことだ

現在、多くの会社ではテレワークを導入していますが、社員が何をしているのか、パソコンにソフトを入れて常時監視する会社も出てきました。

「誰かが見ていなければ、社員は仕事をしない」

この考え方は今に始まったことではありません。社員を管理するマネジメントは、過去の時代から生まれたものである。と、リカルドは考えます。

1900年初頭、大量生産型の工業化時代には、管理者と作業者にわけ、作業者がミスを犯すことを徹底的に排除するための細かいルールや監視が必要でした。

社員を管理しなければ仕事をしない。

というのは、過去のマネジメントスタイルから生まれたものである。そして、このことに対して、リカルドは異を唱えています。

「興味がある・ないだとか、会社や業務へのコミットの有無にかかわらず、責任感のある大人が、会う約束をした後で、理由もなく、それをすっぽかすなんてことあるのでしょうか? 」
「あるいは、緊急の締め切り日が迫っていて、自分の記事の提出を待って、印刷のプレスをスタートしていない状況を知っているジャーナリストが、それを無視して映画に行くでしょうか?」
「また、演劇の配役である役者達が、幕が開くのをひたすら待っている人達を、劇場の中に置き去りに、どこかにいくでしょうか?」

「そんなバカなことはありえません!人をそんなふうにしか見ない人がいるとすれば、それは非常に残念なことです!」

リカルドはさらに続けます。

「働いているのは、立派な大人です。その大人である社員が、どうして業務に支障をきたし、自分達の仕事を危うくするような行為をするというのでしょうか?」
もし仮に、社員が、工程作業が機能していようが、していまいが関係ない。という考えを持っているとすれば、それこそが問題であり、問題はずっと深刻です。もし、それが本当ならば、そのことを早い段階でわかることのほうが重要です。
人は、誰もすき好んで品質の悪い製品をつくったり、遅刻・早退したり、いやいやながら仕事をしたいとは思っていません。人は、ちゃんと理由を持って、働きます。仕事の内容に、少なくとも何らかの魅力を感じたから、収入を得る手段として、その仕事を選んだはずです。であるならば、社員がその魅力的な何かを見つけられ、かつ、その魅力を高められる組織をつくるべきです。

「社員が製品やプロジェクトに興味を持たないビジネスは、どんなものであっても絶対に成功しない」というのが、リカルドが考えるビジネスの根本原則です。

それをなるべく早期の段階で、それを見極めるようにしています。

セムコ社においては、あるプロジェクトに興味を持たない人は、自主的に辞めてもらったり、その人が興味を持てる別のプロジェクトに異動できるようにしています。

従来の管理体制のままの企業が、こうした処置をとると、混乱を招いてしまうことでしょう。しかし、この原則に反したままでいると、社員は、興味のない仕事を強いられることになるのです。

そういう状態の企業もしくはそこでつくられた製品は、まずうまくいきません。

◆自分が”やりたい”という意欲を持てない仕事は、はじめからするものではない!

リカルドは、社員は興味を持つ仕事をすれば、責任感を持って働いてくれると信頼しています。

さらにリカルドは、社員が意欲的に働くことこそが、会社の生産性アップにつながると確信しています。

「企業が発展するには、会社の利益ではなく、社員の利益を最優先すべきであるという考え方は、従来の考えに反するものかもしれません。しかし、セムコ社では、社員を最優先に考えるからこそ、彼らの中に、最高の仕事をしようとするやる気が起こるものだと信じます。
「セムコ社では、この考えが企業全体の一貫した方針として浸透しています。この方針がないとすれば、わたし達は、社員にプレッシャーを与え、文句を言っては、無理やり仕事をやらせなければならないでしょう。そして、社員に社歌を歌わせたり、サポートチームを結成して、決起大会のような集会に社員を無理やり参加させることになるでしょう。」
「社員のモチベーションを高めるためのトレーニングに、かつてないほどの時間と予算が投じられているそうです。どうして、人は自己啓発のための教育を必要とするのでしょうか?彼らにとって必要なのは、モチベーションのための教育に参加させることではなく、今やっている退屈な仕事とは異なる仕事なのです!」
「たとえば、別のポジションにアサインしたり、部門の異動でもいいでしょう。あるいは、企画会議にもっと参加させたり、雇用体系を、パートタイム、コミッション制、エージェント契約に変えてみることでもいいのです。セムコ社では、実際に、こうしたことをすべて実践し、社員にとって最善となるように、いろいろと工夫を試みています。」
「こうした試みが、円滑に実行できるのは、会社と社員の持つ相互の信頼があるからに他なりません。これまでの経験によって培われた信頼があってはじめて、社員が自らの利益を追求することが、同時に企業の目的を満たすものとなります。そして、われわれ経営陣と社員の望むことが合致したときに、その成果は倍増します。社員は、自らの満足を満たすとともに、企業の目的も満足させてくれます。そうです。社員が成功することで、企業も成功するのです。

この考え方の根本にある、リカルドとセムコ社が最も大切にする哲学は社員を信頼するということです。

マネージャーは、社員を信頼し、彼らが会社のために行なっている最も本質的な部分にだけ関与します。それ以上のことには関与しません。

最も生産性高く、幸せに働く方法は社員自身が一番よくわかっているのだから、誰が何時に到着したとか、どんな服を着て、何時に帰り、どこに行ったのかを問題視する寄宿学校のようなことは、一切しないのです。

リカルドが信頼を大切にしていることを体現したエピソードがあります。

2001年に、セムコ本社で、盗難騒動がありました。

誰かが、財布やジャケット、ラップトップ型コンピュータ、携帯電話といった私物を盗んだのです。

盗難の数があまりに多く、それは、内部の者による犯行に違いないということになりました。

誰もが非常に怒り、犯人の徹底した追及と監視カメラの設置を要請しました。

しかしリカルドを含めた経営陣は、その要請に応じることを拒みました。

「わたしは、人の行動を監視することは、窃盗よりも危険な行為だという信念を持っています。われわれは、この状況に対しても、最終的に自己管理が働き、社員自らがこの問題の対処法を見出すと確信していたのです。」

リカルドはそう話します。

仮に、セムコ社で監視カメラを設置するにしても、そのためには全社員による投票によって決定されることになります。

そうなれば、監視カメラの設置が問題の真の解決にはならないこと、また、設置することになれば、プライバシーの問題が持ち上がることは明らかです。

しかし、それでも設置するという決定になれば、個人的に同意できなくても、リカルドがそれに干渉することはありません。

なぜなら、誰もが問題に実際に向き合うことで、何が最善の策なのか知ることができるからです。

では、その問題にどう対処したのか?

実は、彼は何もしませんでした。

そのままにしておいたのです。

そうすると、その問題は自然消滅していったのです。

盗難事件はなくなり、カメラの設置をもとめる声も消え、誰もその事件への関心を持たなくなりました。

リカルドが社員を信頼したことで、問題は消え、セムコ社のデモクラシーは守られたのです。

もちろん、社員を管理・監視することによって、得ているメリットもあります。

しかしそれによって社員は信頼されていないと感じ、結果として彼らの不信感を招きモチベーションの低下、生産性の低下、最悪の場合、離職という問題を引き起こしています。

環境の変化が目まぐるしい現代において、管理スタイルは人間の思考を停止させてしまうだけでなく、上司の決めた目標や理念を強制されて、社員のやる気を削ぎ、優秀な人材がチームを離れていく原因を作り出しています。

現在の素早い変化に対応するためには、

社員のことを、仕事について何も知らない新人のように考えないこと、彼らが、責任あるおとなであることに自信を持って信頼し、コントロールを外すことで、社員が自ら考え、リーダーシップを発揮するようにすることが大切です。

◆組織における唯一のパワーの源泉は情報である!

この考え方については、次のnote記事にまとめます。

リカルドが考えるセルフマネジメント型の組織について、ウェビナーをしておりますので、考えを深める機会に活用いただければ幸いです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?