恋の寿命

かつてGalileo Galileiというバンドがあった。2008年の閃光ライオットで一躍人気を博し、2016年に惜しまれつつも解散したそのバンドは後にBBHFという名前で再結成し、何か最近ベースが脱退した。
まあそんな御託はどうでもよく、ひとまず以下の動画を見て欲しい。

7年も前に発表され、今更僕が取り上げるまでもない名曲である。
実際問題、僕がGalileo Galileiにはまっていたのは高校生の頃だ。当時の僕には空前のバンドブームが訪れており、[Alexandros]、WOMCADOLE、My Hair is Bad、SIX LOUNGEなどを熱心に聞いていた。そして、Galileo Galileiもその例外ではなかった。

時は流れて大学1年生。とあるサークルの旅行に参加したときの話。
そのサークルは幽霊部員やイベントのときだけ現れるといった人も多く、先輩もその内の一人だった。
先輩の名前を仮に「さくら」としておく。僕の所属していたサークルでは先輩であっても「あだ名+さん」で呼ぶのが慣例であったから、僕はその人をさくちゃんさんと呼ぶことにした。
旅行を通して先輩とは色々話したが、覚えているのは「きみ、かわいいな」と言われたことと、先輩はサークルゲームという曲が一番お気に入りだということ。後は最近彼氏と上手くいっていないこと。

そして、「きみは私のこと"さくらさん"って呼んでね」と言われたこと。

十分な理由だった。

それから一年後。
Galileo Galileiの後身であるBBHFがまだ本当に始動したばかり、Bird Bear Hare and Fish という名前だった頃、そのライブが福岡で行われるというネット記事を見かけた。
この時ばかりは、SCHOOL OF LOCK!や地下室タイムズにはまり、マイナーな音楽ばかりを漁っていた高校生の頃の自分を褒めたいと思った。その過去がなければ絶対に目にすることはなかった情報だ。
早速僕は誘いの連絡を入れた。
けれど、BBHFの曲はThe fin.よろしくUKロック特有の気だるさを纏い、The 1975やTravisに憧れている邦ロックといった感じだ。前身の頃からThe 1975のカバーをライブで披露していたとはいえ、Galileo Galileiのそれとは似ても似つかない。warbearの延長ともまた違う。だから、そういう意味では新しくて素敵な取り組みだなと思った。それに同じことをするなら何で解散したんだという話にもなる。
ただ僕があぐねているのは、Galileo Galileiが好きな先輩を誘うのにBBHFのライブは適していないかもしれないということだ。
長々と書いたが、まぁこれは杞憂で、実際は二つ返事でOKを貰えた。

ライブ当日。
待ち合わせ場所に現れた先輩は「やほー、眠れんかった」と僕の顔を覗き込んできた。
確かに、先輩の目はいつもより覇気がなく (柔らかという意味)、けれど桃色のアイラインや口紅はいつもより丁寧に引かれているように思えた。惹かれているからそう感じただけかもしれない。
地下鉄に揺られながら他愛のない会話をする。先輩がきゃーきゃー言いながら一人でバイオ7をするのにはまっているという話をしたことだけは確かだが、他は朧げだ。
ライブ会場は200~300人くらいのキャパでオールスタンディング。
演者との距離は視力0.8の僕でその顔がはっきり見えるくらいの結構な塩梅で、先輩との距離もまあ近かった。
ただ僕は先輩の横顔に見とれればいいのか、演奏に集中すればいいのかが分からず、曲間の感想とも言えないこそこそ話に終始身を委ねていた。
せっかくライブを見に来たのに、という感じもするが、本当にBBHFのライブが見たいだけなら多分僕は一人で来てる。
そんなことを俯瞰で思いながら、気が付くとライブは終演を迎えていた。

ライブ後の物販。グッズを買えばメンバーと写真を撮ることが出来るという、何とも浅ましい商売に先輩は嬉々として引っかかった。
帰り道、撮った写真を見ながら上手く笑えなかったとか、前髪の調子がとか嘆く先輩に返す言葉が思いつかなかった。すると、
「きみって私に似てるね」
と先輩が言った。
先輩曰く、あまり感情が動かないらしい。それ故、他人の一喜一憂にどう対応すればいいか分からないという。
写真写りの後悔を絶賛だだ漏らし中の先輩がそれを言っても説得力がないなと思ったが、卒業式で泣けなかった (もらい泣きはしたらしい) というエピソードを追加で披露され、じゃあそれは僕じゃんとなった。
とはいえ、喜怒哀楽じゃ表せない感情が常時渦巻いているこの状況で、僕と先輩が同じだと言い切るにはいささか無理があった。
加えて僕はミステリアスだとか、猫っぽいとか、クールとか言われることが多いけれど (言うことなさすぎてということなら優しいとか言っておけばいいし、全部別の人からの評価なので合ってると思う)、それは感情が動かないわけではなく、機敏に動くそれをアウトプットするのが苦手なだけなのだ。
そんな僕だから、先輩と違ってもらい泣きはしないし、おそらく人前で泣いたのも中学生の頃に親友の顔を誤って叩いてしまったときが最後だ。
怒ることもないし、喜と楽は本当に琴線に触れたときしか表れなくなった。好きな人と遊んでいるときとかは殊更笑顔になるけれど、それは大体皆そうだろう (相手に見惚れてしまって逆に真顔になるとかいうのは抜きにして)。

他にどんな話をしたかは忘れてしまったけれど、とりあえず流れで一緒に夜ご飯を食べることになった。
先輩は海鮮丼を、僕はブリの胡麻だれ定食を食べた。店内ではGLIM SPANKYのAll Of Usや髭男のノーダウトがBGMとして流れていて、それを基に話題を広げようとして失敗した (会話下手すぎ)。
それから特に進展はなく、会えばとりとめのない話をするだけの関係が続き、僕が別の理由でサークルを辞めてからは会うことすらなくなった。

そんなある日、元サークルの友達から最後のライブをやるから来て欲しいと誘いを受けた (後輩も誘ってくれた気がする)。
予定もなかったし、僕の好きなDEPAPEPEをするというので見に行くことにした。
終演後、お世話になっていた先輩や後輩、同期に声をかけ、帰ろうとした矢先、件の先輩とすれ違った。
そのときの僕は前髪で目が隠れていたし、コロナ禍でもないのにマスクをしていたけれど、先輩は気づいてくれて、

「わぁ、きみ久しぶり、髪伸びたね。切ってあげたい笑」

それだけ言うと、足早に去っていった。

薄っぺらい関係しか築けなかった自分を悔しいと思った。

どちらかというと苦手な性格だった。風変りなコスメが好きで、不真面目で単位は落とすし、妙に思わせぶりだし、僕の話がつまんないと怒る。でも、もっといろんな部分を知って、嫌な部分も消し去りたい過去も、全てをひっくるめて好きになりたいと思った。
何よりその人がその人である限り、他のあらゆる要素が失われようとも好きでい続けられると思った。

この先二度と会うことはないけれど、一生忘れられない人。
誰にだっているそんな人に、今後とも幸せが溢れますように。

それでは、また。

いつも応援してくださる皆さまのおかげで僕は元気です。本当にありがとうございます。