ロンバケがもたらした功と罪

 去る3月21日、日本音楽史上において重要な作品の1つが発売された。大瀧詠一の『A LONG VACATION』の発売40周年を記念した『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』だ。
81年の冬に発売された同作はその後の80年代の日本音楽シーンを司る1枚であると同時に大瀧詠一の名前をシーンに知らしめた1枚でもあるだろう。
彼の作品の特徴として詞の世界が聴き手の心を感傷的に浸らせるものがある。
「ふいにドアをとんとんノックの音がする」
「たとえほかの女の子からプレゼントされても僕はきみからのでなきゃ嬉しくないのさ」
「ぼくはまぶたの下でひそかにきみへのおもいを広げ始めます」
しかしそれでもナイアガラ作品においておよそ5年以上商業音楽的には殆ど見向きもされていなかった彼が突如売れたのはひとえに同じ感傷的な風景に色が重ねられた事だろう。それが松本隆の詞という絵の具だ。
「思い出はモノクローム色をつけてくれ」
「あの焦げだした夏に酔いしれ夢中で踊る若い輝きが懐かしい」
「もし君がぼくのように楽しみを4倍にしたいというのなら」
同じ感傷的な世界を大瀧詠一の詞だと色がついていなかったものを見事に私たちの目の前に色をつけて提示した松本隆の功績は計り知れない。
しかしそれと同時に『A LONG VACATION』がもたらした罪もまた少なくないと思う。それはその重ねられた色というものが多分に表層的なものだけで捉えられてしまう危険があり、マスの中に没落したその後来る『没個性』の時代に手を貸してしまったそんな気もするのだ。
『A LONG VACATION』このアルバムは80年代のいいも悪いも全てが詰まったそんな一作だ。

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