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マレーの作り話

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藤子・F・不二雄先生のいうところのSF(少し不思議な話)
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#夕方のロバ

夕方のロバ #1

「夢から覚める時、失われているのは現実の方だ。 セミが夏の終わりに鳴くのをやめる時、 失わ…

夕方のロバ #15 終話

ロバが目を覚ました時 辺りはすっかり暗くなっていて 雲の隙間から月が見降ろしていた。 慌て…

夕方のロバ #14

誰もいない湖のほとりで ------ 月が水面を泳いでいる 昨晩もその前も もう随分の間 同じ形で…

夕方のロバ #13

顔のないカエル③ ーーーーーー 操縦席を目指して泳いでいたのに、カエルは今自分がどこを泳い…

夕方のロバ #12

カエルはロバの背中から落ちて目を覚ました。 運よく多年草の葉の上に落ちることができたので…

夕方のロバ #11

顔のないカエル② -------- 記憶の中で、カエルはロバと見つめ合っていた。 カエルは見つめら…

夕方のロバ #2

その日は雨が降った。 水溜りや土のおしゃべりは止むことはなかったけれど、 ロバは誰かの話を聞きたい気分ではなかった。 アオガエルが一匹、紫陽花の葉の陰から顔を出し、 すぐにまた別の葉の陰に隠れた。 ロバは目を閉じて、鳴き止まないセミのことを考えようとしたが、 瞼の裏のセミは、すぐにまた、別の木に飛び立ってしまうのだった。 そして代わりにアオガエルが姿を現し、 目の前でじっとロバを見つめていた。 「首の短いキリン。針のないハリネズミ。甲羅のないカメ。」 雨の音が少し

夕方のロバ #3

泡の記憶 --- 私はひとつの気泡に過ぎない。 薄暗い海の中を、ゆらゆらと昇っていく気泡。 …

夕方のロバ #4

ロバは雨宿りの木の下で、 カエルがいなくなった紫陽花の葉のあたりを 長いこと見つめていた。…

夕方のロバ #5

アオガエルは目を開けた後も、しばらく山の方角を見つめたまま佇んでいた。 肩を落としている…

夕方のロバ #6

記憶のけむり① ----- 忘れることで救われたことが何度もあった しかし記憶は煙のように た…

夕方のロバ #7

記憶のけむり② ------- やがて、けむりはまた別のけむりと混ざり合い そのまた別のけむりと…

夕方のロバ #8

途中、小さな小川があり、その川を渡る時にカエルはロバの背中を借りた。 ロバの背中は思った…

夕方のロバ #9

顔のないカエル① --------- 夢を見ている。 深い海だ。真っ暗で何も見えない。 そして、何も聞こえない。 音が聞こえるという感覚がわからなくなる程、 深くて濃密な静寂があたりを包んでいる。 もしかしたら鼓膜が破れているのかもしれないと思ったが、もはや確かめようがない。 しかし、身体を圧迫する水の感覚だけが、否応なくここが「果てしない海の底」だと伝えている。 カエルは目を閉じてしまうことにした。 いや、もう閉じていると思っていた瞼を、あらためて閉じたと言った方が正