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間違った完璧主義に陥った受験生の親の話

かつて自分の主宰する中学受験塾で、こんな保護者の方がいました。

お姉ちゃんは有名塾と複数のプロ家庭教師を駆使して見事、人気上位校に合格。嬉しくてお姉ちゃんの受験体験記をブログにしました。するとブログを読んだ別の保護者の方から、中学受験に関するママ友コミュニティに参加しないかと声をかけられたのです。

するとこの保護者の方は、自身の家庭の体験談いろんなマニュアル本を読みまくり実際にお姉ちゃんの受験で実践してないことまで「こうすべきである」とコミュニティや自身のブログで書き始めました。

そして、弟の受験でもご自身の「こうすべきである」集を当てはめるようになったのです。

お姉ちゃんと弟では、朝型か夜型か、得意科目と苦手科目、努力型か要領型か、などなど何から何まで違います。ところがこの保護者の方は、お姉ちゃんの頃に実践したことに加え、ご自身の「こうすべきである」集を機械的に弟に強要しました。

・テストや問題集は3回やり直すべし(ただし、間違ったところの直しはしないまま)

・塾のクラス分けテスト対策は、これまでやった塾の教材ではなく、メルカリやヤフオク、家庭教師センターから入手した予想問題や過去問でもっぱら対策すべし

・塾の教材に入っている「知識確認テスト」や「漢字テスト」「語彙力チェック」などは、「考える勉強」ではないし、塾のクラス分けテストの応用問題に役に立たないので省略すべし

・間違った問題のうち、保護者が重要と考えるものはトイレやダイニングの壁に貼るべし

などなど。例えば、過去問だけをやらせたところで、まだまだレベルの低い状態にあるお子さんは十分に力を付けることはできませんし、壁に貼ったところで見なければ意味がありません。しかも壁に貼れる情報量には限界があります。

もちろん成績は上がりません。保護者の方は思いました。

「私としたことがおかしい」

そして、

「これは、配偶者と家庭教師がわたしのやり方の良さを十分に理解して実践してないからだ」と考えるようになったのです。

「本人が理解してないのに、機械的に3回やり直しても意味がないのでは」(配偶者)

「保護者の方が教えたり、家庭教師の方が教えたりして解き方がバラバラになってお子さんが混乱している分野が散見されます」(家庭教師)

と、周囲でやんわり指摘する声が上がりました。

するとこの保護者の方は、

「こいつらはわたしの敵だ」と、配偶者の方や家庭教師の方を人格的に攻撃したり侮蔑したりするようになったのです。

さらには受験生である弟の方にも、ハラスメント的な言葉を投げつけます。「タラタラ飯食ってんじゃねえよ。だから頭も緩くなるんだよ」「お姉ちゃんの時に比べてどんだけ手がかかってんだよ」などなど。

それだけではなく弟の睡眠も削ることに着手し始めました。食事の際には激しい言葉を投げつけられ、睡眠も取れぬまま家庭教師は休みなく訪れ、保護者は「ちゃんと聞いてるのか」と弟を締め付けます。

結局、「これではどこにもたどりつけない」「収拾がつかない」と考えた家庭教師の方は、この家庭の指導を辞することにしたそうですが、辞める直前のお子さんは、目がとろんとしていて動作がさらにゆっくりになって、おどおどとする割には周囲の言葉がうまく飲み込めなくなってる感じがしたそうです。

そして保護者の方は、家庭教師にも上から目線の侮蔑的な言葉を投げかけたそうですが「その時、薄笑いやせせら笑いを浮かべていて、尋常な精神状態ではないと感じた」そうです。

強迫性パーソナリティ障害という精神疾患があります。手段と目的を混同して自分の決めた手段やルールに固執するあまり、なかなか思うように行動の目的が達成できなくなり、意図した成果も出なくなる病気です。しかも、周りに対しては、自分の決めたルールを強要したりして攻撃的になるため、人がどんどん離れていってしまいます。

この保護者の方の場合、「自分がおかしいとわかっていても、自分の流儀やルールがやめられない」のではなく、自分がおかしいという自己に対する客観性も病識もないため、ますます厄介です。

自分の考えや行動に自信を持つことは大事です。ただし、「自分ももしかしたら間違っているかもしれない」という謙虚さを持って、周囲と健全に触れ合い、時に周囲の声に耳を傾けながら生きていかないと、「自分はどんな時にも間違ってない」という自分の無謬性を信じて疑わないワナに陥ってしまいます。




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